地球に優しいバイオガス 〜まちむら農場〜


北海道のさわやかアイスは、いかがですか? アイスのおいしい季節になりました。
そして、北海道ならではの風景は、やはりサイロ、牧場ですね。

  • (撮影:2006/5/3)


近年、札幌や近郊の牧場は、都市化の影響で減少する傾向にありますが、都心にある北大や羊ヶ丘をふくめ、郊外でも、まだ多くの牧場の風景を見ることができます*1
札幌の隣の江別市にあるまちむら農場は、1992年に市街地から郊外の篠津地区に移転しました。農場経営のほか、自社のミルクプラントで独自の乳製品の製造販売をしています。休日には、たくさんの親子連れや若者がドライブの途中このアイスや乳製品を楽しみに訪れます。

  • 農場内ひろば(撮影:2006/5/4)


農場内では哺乳舎にいる5ヵ月まで幼牛の他は、200頭の乳牛が、舎内を自由に動き回って餌を食べることができるフリーストール飼育という方法で飼育されています。

  • フリーストール牛舎(撮影:2006/5/4)


さて、乳牛は1日にどのくらいの餌を食べるのでしょう。
牛乳が出るおよそ10ヶ月間の間、毎日20~30ℓの乳を出すため、50~60kgの餌(干草や穀物)を食べ、70~90ℓの水を飲むのだそうです。
そのため、体外からは、40~50kgのフンと15~20kgの尿が毎日排出されます。
平成10年の1年間の北海道の家畜が出すフン尿は、1955万tでそのうちの70%が、乳牛からなのだそうです。ちょっと想像のつかない数字です。おいしい牛乳を出すために牛たちが、がんばった証拠なのですね。
しかし、近年の地球温暖化、フン尿の臭気、メタンガスが及ぼす環境への配慮を考え、各地の酪農地帯では、いろいろな取り組みをはじめています。

  • 牧草や遺伝子組み換えでない大豆、とうもろこしの飼料を食べる牛(撮影:2006/5/4)


そのひとつ、まちむら農場では、これらの問題を解決しようと平成12年よりフン尿のバイオマスエネルギー“バイオガス”への変換を行っています。
バイオガスとは、発酵可能な有機物資源(家畜の糞尿、生ごみ、わら、木質チップ他)を嫌気発酵(酸素のない状態での発酵)させて、取り出せる可燃性のガスです。成分は、メタンガスがおよそ60%、残りは、二酸化炭素です。

  • バイオガスプラント(撮影:2006/5/4)


ここでは、メタンガスの燃焼を利用してタービンをまわす発電機で電気を発生させ、その電気は、牛舎やミルクプラントに利用します。同時に発生した廃熱で水を温め、牛舎の温水床暖に使っています。これらは、発電の廃熱を有効利用する「コージェネレーションシステム」になっています。
この発電で、午前中にミルクプラントが使用するの電気量の3分の1がまかなえるのだそうです。

  • 1Fのメタンガスを燃焼させて発電させる発電機(撮影:2006/5/4)


メタン発酵とは、一定の温度の条件下でしか生息しないメタン菌が、バクテリアに分解された有機物を食べ、メタンガスを発生する過程を言います。

メタン発酵は、実は、牛の胃の中でも行われています*2
牛が反すうするときに、ゲップを出すのは、このためです。今のところこのゲップを集める手立てはありません。メタンガスは、二酸化炭素の25倍の温室効果をもたらすことより近年このゲップを減らそうとの研究が世界各地で行われています。

  • 2F ガスドーム(撮影:2006/5/4)


50日ほどの発酵でメタンガスと微量の硫化水素を取り除かれた液体は、消化液と呼ばれ貯留槽にためられのちに畑の肥料となります。

  • 屋外 貯留槽(撮影:2006/5/4)


農場では、このバイオガスプラントによって、糞尿の臭気や管理の問題がずいぶん解消されたとのことです。

  • 消化液の噴霧を待つ春の牧草地(撮影:2006/5/4)


このような家畜の廃棄物を使ったバイオガス施設は、酪農学園大学帯広畜産大学別海町などにも造られています。また各地でいろいろなバイオエネルギーをつくり出す研究や実践も行われています。



人間が、動物の乳を搾乳したりするようになったのは、紀元前8000年とも1万年ともいわれます。
日本では、明治の北海道開拓とともに酪農業は発展し、その後関連産業も誕生しました。牛乳が私たちにとって身近な食品として飲まれる様になったのは、戦後の学校給食の普及からです。今では、牛乳を含むいろいろな乳製品が、私たちの毎日の生活に欠かせないものとなり、食卓にたくさんの元気を運んできます。
おいしい牛乳ができました。皆さん飲んでくださいね〜。

  • (撮影:2006/5/3)


(文・撮影:北守敦子) 最終更新 2006/5/9 ver.1.0

【有限会社町村農場】


【参考文献】

  1. うんちとおしっこの100不思議』  山本文彦, 貝沼関志, 左巻健男 東京書籍 2001
  2. コーンズ・シュマック バイオガス株式会社HP (web)
  3. 乳牛と水 (十勝農業改良普及センター十勝北部支所) (web)

*1:平成15年現在、石狩管内だけでも、これらの乳製品の原料牛乳のもととなる乳牛を飼っている農家は、230戸。飼われている乳用牛は、16700頭といわれています。(農林水産省北海道統計情報事務所畜産統計平成15年2月) 

*2:牛には、4つの胃袋があります。1番目の胃(ルーメン)では、たくさんのバクテリアや微生物が存在し、口に戻す反すうでこれらをかき混ぜながら、食べ物を分解します。同時に出た水素を胃の中のメタン菌が発酵させながらメタンガスにかえます。