地震予報士の誕生は何時〜FM三角山〜




 今回ご紹介する場所は、コミュニティーFM放送局のさっぽろにしエフエムほうそう、通称三角山放送局(FM三角山)です。FM三角山では、CoSTEPが制作している「かがく探検隊コーステップ」を毎週土曜日18時から放送していますので、読者のみなさんもぜひ一度聴いてみて下さい。周波数は76.2MHzです。1998年に開局し、現在はJR琴似駅の駅前にある、洒落たレンガ造りの建物から番組を送り出しています。
 図1(FM三角山: FM三角山提供)


 さて今回は、FM三角山のようなローカルで小出力なFM放送局を利用して、北海道内で地震予知の研究が行われているというお話です。残念ながらFM三角山の電波はこの研究には利用されていませんが、他の地域のコミュニティーFM放送が利用されています。


 日本でこれまで地震予知研究と言うと、地震そのものの性質や地下の構造など、直接地震を予知する、というよりはもっと基礎的な研究が主として行われてきました。これは、地震や地下の構造について我々の知っている情報がまだまだ少ないという現実があるからです。ですから公式に地震をはっきりと予知したことはありません。


 地震の直前に地面が変形するのではないか、と昔から考えられており、特に東海地方では地震直前の地面の変形(地面の変形を地殻変動と呼び、大きな地震の後には数10cm以上変形することもあります)を捉えようと集中して観測が行われています。他の地方でも地殻変動の観測は行われています。しかし、この地震の前に起こると言われていた地殻変動も、地震が起こる前に必ず観測されているわけではありません。かなり大きな地震が起こっても、何の変化も観測されないことが少なくありません。その他にも動物の異常行動などが前兆現象ではないかと話題になることもありますが、科学的根拠は何もありません。地震の後から振り返って、あれは前兆現象だったのではないか、と言っても地震の予知や災害の軽減には何の役にも立ちません。


 ここで、有益な地震予知について考えてみましょう。地震予知が実際に役立つためには、最低3つの要素を予知できなければなりません。その要素とは、地震の起こる「場所」と「時間」、そして地震の「大きさ」です。例えば、「今後1年以内に北海道内に地震が起きる」と言えば100%当たります。しかし、これでは地震予知に成功したとは言えません。北海道内という範囲が広すぎますし、1年以内という期間も長すぎます。また、体に感じないようなごく小さな地震は毎日のように起きているので、地震の大きさに触れず地震が起きる、と言うだけでは何の意味もないのです。


 さらに、地震予知が実用化されるためには、再現性や確実性も確かめなければなりません。再現性とは、誰が観測しても同じような現象が繰り返し観測されるかどうかで、科学的検証の基本になるものです。またここでの確実性とは、地震の前にはある現象が必ず起こるかどうかです。注目している現象が起こらないからと、安心している時に大きな地震が起こってしまうと、油断していた分かえって被害が大きくなる可能性があります。このように有効な地震予知を実現させるまでには、いくつものハードルが待ち構えています。


 それではコミュニティーFM放送をどのように利用し地震予知を研究しているかをご紹介しましょう。


 その前に、ここで地震の大きさと揺れの大きさについて確認しましょう。地震の大きさは「マグニチュード(M)」で表されます。阪神・淡路大震災を起こした地震はM7.3、北海道南西沖地震はM7.8です。マグニチュードは2違うと1000倍エネルギーが違います。ですからM7の地震とM8の地震では規模が30倍以上違うことになります。南西沖地震阪神地震より5倍以上大きかったのです。一方、揺れの大きさは「震度」で表されます。いくら地震が大きくても遥か遠くで起きれば揺れはほとんどないこともあります。逆にそれほど大規模な地震ではなくとも、近くで起きれば揺れは大きくなります。また震度はその土地の地盤によっても大きく異なります。埋立地などでは通常震度は大きくなります。


 さて北海道大学では、道内に図2のような電波観測施設を6ヶ所設置しています(2006年3月時点)。この施設で毎日いくつかのコミュニティーFM局の電波を観測し、データを北海道大学に送っています。
 図2(電波観測施設: 森谷研究員提供)


 コミュニティーFM放送の電波出力は弱いので、比較的狭い範囲でしかその放送を聴くことができません。例えば、FM三角山の場合は、札幌市の外ではよほど条件が良くないと聴くことができません。ところが地震の前のある期間には、普段は電波が届かず、放送を聴けないはずの遠くの場所でも放送をキャッチできることがあるのです。ここでは、この普段は捉えられない電波を捉えることを、「電波の異常」と呼ぶことにします。北海道大学の観測点は、普段はその地点で聴けない放送局に周波数を合わせ、じっとその電波が届くのを待っているのです。


 地震の起こる数週間前から約10日前までに、観測地点での震度が大きいほど、長期間、電波の異常が観測されます。観測地点での揺れが大きいほど、早いうちから異常が観測され、異常が終わってから10日程度で地震が起こるということになります。何故地震の前に電波が遠くまで届くのか、残念ながらこのメカニズムはまだはっきりと解明されていません。この研究の歴史も浅く、現象が確かに存在するとはっきりしてきたのが数年前のことなのです。現在は、震源域(地震は地下の断層が動くことによって起こり、その断層がある地上部分を震源域といいます)上空になんらかの電波を反射させるものができるのではないかと考えられています。つまり普段電波の届かない場所に、電波が上空で反射してやってくるのではないか、ということです。


 これまでの観測から、観測点での最大震度と電波の異常が観測される期間について経験式ができてきました。この経験式を利用し、観測地点の震度が予測できるかもしれないのです。


 余談ですが、「直下型地震」と言う言葉は学問の世界では使わない言葉なのですが、都市の直下で大きな地震が起きれば大変な被害が出ることは容易に想像できます。


 今回ご紹介しているFM放送を利用した地震予知の研究では、この震度が予測できるのではないかと考えられています。震度が予測できるということは、遠くて大きな地震が起きるか、近くて小さな地震が起きるかまではわからない、ということです。しかし実際の被害は震度に大きく影響されますから、我々がまず知らなくてはならないのは震度なのです。震度が予測できるということには、大変重要な意味があるのです。


 今回は地方のコミュニティーFM放送を使って地震予知の研究がおこなわれているということを紹介しました。本文では研究紹介として概要のみを記載しました。さらに詳しいことを知りたい方は北海道大学地震火山研究観測センター森谷研究員が書いた解説を見てください。


参考:
http://nanako.sci.hokudai.ac.jp/~moriya//fm.htm
(文:ひるあんどーん)


取材協力:さっぽろにしエフエムほうそう

所在地:札幌市西区八軒1条西1丁目2−5

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