ドングリ虫、ふたたび 〜月寒公園〜





暑かった2007年の夏が終わり、豊平区の月寒公園はすっかり秋になりました。



  • (左)初秋の月寒公園 (右)コナラの木には青いドングリが (撮影2007/9/11)


【 昨年、ドングリ虫は・・・・】
 昨年の11月7日、『どんぐりころころ、「こんにちは」と言ったのは・・・〜月寒公園〜』というタイトルで、サイエンス観光マップに次のような記事を書きました(詳しくはこちら)。
『月寒公園で拾ったドングリから22匹の「ドングリ虫」が出てきました。ドングリ虫は体長1cm弱の芋虫で、シギゾウムシの幼虫です。親虫がドングリに卵を産み付けると、やがて孵った芋虫はドングリの実を食べて成長します。その後ドングリから脱出して土の中で冬を越し、シギゾウムシになります。ドングリ虫たちがシギゾウムシになるのを見届けたいと思い、土を入れたガラスびんに移したところ、みんな次々と土にもぐっていきました・・・』
あれから約1年、ドングリ虫たちはどうなったでしょうか。


【 ドングリ虫、冬を乗り切る 】
 びんのガラス越しには、ドングリ虫が自分の体の周囲につくった「蛹室(ようしつ)」という小部屋のような空間が見えます。ドングリ虫を越冬させるには、外にいるのと同じように乾燥を避け、低温を保たなければなりません。そこで、びんの土に霧を吹いて口をしっかり閉め、発泡スチロールの保冷箱に入れて自宅の地下室に置きました。地下室の気温は真冬でも零度以下にはなりません。また、湿度も60%前後に保たれています。

  • ガラス越しに見える蛹室 (撮影2007/9/27)

【春になり夏になって・・・ 】
 雪がとけた4月、地下室からびんを取り出しました。びんの壁面近くにできた蛹室では、相変わらずドングリ虫が時々動いているのが見えます。待つこと数ヶ月、7月の末にびんを開けたところ、灰色がかった茶色いシギゾウムシが土の上を歩いているのを発見しました!
 長い口吻、黒く大きな丸い目、拡大してみると足には細かい毛がたくさん生えています。ガラス面を難なく登って来られるのは、つるつるしたドングリの表面を自由に歩ける脚を持つからでしょう。 



  • ドングリ虫の成虫、シギゾウムシ(右は腹側から見たところ) (撮影2007/9/27)


 月寒公園で拾ったドングリはコナラの実だったので、私はドングリ虫を「コナラシギゾウムシ」の幼虫だと思っていました。一般にコナラシギゾウムシはコナラを、「クリシギゾウムシ」はクリを餌とするという資料が多かったためです。ところが、専門家に調べてもらったところ、この成虫はコナラシギゾウムシではなく、クリシギゾウムシであることがわかりました*1
コナラシギゾウムシが、やや幅広の体型で体に斑紋があるのに対し、クリシギゾウムシは細長く、体に帯状の模様があるのが特徴です*2。『クリシギゾウムシは北海道には分布しない』と書いてある図鑑や資料もありますが、最近は札幌でも見つかっているそうです。
 8月末までに合計5匹の成虫を確認しましたが、その後はいっこうに羽化するようすがありません。しかし、びんの壁面近くにはまだたくさんのドングリ虫が見えています。シギゾウムシは、土にもぐった翌年にすべてが羽化するのではなく、2年後、3年後にようやく地上へ出てくるものもいます。これほど長期にわたって幼虫期を過ごす理由や羽化のきっかけについては、まだわかっていない部分も多いようです。羽化の時期をずらすのは、ドングリが不作の年に一斉に羽化して共倒れになることなく、子孫を確実に残すための知恵なのかもしれません。


 さて、計算では、まだ17匹のドングリ虫がびんの中にいるはずです。もう一冬、ここで過ごすつもりなのでしょうか? 
続きは、また来年の秋にご報告します。




(文・写真 原林 滋子)

アクセス
月寒公園 豊平区美園10〜12条7〜8丁目、月寒西2〜3条4丁目
地下鉄東豊線美園駅」下車,徒歩10分
地下鉄南北線「平岸駅」又は東西線白石駅」から中央バス白石平岸線[白30]乗車,「美園11条7丁目」下車,徒歩5分  など

取材協力
札幌科学技術専門学校 自然環境学


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*1:クリシギゾウムシはクリだけでなく、コナラも餌とし、産卵する。

*2:シギゾウムシの触角は途中で折れ曲がったようになっている。根元に近い方と折れ曲がった先にある”節”の長さの比が種類によって決まっているため、ここも見る必要がある。