札幌に春を告げる水しぶき〜大通公園西三丁目〜




  雪に埋もれていた大通公園もすっかり雪がなくなりました。札幌市中心部の東西に延びるこの公園内では、ベンチ、花壇、そして噴水と春を迎える準備が急ピッチで進められています。大通り公園には、壁泉一カ所と噴水五カ所があります。壁泉とは、ビルや庭などの壁面を水が流れ落ちる滝のようなものをいいます。西二丁目にある壁泉は長さ33メートル高さ1.8メートルあり、清涼感のある「せせらぎの水音」を再現しています。また噴水は、大通り西三丁目、四丁目、七丁目、十一丁目、十二丁目の5箇所にあります。


    
(大通り西二丁目の壁泉 2007/4/29撮影)              (大通り西三丁目の噴水 2007/4/29撮影)



大通公園で一番古い噴水は】
  大通り西三丁目には、一番最初に噴水が取り付けられました。最初に取り付けられたのは、昭和37年で、地元銀行の記念事業の一環として札幌市に寄贈されました。その後、大通公園リフレッシュ工事(平成元年〜6年)に新しい噴水が取り付けられて、現在に至っています。よく見ていると、噴水がさまざまな形に変化していくことがわかります。静水面に始まり、噴き上げ→水の浅海→水柱の立ち上がり(6メートル)→水柱の分割→水柱の立ち上がり(最大10メートル、通常8メートル)→水柱の下降、そして静水面にもどるという流れになっています。この1サイクルに約15分かかります。これを145本のノズルから噴き上げる水によって作り上げられています。水はポンプでくみ上げられています。



【噴水とは】
  では、噴水とは一体どんなものでしょうか。広い意味では、池や湖などに作られた水を噴出する装置のことをいいます。また、噴出する水そのものを示すこともあります。しかし、いずれも人工的なものを示し、滝や間欠泉のような自然のものは含まれません。鑑賞用噴水の最古のものは、紀元前1000年ころとも言われていますが定かではありません。紀元前百年ころには、アレキサンドリアのヘロンが「サイフォンの原理」を応用して「ヘロンの噴水」を考案したと言われています。これには、動力は使われていません。では、どのようにして、噴水は高く上がるのでしょうか。
  今回の記事では、この「サイフォンの原理」と「ヘロンの噴水」について紹介します。


【サイフォンの原理】
  まずは、サイフォンの原理を考えてみましょう。サイフォンというと、コーヒーメーカーのサイフォン式を思い浮かべる人が多いでしょう。また、もともとの意味は、低い位置に液体を移すU字管そのものを示します。 しかし広い範囲で考えると大きく分けて三つの意味があります。
(1)コーヒーメーカーとしてのサイフォン
(2)液体(この場合は水)を一度高い位置に上げてから低い位置に移すしくみ
(3)(2)の逆で、一度低い位置に下げてから高い位置に移すしくみ
  いずれもサイフォンなのですが、実はその原理は違います。それぞれについて詳しくみてみましょう。


●(1)コーヒーメーカーとしてのサイフォン●
  サイフォン式コーヒーメーカーは、フィルターを載せてその上にコーヒー粉を載せるロートと、最初に水を入れて最終的にコーヒーの受け容器となるフラスコの大きく二つに分けられます。フラスコを下から熱することで、水が沸騰して気化して膨張し、フラスコ内の気圧が上がります。すると水(湯)は、より気圧の低いロートへと流れていきます。その後フラスコを暖めるのを止めると、フラスコが冷めてロート内よりも気圧がさがるため、コーヒーが落ちてきます。
  つまり、加熱と非加熱を繰り返すことによって、上下の気圧に変化が生まれて、水は気圧の高いほうから低いほうへと移動するのです。



  また、(2)(3)のサイフォンは、下のような図で表すことが出来ます。水の移動は、水面にかかる圧力やエネルギーの差によって決まります。


●(2)高い位置を通過するサイフォン●

  図のように、水が十分に詰まった管を使って、高い場所にある水を一端高い位置にあげてから低い場所に移すしくみをサイフォンといいます。身の回りの現象としては、灯油を別の容器に移し替えたり、浴槽や水槽の水をホースを使って、ポンプなどを使わずに別の容器に移すことなどがあります。
では、なぜ水はポンプなどが無くても、流れ出てくるのでしょうか。これは、それぞれにかかる圧力の差が問題になります。
  図に示すように、Aの水面から管Bまでの高さをh1(m)とし、U字管の出口の方Cを、入口側の液面より高さh2(m)低くします。また、大気圧をP0とし、水の密度をρとし、重力をgとします。そして、入口側Aの水面を高さゼロと考えます。つまり、基準面と考えます。そうすると、A,CのU字管にかかる圧力は、次のようになります。
P 1= P0+ρgh1
P 2= P0+ρgh1- ρgh2
  つまり、P2はP1よりρgh2だけ位置エネルギー*1分の圧力が低いため、水は、AからCに流れるのです。


●(3)低い位置を通過するサイフォン(逆サイフォン)●
  逆サイフォンと呼ばれるこのしくみは、高い場所にある水を一旦低い位置に下げてから最初よりも低い場所に移す仕組みです。原理は同じで、U字管が逆向きになっていると考えることができます。このしくみは、昔の用水路などに利用されており、金沢の兼六園から城への用水路などは、この逆サイフォンの原理が使用されています。
  基準面を先ほどと同じくAの水面とします。そうすると、Aの水面からU字管の一番深いところまでの高さをh1(m)とし、AとCの水面の差をh2(m)とします。(2)と同じようにことが出来ますが、基準点がAの水面なので、
P 1= P0
Cでは、水が流れ出てくるAと同じ高さまで、水面が上昇することができます。



【そして、噴水の原理へ】
  この逆サイフォンの原理を応用して考案されたのが、「ヘロンの噴水」です。
  へロンの噴水は、3個の容器と3本の管によって構成されています。容器は、上から受け皿と密閉容器の容器(A)と容器(B)、そして、水通し管、空気通し管、噴水管の3本です。使い方は、次のようになります。
  まず、容器(A)に水を入れ、容器(B)は空気のみにしておきます。その後、受け皿に水を注ぎいれると、噴水管から水が噴出し、噴水が始まります。ここで、受け皿に水を注ぎいれるのをやめても、噴水は止まりません。それは、噴水管から出た水は、受け皿に落ちるので、それが水を注ぎいれるのと同じ状況を生むからです。この状態で、容器(A)の水が無くなるまで、噴水は継続します。
  この時、装置の中では、どのようなことが起きているのでしょうか。基本的には、「低い位置を通過するサイフォン」と同じしくみです。力(圧力や位置エネルギー)の伝わり方は、図の赤い矢印で示しています。
受け皿から水通し管を通って容器(B)に水が流れ込むと、容器(B)の空気は、空気通し管を通って、容器(A)の水面に圧力をかけます。そのため水は噴水管を通って、外に噴き出すのです。噴き出した水は、受け皿にたまり、また容器(B)に流れていきます。
また、噴水管と水通し管の内径を変えることで、噴水の高さや継続時間を変化させることができます。




【今年も始まる】
  今年も大通公園の噴水の通水が始まりました。現代の噴水は、大掛かりで水柱の高さも高く、モーターなどを動力としています。また大通西三丁目と四丁目では、水中照明による夜間照明もあります。循環する水の衛生面も考慮されており、塩素自動注入機も導入されるなど、様々なシステムが導入されています。
  次々に変化する水しぶきの様子を見ることは、子どもだけではなく大人もわくわくするものです。「動力のいらない『ヘロンの噴水』だったらどのくらいの規模の仕掛けがあれば同様の高さの噴水を楽しむことが出来るのか。」噴水のそばのベンチに腰を下ろして考えてみるのも面白いかもしれません。

大通公園西3丁目 2007/4/29撮影)



(文・図・写真: かみむらあきこ)



 【参考資料】   
 -ガリレオ工房の身近な道具で大実験        大月書店
 -のぞいてみよう!科学の世界            札幌市青少年科学館
 -高等学校物理Ⅰ                     啓林館
 -噴水     Wikipedia
 -サイフォン  Wikipedia



 【取材協力】
  札幌市大通公園管理事務所 様
                    取材のご協力ありがとうございました。

 



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*1:物理の分野では、エネルギーとは仕事をすることの出来る能力のことをいいますが、その仕事とは「仕事=力の大きさX動いた距離」で表すことができます。位置エネルギーとは、高いところにある物が持つエネルギーのことをいいます。物はある高さがあってもそのままでは重力によって下に落ちてしまいますが、反対方向に重力と同じだけの力で支えることでその高さにとどまっていることが出来ます。その力は、物の質量と重力で表されるため、位置エネルギーは「位置エネルギー(仕事)=質量X重力X高さ」で表すことができます。