何度も利用、どうでしょう 〜平岸高台公園〜
【巨大なスロープでできた公園】
地下鉄南北線の南平岸駅で下車、改札を出て左側の出口から坂をのぼるとHTB(北海道テレビ)の社屋が見えてきます。屋上のキャラクターを眺めながら駐車場の縁を左折すると、平岸高台公園にぶつかります。
いたってシンプルな公園ですが、HTBの人気番組「水曜どうでしょう」の番組冒頭と最後のシーンの撮影ロケ地として、今や全国的に有名になりました。全体が幅約100mの巨大なスロープになっており、頂上からは札幌の中心部や手稲山を一望できます。冬はここで保育園児がそり遊びをしたり、小学校のスキー授業が行われたりします。
- 平岸高台公園(撮影:2007/2/5)
【カイロの歴史】
冬の散歩や外遊びに、カイロは欠かせません。カイロは「懐炉」と書き、もともとは囲炉裏(いろり)やたき火で温めた石を懐に入れて暖をとったことからこの名前がつきました。明治以降、麻や穀物の灰を粉末にして固めたものを容器の中で燃やすタイプや、ベンジンの気化ガスを容器の中でプラチナの触媒作用により分解し、発熱させるタイプのカイロができました。そして1978年、鉄粉を酸化反応させて発熱させる「使い捨てカイロ」が登場し、現在に至ります。
【使い捨てないカイロ】
使用後の使い捨てカイロは、ゴミとして処分しなければなりません。中身は鉄粉、バーミキュライト、活性炭などです。燃やせるゴミなのか、燃やせないゴミなのか、一瞬迷います*1。最近、「使い捨てないカイロ」があると聞き、さっそく入手しました。
- 左:使い捨てないカイロ 右:カイロの断面図
ビニール製の袋の中に、粘度の高そうな液体と金属製のボタンが透けて見えます。このボタンを袋の上から指で押してやると、中の液体がみるみる固まります。同時に熱が発生し、しばらく温かい状態が続きます。発熱がおさまると全体が白く固まっていますが、5〜6分煮沸するとまた液体に戻ります。
- ボタンを押すと、白く固まった部分が広がっていく
【中身は?】
この液体はいったい何でしょう?製品表示を見ると、酢酸ナトリウムとあります。酢酸ナトリウムは食品添加物にも使われている物質なので、万が一、袋が破れて内容物が手についても危険はありません。
【なぜ固まる?なぜ温まる?】
物質は、固体・液体・気体のいずれかの状態*2をとります。液体が冷やされて固体になることを凝固といい、このとき液体のもつエネルギーの一部が「凝固熱」として放出されます。このカイロが温かくなるのも凝固熱のためです。
固体:分子は規則正しく配列し、わずかに振動している 液体:分子は互いに引き合いながら、動いている 気体:分子は自由にはげしく運動している |
- 物質の状態
液体が凝固し始める温度を凝固点といいます。酢酸ナトリウムの凝固点は58℃、つまり室温では固体のはずです。なぜ液体のままでいられるのでしょう?また、温度の変化がなくてもボタンを押すだけで凝固し始めるのはなぜでしょう?
凝固点以下に温度が下がっても固体にならず、液体であり続けることを「過冷却」*3といいます。このとき、分子は凝固するきっかけをつかめずに動き回っています。ここで振動などの刺激を与えると小さな結晶が生まれます。すると、それがきっかけとなって分子が規則的に整列し始め全体が凝固します。
このカイロは金属ボタンを押すことが刺激となって小さな結晶ができ、全体が凝固して発熱するのです。
【もっと大きなスケールで温める!】
この酢酸ナトリウムの性質を利用して「熱を宅配する」仕組みがあります。工場やゴミ焼却場から出る未利用の廃熱を、酢酸ナトリウムを主体とする潜熱蓄熱材*4に蓄えてトラックでオフィスや病院などへ輸送し、熱エネルギーとして利用する「トランスヒートコンテナ」システムです。これまでのパイプラインによる熱供給と違って長距離を運ぶことができ、廃熱を有効利用することで化石燃料の燃焼によるCO2排出を削減する効果があります。
【小さなカイロから大きな問題を考える】
「使い捨てないカイロ」は発熱している時間が使い捨てカイロよりもずっと短く、少々頼りなく感じます。しかし、戸外で体を動かせば暖かくなるのですから、逆に短時間だけ発熱するカイロは好都合ともいえます。何より、くり返し使えるのが魅力的です。
このカイロを握りしめ、CO2の排出削減と地球温暖化について考えながら、雪まつりに出かけてはどうでしょう?(参照:雪まつりを楽しむ際にちょっと考えてほしいこと)
私はカイロを持って、平岸高台公園へ子供とそり遊びに行ってきます。
(文・写真・図 原林 滋子)
【参考リンク】