地上2万kmからの受皿 〜札幌市立星置中学校〜




札幌市立星置(ほしおき)中学校に電子基準点が設置されているのをご存知ですか?星置中学校は、小樽市との境界に近い手稲区星置にあり、2000年に開校した新しい中学校です。
星置中学校正門)


 この星置中学校の駐車場の一角に、国土地理院が電子基準点を設置しています。歩道のすぐ近くに設置してあるので、誰でも見ることはできますが、電子基準点を知らない人はすぐ見逃してしまうほど地味な存在です。
(写真中央付近の矢印の先に電子基準点があります)


 電子基準点はGPS観測を24時間連続で行っている固定点のことで、日本全国に平均約20km間隔で約1200点設置されています。北海道内には約170点設置されています。札幌市には北方自然教育園星置中学校の2ヶ所にあります。電子基準点の外観は設置年度によって異なります(1)。
(電子基準点)


 大きな地震が起こった後などに、「○○が東に何cm移動しました。」といったニュースが発表されますが、このような地殻変動の基礎データを収集しているのが電子基準点です。このデータは、プレート運動によって日本がどの方向にどれくらい押されているか、などを知るために重要なデータで、1995年の阪神大震災以降に電子基準点の全国的な整備が進みました。また現在は土地の公共測量にもGPS測量機が使われており、公式の測量成果を得るため、電子基準点の情報が利用されています。


 「GPS」という言葉はすでにさっぽろサイエンス観光マップでも数回登場しています。Global Positioning Systemの略で、日本語では汎地球測位システムまたは全地球測位システムと言います。GPSアメリカ国防総省が軍事用として打ち上げたGPS衛星からの信号を受信し、位置を測定するシステムです。信号は軍事用と民間用があり、私達は故意に精度を落とした民間用を利用させてもらっています。GPS観測は天気には左右されませんが、ビルの陰やトンネルの中など空を見渡せない状況では利用できません。私達に一番身近なGPSを利用したものといえば、カーナビでしょう。最近では携帯電話にもGPSが内蔵されています。ではこの原理はどのようなものなのでしょうか。


 現在GPS衛星は、高度20000kmの軌道上を4つのグループに分かれて30個が飛行しています。各々の衛星の位置は予め正確にプログラムされており、しかも毎日軌道を測定し微調整しています。また各衛星には非常に正確な原子時計が搭載されており、地球に送られる信号には時刻情報が含まれています。位置が正確に分かっている衛星から、非常に正確な時刻情報を地上で受信すると、到達時間によって受信点から衛星までの距離が分かります。1つの衛星からの距離が分かると、その衛星を中心とした球面上に受信点があることになります。このように考えると、原理的には3個の衛星からの距離が分かれば地上の1点が決まります。しかし実際は大気などの影響によって、衛星からの信号が遅れるのでその遅れを計算するために4個の衛星からの信号を受信しなければなりません。もちろん4個以上の衛星からの信号を受信し、また長時間観測するほど位置の精度は高くなります。数学的に、空間座標X、Y、Zの3個の未知数と、遅延時間Tを合わせた4個の未知数を求めるため、最低4個の衛星からの情報が必要と考えても良いでしょう。


 このように一つの受信機によってGPS観測された場合、受信点位置の精度は最高で数cm程度です。また受信点を2ヶ所にしてその間の相対距離の変化を求める場合は、数mmの精度で変化を求めることができます。電子基準点を利用した地殻変動の検出は後者の場合です。しかしこのような精度で求められるかどうかは、アメリカの気持ち1つなのです。GPSアメリカの軍事衛星ですから、戦争時などは故意に誤差データを混入させ精度を落とすことができます。例えば、湾岸戦争時は誤差を100m程度まで大きくしたそうです。現在GPSが当たり前のように利用されていますが、平和だからこそ、なのです。


 電子基準点は道の駅や公園にも設置されていますので、読者のみなさんも発見してみてください。


 最後に問題を1つ。GPSはトンネルの中では使えないと書きましたが、カーナビではトンネルを通っているときも自分の位置を表示しています。どうしてそのようなことが可能なのでしょうか?答えは書きませんが、考えてみてください。
(文、写真:ひるあんどーん)


参考
(1) http://terras.gsi.go.jp/gps/gps-based_control_station.html


星置中学校には快く取材を受諾していただきました。ありがとうございました。

札幌市立星置中学校:札幌市手稲区星置3条5丁目13-1


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