開拓使の星、札幌の星 〜札幌 時計台〜
札幌の古い建物を訪ねて歩いていると、赤い星のマークがついた建物に出会うことがあります。札幌時計台もその一つです。
- 札幌時計台の星のマーク
同じ星のマークは、旧北海道庁(赤レンガ庁舎)や豊平館、サッポロファクトリーにも見られます。これらの建物はすべて開拓使(明治の初めに北海道の開拓を進めた官庁)が建造したという共通点があります。この赤い星は北極星を表していて、開拓使のシンボルマークでした。
星型は正五角形と5つの二等辺三角形を組み合わせた図形です。この星型は数学的にも特別な性質を持っていることが知られています。
例えば、星型の頂点をつくる5つの二等辺三角形の底辺と、残りの二つの辺の長さの比は、黄金比*1と呼ばれる特別な値になります。
また、正五角形の頂点の対角線をとるとその中に星型ができます。さらにその星型の中にある正五角形の頂点の対角線をとると、また星型ができて、無限にこれを繰り返すことができます。
このときできる辺を長い順からたどってゆくと、長い辺とその次に長い辺の比が常に黄金比となります。
- 正五角形と星型の関係:AとBの比、BとC、CとDの比・・・が常に黄金比となる
5つの頂点を共に持つ、星型と正五角形は黄金比という特別な数で結ばれていて、神秘的な美しさを持っています。
ある日、壁に貼った札幌の地図をぼんやりと見ていたとき、私は驚くべきことに気がつきました。
赤い星の付いた、開拓使が開いた5つの建物(札幌駅、時計台、旧北海道庁(赤レンガ庁舎)、豊平館(建設当時は現在の札幌市民会館の位置にありました)、サッポロファクトリー(開拓使麦酒醸造所))が、なぜか美しい星形に配置されていることに気づいたのです。
- 赤い星が付いた開拓使の建物は星形に配置されていた!
なぜ、開拓使は赤い星をつけた建物を札幌の街に星形に配置したのでしょうか。
それは、日本に古来から伝わる陰陽道と関係があります。陰陽道では、星形は「五芒星」とよばれ、魔除けの印として伝えられてきました。開拓使は北の地に新しい都を築くにあたり、この街に災難や天災が降り掛かる事がないようにと祈りを込め、赤い魔除けの星をつけた5つの建物を、さらに星形に配置することで札幌の街に結界を張り、二重の魔除けとしたのです。
そして、この「5」という数は、不思議なことに自然の中にもよく見られる特別な数なのです。
例えば、ヒトデや桜の花も、5つの頂点をもつ星型です。人間の指の数も5本です。地球には5つの大陸があります。さらに宇宙へ目を広げると、太陽系の、地球より内側の大きな天体も、太陽、水星、金星、地球、月の5つなのです。
自然のあらゆる場所に「5」という数字が見られる事は、きっと、ある深遠な真理を示しているに違いありません。
すなわち、「5という数字は、万物をつかさどる、宇宙の根本原理と関係している」 ということです。
その証拠に、今日の日付にも「5」が隠れています。
今日は2007年4月1日で、7−2=5、そして4+1=5になるではありませんか!!
エイプリルフールとはいえ、ひどいウソ八百の記事を書いてしまって、ごめんなさい。
上の文章を読んでいて、「へぇー」とか「うんうん」といった感じから、「え?」「あれ?」という感じに変わったところがきっとあると思います。それは、あなたが「ウソ」に気がついた瞬間です。
でも、この記事が何の前置きもなく、いつものように「さっぽろサイエンス観光マップ」の中にまぎれ込んでいたら、あなたはこの「ウソ」に気づくことができたでしょうか。
私たちは毎日様々なメディアからたくさんの情報を受け取っています。誰かの手を経た情報は、情報を送る側の視点で切り取られ、私たちのもとに届きます。このとき、情報の送り手が、情報の受け手(つまり、あなたのことです)をだまそうとして情報をゆがめて伝える事があります。
これが「ウソ」で、単なる「誤り」(間違っているが、だますつもりはないもの)とは異なります。
あなたが信じておきたい話やおいしい話、ネットやテレビや雑誌で見た話や、どこかのえらい人や有名人や科学者がしている話の中にも、あなたをだましてふりまわすための「ウソ」が含まれていることがあります。
上の「ウソ」の記事では、最後の「5は万物の根源となる数である」という、かなり無理のある主張をもっともらしく見せるため、いくつか「演出」をおこないました。
最初の方で述べた、星形と五角形の辺の間に黄金比の関係が見られることは事実です*2。
一見、科学の解説のようですが、この話をした本当の目的は、「ある日、壁に貼った〜」以降の「ウソ」に、あたかも科学的な裏付け(と神秘性)がありそうな雰囲気を漂わせることです。ここまでの説明ではウソはついていませんが、「特別」とか、「神秘的な美しさ」とか、主観的な言葉をあえて入れています。
書き手の主観と、客観的な事実とは、しっかり切り分けて読まないとだまされやすくなります。
「開拓使の建物が星形に配置されている」のは「ウソ」です。
この「ウソ」を強調するため、星形に合わせて建物を置いた、「ウソ」の地図を作りました。
目に直接飛び込んでくる図や写真や映像は、直感に強く訴えるため、読み手が自ら考える事をおろそかにさせる力があります。
実際には、建物は星形に並んでいないことが地図を調べるとすぐにわかります(下の矢印のアイコンをクリックすると本物の地図と建物の配置が見られます)。
もちろん、開拓使は星形を都市や建物の魔除けとして使っていたわけでもありません。
- 上の矢印をクリックすると建物の本当の配置が見られます
(Google Maps Line Saverを使用しました http://blog.zuzara.com/?p=20)
「なぜ、開拓使は赤い星をつけた建物を札幌の街に星形に配置したのでしょうか」という問いには、ひっかけがあります。
「開拓使の星の付いた建物」と「建物が星形に配置していること」との間には関連が全くないのに、この二つに強い結びつきがあり、「開拓使が赤い星をつけた建物を星形に配置した」ことを、事実のようにあなたに思わせるための問いかけです。
あなたの身近でこのような問いかけがあったときには、その意味をよく考えてみる必要があります。
最後の、自然界に「5」という数がたくさん見られるという話も、語り手の主張をもっともらしく見せるためのこじつけです。
都合の良い事実(この場合はたまたま「5」が含まれる自然の事象*3)を選んできてたくさん並べると、偶然の一致にすぎないことが、まるで共通の原理で結ばれているかのように見えます。
(「5」のかわりに、「6」や「7」でも同じような話を組み立てる事だってできるはずです)
私たちはもっともらしい話をついつい信じてしまいます。そんな自分を、まず注意深く疑ってみることからはじめてみましょう。
情報をまるごと信じてしまう前に、ひと呼吸置いて、ほんのちょっと考えてみる、調べてみるというひと手間をかけてみると、怪しい「ウソ」に気づく瞬間があるかもしれません。
また、上の「ウソ」の記事を読んでもらった時のように、ちょっと疑いながら情報を読み、情報の送り手の真の思惑を考えることも「ウソ」に気づく方法のひとつです。
さて、あなたの眉はまだ濡れたままでしょうか。
私が「ウソ」の記事のあとに書いた事を、もう、うっかり、まるごと信じちゃったりしていませんでしたか?
(もちろん「ウソ」はついていないつもりですが、「誤り」はあるかもしれません)
そう、だれかがついた「ウソ」を見抜くのは、あなたの眼力が最後の頼りなのです。
(文・図・写真:佐藤登志男)
【アクセス】
- 所在地
【参考リンク】
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/nisekagaku/index.html
- 北海道人 北の星ヲメザシテ
http://www.hokkaido-jin.jp/issue/sp/200603/sp_01.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/陰陽道
http://ja.wikipedia.org/wiki/五芒星
【参考文献】