鉄筋とコンクリートのいい関係 〜札幌市資料館〜


大通公園の西の端、テレビ塔の正面に札幌市資料館があります。


  • 札幌市資料館の外観 (2007/2/26 撮影)


札幌市資料館は、もともと控訴院(裁判所)として建築された建物です。
現在、裁判所機能は移転し、資料館には札幌市や裁判に関する資料展示室や、
市民が使用できるギャラリーが置かれています。


  • 入り口部分のアーチ。「札幌控訴院」という文字が彫られています。その上には目隠しをした女神像 (2007/2/26 撮影)


この建物には、札幌軟石(軟石記事へリンク)とレンガが使われています。
古い建物のように見えますが、資料館には近代的な建築手法が取り入れられていることをご存知ですか?
実は資料館には、今では当たり前になった「鉄筋コンクリート」が用いられています。
鉄筋コンクリート技術が確立したのは1887年*1のことです。
札幌市資料館が建築されたのは1926年(大正15年)*2
当時の最先端を行く建築手法でした。


■鉄+コンクリートで鉄筋コンクリート


ここで、鉄筋コンクリートにはどのような性質があるのか、そしてなにが利点なのかを考えてみましょう。
コンクリートとは、砂や砂利などをセメントペースト*3で結合させた*4もので、私たちの身の回りの様々な場所で使われています。
コンクリートには「圧縮する力」に強いという長所があり、安定した構造物を作ることができるので、
橋や道路、建築物などに使用されています。


鉄筋コンクリートは、このコンクリートの中に鉄の芯をいれたものです。
鉄の芯を入れると、なにかいいことがあるのでしょうか。


■短所を互いにカバーする関係


万能に思えるコンクリートにも、実は短所があります。
コンクリートは、圧縮されることには強いのですが、「引っ張る力」=引っ張られることには大変弱いです。
もちろん私たちが引っ張っても平気ですが、強い力で引っ張ると、
コンクリートにはひびが入り、しまいには割れてしまいます。
地震のときなどには、縦や横に引っ張る力がはたらきます。
コンクリートだけで橋などを作ってしまうと、地震のときにぼきりと脚が折れてしまう可能性が高くなります。
そこで、引っ張られることに強い「鉄筋」をコンクリートにいれたものが、鉄筋コンクリートです。


鉄筋には、引っ張られても粘り強く、ひびが入りにくいという長所があります。
この鉄筋の長所で、コンクリートの短所をカバーしているのが鉄筋コンクリートです。
圧縮されることにも、引っ張られることにも強い素材といえるでしょう。


  • 鉄筋が入ると壊れにくくなる。*5


しかし、もちろん鉄筋にも弱点はあります。
鉄は酸化すると酸化鉄(さび)になりもろくなってしまうので、風雨にさらされることが苦手です。
鉄筋コンクリートは、鉄のまわりをコンクリートが取り巻き、鉄筋を風雨から守っています。


鉄のおかげで引っ張りに強くなり、コンクリートのおかげで強度が長時間保てる。
鉄筋コンクリートは、二つの素材が互いの弱点を補い合っている建築方法です。


地震のある国に住む私たち


札幌市資料館が建築された年の直前の1923年、関東大震災がおこりました。
資料館の建築計画はそれ以前にすでにできあがっていましたが、
大震災の被害報告を受けて計画を変更し、鉄筋コンクリートを取り入れたそうです。


資料館は100年以上の歴史を超えて、大地震の恐ろしさを語ってくれている気がします。


(文・写真・図 宮本朋美)

【アクセス】

【参考文献】

  1. 図解雑学コンクリート 浅賀栄三 著 ナツメ社
  2. やさしい鉄筋コンクリート工学 川口直能 著 東洋書店
  3. 基礎から学ぶ鉄筋コンクリート工学 藤原忠司・張英華 著 技法堂出版

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*1:ドイツのケーネンがはじめて理論を発表しました。

*2:日本にはじめて鉄筋コンクリート構造の橋が竣工したのが1903年です。

*3:セメントは、水に反応すると固まるという性質を持った物質です。このセメントと水を混ぜたものがセメントペーストです。

*4:セメントは水によって固まります。コンクリートでは、セメントが固まる時に混合した砂や砂利も一緒に固まらせます。

*5:図中では鉄筋がコンクリートの下側に入っていますが、実際には下側だけではなく、上側にも鉄筋を入れます。様々な場所から力がかかることがあることや、表面のひび割れを防ぐためです。