サイロで作る漬物 〜北大モデルバーンのサイロ〜

 北海道大学のモデルバーン*1に旧札幌農学校時代の塔型のサイロが残されている。このサイロは国内で2番目に古いサイロとのことである。さて、塔型のサイロはここに限らず道内各地にあり、北海道の代表的な風景の一つになっている。サイロの役割は、牛に与える牧草の貯蔵以外にも、牧草を発酵させる役割も担っている。しかし最近では塔型のサイロはあまり使われなくなり、代わりに牧草をラップで包んだ「ロールベール」などがよく使われるようになってきているようである。


  • 北大第2農場に現存する塔型のサイロ


■サイロの役割


 サイロでは牧草を発酵させることで、サイレージと呼ばれる牛のエサを作っている。サイレージは牧草を乳酸発酵させたものである。しば漬けやぬか味噌漬のように発酵したタイプの「つけもの」のようなものである。牧草をサイレージにすることにより、長期保存が可能になったり、牛の食欲が増したりするそうである。
 乳酸発酵しやすいように、温度や湿度などを調整する役割をサイロが担う。また密閉して外部の空気と遮断することにより、牧草が酸素に触れないようにしている。これは、乳酸発酵を担う乳酸菌が、酸素が無い環境で活発に活動するためである。なお、乳酸菌などの微生物が行うような酸素を用いない呼吸を「嫌気(けんき)呼吸」とか、「無酸素呼吸」などという。(なお通常の酸素を用いる呼吸は「好気(こうき)呼吸」と呼ばれる)。環境を嫌気状態にすることで乳酸菌が活発に活動するようになり、牧草の発酵が進むようになっている。
 乳酸菌は糖を分解して乳酸を作る働き(乳酸発酵)をする。乳酸が増えることにより牧草が酸性度を増す(pHが下がる)ことで、腐敗の原因になる菌の活動が抑えられ、サイレージは安定して貯蔵できるようになる。そのとき、十分に酸性になるようにする(pHを下げる)ことが好ましいそうである。なぜなら腐敗の原因になる菌が十分減っていない状態でサイレージをサイロから出すと、酸素を好む菌の活動が活発になり、サイレージの品質を悪くするためである。


  • ぬかみそ漬けやシバ漬けのように、牧草を乳酸発酵させてサイレージを作る


■ ロールベール


 牧草をラップで包んだものでも、塔型のサイロと同様にサイレージを作ることができる。これをロールベールと呼んでいる。北海道を旅すると各地で、ラップに包れた大きな飴玉みたいな物体(短い円柱状の物体)が草原に点在している風景を見ることができるが、それらがロールベールである。これは刈り取った牧草をラップでグルグル巻きにすることで内部を密閉し、塔型のサイロと同じ役割を果たしている。

現在ではロールベールの他にもリンク先にあるような、いろいろな方式のサイロが使われている。昔ながらの塔型のサイロは北海道の代表的な風景であるが、設備投資や維持費がかかるため現在ではあまり使われなくなってきているそうである。


  • 積み上げてあるロールベール。北海道の各地で見ることができる。

【住所】
北大構内 北19条西8丁目


【公式サイト】
北大再発見CAMPUS TOUR
モデルバーン
http://www.hokudai.ac.jp/bureau/populi/edition04/campus-tour.html


【リンク】

雪印種苗(株)技術研究所
サイレージ発酵の過程と乳酸菌の役割
http://www.snowseed.co.jp/bokusou_engei/magazine/01_03/01_03_04.pdf


中央畜産会 「畜産ZOO鑑」
サイレージの作り方といろいろなサイロ
http://zookan.lin.go.jp/kototen/rakuno/r222_2.htm


(文・写真:宮下友則) 最終更新:2006/6/19 ver. 1.1

*1:モデルバーン バーン(barn)とは畜舎のことで、クラーク博士が北海道農業の模範(モデル)となるようにモデルバーンと呼んだことが名前の由来。現在では札幌農学校第2農場の総称となっており、見学は建物の外側だけ可能である。畜舎以外にも建物が残っており、サイロは牧牛舎に隣接している。なお札幌農学校第2農場は重要文化財に指定されている。