都心の雪は、都心で融かす〜都心北融雪槽〜




JR札幌駅北口駅前広場で、「融雪槽等表示板」という看板を見かけたことがある人はいませんか。実は、この付近一帯の地下には、雪を融かすことができる融雪槽があります。都心北融雪槽と呼ばれるもので、平成10年2月から使用されています。常時稼動しているわけではありませんが、運がよければバスや車がほとんどいない夜中に、ダンプトラックによって運び込まれた雪が次々に投雪口に飲み込まれていく様子を見ることが出来るかもしれません。この施設では、一晩で4000立方メートル(大型トラック約280台分)の雪を処理することが出来ます。
では、この雪は、どのようにしてトラックに積み込まれ、駅前広場に運ばれてくるのでしょうか。

(札幌駅北口駅前広場 2007/2/17撮影)

(都心北融雪槽への雪の搬入の様子 写真提供:札幌市建設局雪対策室)


普段私たちは、車道や歩道が雪で覆われると交通の妨げになるので、雪を邪魔にならない場所に寄せます。「雪かき」「雪はね」「除雪」など様々な表現の仕方があります。しかし、トラックに雪を積んで運ぶことは、「除雪」とは言いません。それは、「排雪」といいます。「除雪」と「排雪」は、違う作業のことをいいます。


【除雪とは】
「除雪」とは、先に説明したように道路の雪をかき分けて道路わきに寄せる作業のことをいいます。
札幌市の場合市が除雪するのは、除雪機械が作業可能な幅の道路を対象としています。そして、目安として雪が10cm以上積もったときに深夜0:00〜朝 7:00までに除雪を行うことになっています。もし札幌市全域に雪が降れば、市内一斉に除雪を行うことになります。一晩で除雪される距離は約5200kmとなり、札幌から鹿児島まで行って、函館まで戻ってくる距離に相当します。除雪は、写真のような除雪ドーザー(タイヤショベル)で行います。一台で一晩(約6時間)で約10km進むことができます。

除雪ドーザー(タイヤショベル) 写真提供:札幌開発建設部 札幌道路事務所)


【排雪とは】
「排雪」は、「除雪」によって積み上げられた雪山を雪たい積場や、融雪施設に運ぶことをいいます。こちらは、多くの機械と作業者と費用がかかります。そのため市が行う範囲は、幹線道路や一部の通学路に限定されています。*1排雪では、グレーダー、バックホー、除雪ドーザー(タイヤショベル)、ロータリー除雪車、ダンプトラックという5種類の機械が必要です。まずは、バックホー、除雪ドーザーによって、道路脇に積まれて硬くなっている雪山を崩し、ロータリー除雪車が作業しやすいように整えます。その後、ロータリー除雪車によって待機しているダンプトラックの荷台に、吹き付けるようにして雪が次々と積み込まれていきます。一台のトラックいっぱいに雪が積み込まれるための所要時間は、たった15〜30秒です。しかも、ロータリー除雪車は、スクリュー部分に雪を巻き込みながら少しずつ前に進みます。トラックも除雪車に合わせて、雪をきちんと積み込めるように同じ速度で前に進んでいきます。それは、絶妙なタイミングです。その後をグレーダーが道路の表面の氷や雪を削り取りながら、整地していきます。流れ作業で進んでいく排雪作業ですが、一日で約2kmしか進むことが出来ません。

(除雪用機械とはたらき 写真提供:札幌開発建設部 札幌道路事務所)


【トラックに積み込まれた雪のゆくえ】
この、トラックに積み込まれた雪が、融雪槽に運ばれてきた雪です。しかし、全てが融雪槽に運ばれるわけではありません。大きく分けて「雪たい積場」と「融雪施設」の2種類の場所に運ばれます。


● 雪たい積場とは
たい積場とは、運んだ雪を積み上げておく場所です。ここで自然に融けるのを待ちます。札幌市では、82ヵ所(平成18年度)の雪たい積場を設置しています。ここに運ばれる雪は年々増え続けていて、現在ではひとシーズンで、札幌ドーム約14杯分にもなります。
しかし、雪たい積場は、広い土地であればどこでも作れるわけではありません。なぜなら、河川のそばなど雪が融けたときに水の処理が出来る場所であることや、トラックなどの騒音など住民の生活への配慮等も必要だからです。そのため、年々場所は郊外化しており、平成16年度からは隣接する市や町にも広がっています。そのため、札幌駅から10㎞以上離れているたい積場は30年前には約7%だったのが、今ではたい積場全体の45%以上になっています。その結果、トラックが運搬する距離は年々長くなり、作業効率の低下、道路の渋滞、排気ガスの増加など様々な問題が起こっています。



● 融雪施設とは
そこで、たい積場が少ない都心部での処理施設として作られたのが、現在9ヶ所ある融雪施設です。融雪施設とは、大きな水槽を作って水を入れて、そこに雪を運び、その中の水で融かして、下水道や川に流す施設です。雪を融かすには、高温は必要ありません。下水処理水や下水の水温は、13〜15℃ありますから、雪を融かすには充分な温度です。ですから、隣接する下水処理場の処理水や下水道の水をそのまま利用することが出来ます。また、清掃工場のごみ焼却炉の焼却熱(排熱)を利用して、水槽の水を温めている施設もあります。*2


では、最初に紹介した札幌駅北口広場の都心北融雪槽はどうでしょうか。近くには、下水処理場もごみ焼却施設もありません。そのためここでは、併設されている地下施設の冷暖房プラントの熱を使って、水槽の水を温め、雪を融かしています。他の施設と違い、排水や排熱という未利用エネルギーを利用しているわけではなく、エネルギーを購入しているのです。経費はかかりますが、処理対象は札幌駅を中心とした市街地のため、排雪用ダンプトラックの移動距離と移動時間は大幅に短縮されます。また、比較的早く排雪が進むめに道路の幅が狭くなるなどによる渋滞が避けられるなどのメリットのある施設です。都心北融雪槽は、図のようなしくみになっています。プラントの熱で暖められた融雪槽内の水によって融かされた雪は、隣の沈殿槽に流れそこで沈殿物が取り除かれます。上澄み液が次の排水槽を通り、最後は直接下水道に流されます。また、融雪の必要ない夏期には、災害時の防火用水槽として利用されています。

(図:都心北融雪槽の模式図)



【冬の生活も便利になったけれど】

札幌で機械による除雪が始まったのは、第二次世界大戦後の1946年です。当時進駐していたアメリカ軍からブルドーザーなどの除雪機械を借りて行ったのが始まりです。それでも、排雪は人の力でトラックに積み込んでいました。1958年にはロータリー除雪車によりトラックへの積み込みも人の手から機械へと移っていきました。そして、現在のような除雪体制が強化されるようになったのは、1967年です。それは、前年に冬季オリンピック開催地に札幌が決定したからです。当時、除雪作業が大幅に見直され、除雪車を400台用意したり、きめ細かい除雪体制を整えたりして、札幌冬季オリンピックを迎えました。
まだまだ充分とは言えませんが、除排雪体制は非常に整ってきました。そのおかげで都心部では、冬でも雪道の不便さを感じなくても過ごせるようになってきています。しかし、札幌市だけでもひとシーズンで、約145億円の雪対策予算が使われています。また、たくさんのトラックや機械を使用しなくてはいけないため、大気汚染や交通渋滞などの問題が生じています。さらにそれを解消するために、融雪槽の建設が必要となるなど、様々な問題の上に成り立った便利さであることを、忘れないようにしたいものです。



(文・図・写真: かみむらあきこ)

  • 【住所】   札幌市北区北7条西3丁目(JR札幌駅北口駅前広場)
  • 【アクセス】 JR札幌駅北口から 徒歩1分

 【参考資料】   
 -さっぽろ雪の絵本        札幌市建設局管理部雪対策室
 -さっぽろの融雪槽        札幌市建設局管理部雪対策室
 -ウエブシティさっぽろ 札幌の雪対策
 -札幌開発建設部 札幌道路事務所ホームページ


 【取材協力と写真提供】
  札幌市建設局 雪対策室計画課 様
  北海道開発建設部 札幌道路事務所 様

  取材および写真の提供のご協力ありがとうございました。

 

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*1:それ以外のいわゆる生活道路については、地域単位で排雪を行うことができます。札幌市では、「パートナーシップ排雪制度」といわれる制度があります。これは、地域単位の生活道路の排雪を行うもので、市民と市の双方が費用を出して、業者を含めた三者が協力しながら行うものです。

*2:現在札幌市には、下水処理水を利用する施設が4箇所、下水を利用する施設が3箇所、清掃工場のごみ焼却熱を利用する施設が1箇所あります。