僕もラジオ 〜『かがく探検隊コーステップ』FM 76.2MHz〜

JR琴似駅の北口にある古いレンガの建物は、コミュニティFM三角山放送局のスタジオです。
すぐ隣の40階建ての高層マンションの屋上には送信アンテナがあり、地域に密着した数々の番組が発信されています。


 

  • 2006/4/1正式オープンの三角山放送局の新スタジオ「レンガの館」。バリアフリーのつくりになっており、イベント用のスペースもあります。 (撮影:2006/4/8)


三角山放送局では、CoSTEPのラジオ番組作成チームによって作られている「かがく探検隊コーステップ」という番組を放送しています。


そして不肖わたくし、その1コーナーに出るはめになりました。
そのコーナーとは、「教えてサイエンス観光マップ」。
「さっぽろサイエンス観光マップ」の作成メンバーが、これまでにwebにのせた記事の中からいくつかを紹介していくコーナーです。


 


収録は北大の情報教育館のスタジオで行われました。
スタッフの皆様に助けられ、キンチョーしつつも、「札幌飛行場」を紹介した収録は終わりました。
そしてうまくとれたかどうか録音を再生させると・・・


「ななななんだこの声は・・・ orz」


録音された自分の声をはじめて聞いた時、いつも自分が聞いている声とずいぶんちがうことにおどろいた記憶は誰にでもあるでしょう。
なぜこのようなことがおこるのでしょうか?
今回は、このような私の体験から、音を聞くしくみ、「聴覚」に関するサイエンスを紹介します。




■声の伝わり方と聞こえ方


音とは、ものが振動することで生じ、伝わっていくものです*1
声はノドにある声帯で生じ、空気を振動させて、伝わっていきます。


伝わっていった音をとらえるのが耳です。
空気の振動が、耳にある聴細胞によって、電気信号にかえられます。
そして神経によって、脳へと電気刺激が伝わり、そこで音と言う感覚が生じます。


  • 音のできかた、伝わり方、とらえ方の模式図。声帯が振動して声が生まれる。空気の振動が耳にまで達する。耳は外耳・中耳・内耳からなり、内耳にある聴細胞が、振動を電気信号に変え、聴神経によって脳へ伝わる。


どのように声が伝わり、とらえられるのか、ちょっとした実験で体験してみましょう。
扇風機にむかってしゃべると、ふるえた声が聞こえます。
でも耳をふさいでみると、声自体は聞こえますが、ふるえがあまり聞こえなくなります。


これは、扇風機によって音がふるえてしまう伝達ルート(耳をふさぐと断たれてしまうルート)と、
扇風機ではかわらないルート(耳をふさいでも断たれないルート)があることを示しています。


  • 音のルートを確かめる簡単な実験。左図)扇風機に向かって「ワーレーワーレーハー ウチュージン」と声を出すと、ファンの回転によって「ワ〜レ〜ワ〜レ〜ハ〜 ウチュ〜ジン」とふるえて聞こえる。右図)耳をふさいで同じことをすると、ふるえはあまり聞こえず「ワーレーワーレーハー ウチュージン」と聞こえる。これは口(ふるえていない)→扇風機(ふるえる)→耳(ふるえて聞こえる)のルート以外に、口(ふるえていない)→耳(ふるえて聞こえない)のルートがあることを示している。


耳をふさいでも伝わってくる音は、声帯から空気を通らず、直接体をつたって耳にとどいている音なのです。
この音を骨伝導と呼びます。空気を伝えるのは、空気や水だけではないのです。


つまり、自分以外の人や、録音機械には、空気が振動して伝わった音(気導音)だけの自分の声が届きます。
一方、自分が直接聞く自分の声は、気導音と骨伝導音の両方が聞こえています。


このちがいのため、録音された自分の声を変な声だと感じるのです*2


  • 自分と他人の、自分の声の聞こえ方の違い。左図)他人が聞く自分の声は気導音のみからなる。右図)一方、自分が聞く自分の声は気導音と骨伝導音の両方からなる。


■自分の声の聞こえ方のボリューム調節


このように、何が音を伝えるか、ということで声の聞こえ方は違ってきますが、さらに、脳神経のはたらきによって、聞こえ方が変わっているそうです。
それは自分の声の大きさです。


声を出そうとする時、「声を出せ」という命令が、発声のための神経へ出るのと同時に、
「とらえた自分の声のボリュームを下げろ」という命令が、聴覚のための神経へ発せられます。
このようなはたらきを随伴発射 (ずいはんはっしゃ)*3とよ呼びます。


自分の出す声で、まわりの声が聞こえにくくなってしまわないように、自分の声は自分にはすこし小さく聞こえるようにできているのではないか、と考えれられています。


  • 随伴発射の模式図。声を出す時と同時に、聞こえてくる自分の声の音量を下げるように指令が出される。


ほんとうに生き物の体はよくできていますね。
でも聴覚のひみつはまだまだありそうです。


「小学生の頃にテープレコーダーの自分の声を聞いて、すごくショックを受けた記憶があるけど、今は違和感がないなぁ。」と語るのはNHKでの経験が長い、しゃべりのプロの隈本先生。
「ぼくもそうなって来ているかも」と答えるのは「タッキーのやさしイングリッシュ*4」を担当する、タッキーこと学術研究員の岡橋毅さん。
どうやらくりかえし録音された自分の声を聞いていると、その声に感じる「ずれ」がなくなっていくようです。


私でも同じ事が起こるか?
でも正直 自分の声が入っている放送は、何度もくりかえし聞きたくないなぁ・・・


それはともかく、皆さん、「かがく探検隊コーステップ」ぜひ聞いてみてくださいね。


  • 司会の特任教授 隈本邦彦先生(左)と学術研究員 大津珠子さん(右)。(撮影:2006/04/06)


(文・撮影・図:川本思心) 最終更新:2006/4/12 ver.1.0

【ラジオ番組紹介】

 三角山放送局FM 76.2MHz)にて毎週土曜18:00-18:30 放送中!
 (可聴範囲:西区全域・手稲区中央区・北区・東区・白石区厚別区の一部)
 CoSTEP公式サイトからはいつでもpodcastingまたはMP3で聞くことができます。


三角山放送局スタジオ:レンガの館】

  • 西区八軒1条西1丁目2-5 JR琴似駅北口徒歩1分

 

【参考資料】

  1. 音のなんでも小事典―脳が音を聴くしくみから超音波顕微鏡まで (ブルーバックス)ブルーバックスB1150 日本音響学会編 講談社 1996
  2. 声と言葉のしくみ (OHブックス (4))』OHブックス4 亀田和夫 口腔保健協会 1986
  3. 『感覚のミステリー』「Newton」 2001年2月号p.28-57 ニュートンプレス
  4. 『岩波生物学辞典』第4版 岩波書店 1996
  5. Poulet JFA and Hedwig B. The Cellular Basis of a Corollary Discharge. Science 27 January 2006: 518-522.
  6. 『三角山の友』 (三角山放送局による無料配布の情報誌)
  7. コミュニティ放送- Wikipedia (web)


【取材協力】

*1:【媒質】音を伝えていく物体を媒質と呼ぶ。媒質の密度が密になったり疎になったりすることで音は伝わっていく。

*2:【媒質による伝導音の違い】音は媒質を振動させることで減衰していくが、空気と骨では音を伝える性質が異なり、気導音では低周波(低い音)に比べて高周波(高い音)が減衰しやすい。従って、骨伝道音が含まれる、自分が聞く生の自分の声は若干低めに聞こえる。

*3:【随伴発射】遠心性コピーとも呼ぶ。体勢の変化による知覚環境の変化や、自己の発する感覚信号を補正するために、運動中枢だけではなく、感覚系へも信号を送ること。視覚などの他の感覚でも同様の仕組みが働いている。例)目を動かして視線を変えても、周りの景色は固定されたままと感じるが、指で眼球を押すと、景色が動いて見える。

*4:【タッキーのやさしイングリッシュ】「かがく探検隊コーステップ」の人気コーナー。英語なまりの日本語を話す、ちょっとあやしいタッキーが英単語を科学の話を交えて紹介する。一部誤解があるが、タッキーは日本人である。