なぞの音を追え! 〜北海道大学 低温科学研究所〜
筆者には、日ごろからちょっと不思議だと思っていたことがありました。
北海道大学近くを走る道路、ちょうど北20条(通称ななめ通り)付近を通りかかると、
時々機械のような、楽器のような音が聞こえることがあるのです。
あたりをよく見てみても、音を発するようなものはなにも見当たりません。
今回は、この音の正体を、突き止めてみることにしました。
■音は低温科学研究所から
音が聞こえた周囲を調査してみたところ、
どうやら低温科学研究所付近で大きく聞こえ、
他の場所ではあまり聞こえないようでした。
そこで、この研究所に問い合わせをしてみたところ、
すぐに音の正体が判明しました。
この音は、研究所で行われている観測にかかわるとても大切な音だそうです。
そしてこの観測結果・研究成果は私たちの生活にも密接にかかわっているとか・・・。
研究所の藤吉先生にお願いして、音を発している装置を、実際に見せていただきました。
■風を「観る」3種類のスペシャリスト!
音を発していたのは、「ドップラーソーダー」という風向きや風の強さを観測する装置でした。
ドップラーソーダーは、研究所の屋上に設置されていて、毎日休むことなく作動しているそうです。
頻繁に音を耳にするのは、毎日動き続けているからなんですね。
- 低温科学研究所の屋上に設置されているドップラーソーダー。しろい傘の中に小さなスピーカーがぎっしりと入っています。(2007/1/30 撮影)
- ドップラーソーダーの音。筆者がいつも耳にしていたのはこの音でした!
たくさんのスピーカーがついており、ここからあの謎の音がでていました。
音は、物体にぶつかるとはねかえるという性質をもっています。
大きな物体ではもちろんですが、私たちの目では見ることの出来ない空気の密度
の変化がちょうど壁のような役割をして音を跳ね返します。
ドップラーソーダーは、この跳ね返り方の違いによって空気中の気温、乱れ、風
の向きや速さを観測することが出来ます。
- ソーダーで観測されたデーター。毎日の観測データはこのように蓄積されていきます。(2007/1/30 撮影)
低温科学研究所には、このほかにも
「ドップラーレーダー」と「ドップラーライダー」という、光と電波によって風を観測する装置があります。
(ドップラーライダーについての説明が掲載されています。原理はソーダー、レーダーにおいても同じです。)
- ドップラーライダー。左の黒い装置から真上に向かって緑のレーザーが出ます。右側は制御装置。 (2007/1/30撮影)
3つの装置には、それぞれ長所と短所があります。
- 3つの装置の特徴
機器 | 何で観測するか | 得意 | ニガテ |
ドップラーソーダー | 音 | 晴天 | 荒天 |
ドップラーレーダー | 電波 | 雨 | 快晴 |
ドップラーライダー | 光 | 晴天 | 濃霧など |
3つの装置を備えることで、互いに互いの短所を補うことができます。どんな天候でも多面的に空気の流れを観測でき、
より正確な空気の流れ=風の姿を「見る」ことができるそうです。
■身近な風の学問
低温科学研究所では、観測結果を解析して、雲や風の発生する仕組み、また雪や
雨のできる仕組みを研究しているそうです。
このような風に関する研究は、私たちの生活にとても密接にかかわっています。
たとえば、飛行機のエンジンに鳥がひっかかってしまう「バードストライキング」は、飛行機の機体にとって大変な損傷です。
バードストライキングを回避するために、鳥の行動を予測することが必要です。
鳥の行動は風の向きや強さ、吹く高度によって変化するので、風の研究から得られる知見はバードストライキングの回避に一役かっているのです。
さらに、風を知ることは街づくりにも役立ちます。
大きな建物を建てると、風の流れが大きく変わります。
実際に、札幌駅にJRタワーや高層マンションが建ったので、これらの建築物の風下では風の様子が周囲と異なることが最近の観測からわかってきました。
この先、高層ビルがたくさん立ち並ぶ都市を整備するときに、
空気の流れにどのような影響がでるかを予測できたら、もっと快適な都市がうまれると思いませんか?
ヒートアイランド現象や、ビル風の問題も、風の研究から解決の糸口が見えてくるかもしれません。
私たちは、風を感じるときに、
何を考えているでしょう。
普段、風は私たちの周りを通り抜けていくだけだと思って、
気にも留めていないことが多いです。
筆者も風について、考えたことはほとんどありませんでした。
しかし今回、謎の音を追っていくと、壮大な風の世界が広がっていました。
日常のちょっとした疑問の奥には、科学の世界が待っているのですね。
みなさんも、普段不思議に思っていることをちょっとさぐってみませんか?
目からうろこの世界が待っているかもしれません。
アクセス
【北海道大学 低温科学研究所】
市営地下鉄南北線 北18条駅下車 徒歩10分
公式ページ
今回ご協力いただいた藤吉先生の研究室のHPでは、毎日のドップラーライダー観測データが公開されています。
【参考文献】
今回の記事執筆に当たり、低温科学研究所の藤吉先生、本堂先生にご協力いただきました。ありがとうござました。
(文・写真 宮本朋美)