良水は名酒を育む 〜千歳鶴ミュージアム〜



豊平川沿いをお散歩していると千歳鶴の工場が見えます。

  • 千歳鶴工場 (撮影:2005/10/16)

千歳鶴は1872年に創業した、札幌唯一の日本酒の蔵元です。


その隣にあるのが、日本酒と文化を紹介する千歳鶴ミュージアム
酒造りの歴史を学んだり、ジャズやクラシックのコンサート、
北海道の芸術家による酒器の展示などを楽しむことができます。
休日には工場見学ツアーも開催されています。
お酒好きの筆者は迷わず足を運ぶことにしました。


さて、ミュージアムの外を見てみますと…
おやおや、なにやら説明書きのついた水飲み場があります。

  • 仕込み水水道 (撮影:2005/10/16)

この蛇口から出るのは、千歳鶴に実際に使用されている仕込み水。
手稲山など札幌南部の山々から流れてくる伏流水を
地下150mから汲み上げているのだそうです。
札幌は豊平川扇状地になっているので、
周辺の山に降った雪や雨が伏流水として地表に現れるのです。
この仕込み水は鉄分やマンガンという物質をほとんど含まないので、
酒造りに最適な水だと書かれています。
(札幌の水の流れに関して、扇状地の記事がここにあります。)


どうして鉄分やマンガンの含量が少ないと良いお酒ができるのでしょうか?


酒造りのプロセスは、大きくふたつに分けられます。
①酛(もと)作り 
蒸したお米、こうじ、水を5:2:6の割合で混合し、
 その中で酵母(こうぼ)や乳酸菌を育てる。
②モロミ作り
 酛にこうじと水を3回にわけて加え、アルコールをどんどん作らせる。
 酛が上手くできていて、いい酵母がたくさん育つとおいしいお酒ができる。
 「火落ち菌」という菌が途中で混じって、メバルロン酸という物質を作ると
 お酒に嫌な匂いがついて飲めなくなってしまうので要注意。


こうじ」というのは、蒸したお米に「こうじ菌」を繁殖させたもの。
「こうじ菌」は「アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)」
というカビの一種です。
こうじは50種類以上の酵素を含んでいて、
お米を分解し、酵母に糖やタンパク質などの栄養を与えます。


水に含まれるミネラルのバランスも、酒造りに重要なポイントのひとつです。
こうじ菌が作るある物質(デフェリフェリクリシン)が、
水の中の鉄やマンガンと混ざると
フェリクリシン」という赤茶色の物質ができます。
これができるとお酒が汚い赤茶色になってしまい
売れなくなってしまうのです。


鉄やマンガンはお酒造りの大敵ですが、
水に含まれるカルシウムやマグネシウムなどは酵母の栄養になります。


味に関しても、
鉄やマンガンを含む水は金属臭さや渋みがありますが、
カルシウムやマグネシウムがバランス良く含まれた水はおいしく飲めます。
お酒の80%は水ですから、水がおいしければ
お酒も結果的においしくなります。


ミュージアムでは、仕込み水だけでなく、お酒自体も試飲することができます。
水もお酒も両方味わってみましょう。


(文・写真 タナカマイ)最終更新:2006/3/16 ver.1.2

【公式サイト】


【住所】


【参考図書】

  1. 『応用微生物学』高尾彰一 1996 文永堂出版