優勝パレードの紙吹雪と紙のリサイクル〜(南1条西)4丁目交差点〜

 北海道日本ハムファイターズの優勝パレードが11月18日にありました。15万人の見物客が出て、大変盛り上がりました。パレードといえば「紙吹雪」。今回のパレードでも、札幌繁華街の中心地点である4丁目交差点の四隅のビルの屋上から、なんと1.2トンもの紙吹雪が、工事用の扇風機を使って、札幌の空に巻かれたそうです。


古紙回収率 日本は第8位
 この紙吹雪。統計的にいうと約3分の1が古紙です。紙を作る原料には32.1%の古紙が使われています*1ダンボールなどの板紙の原料には、実に89.5%もの古紙が使われていて、紙と板紙をあわせた全体の古紙回収率は、57%になります。ちなみに、世界の主要国の平均は45%で、世界のトップはオーストラリアで80%。次いでオランダが78%。日本の57%は、第8位です。


◆紙のリサイクルに限度はあるの?
 さて、紙のリサイクルが進むことは資源節約の面からも喜ばしいことですが、一体、紙はどれくらいの回数リサイクルすることができるのでしょうか?これには、もともとの紙の作られ方が大きく関係しています。


◆紙の製造工程 基本は3つ
 紙を作る立場から見ると、紙とは、「植物性繊維を水に分散させ、脱水・乾燥の工程を経て繊維を絡み合わせて薄葉物、すなわちシート状にしたもの*2」と定義されます。この定義の中に、紙の製造工程を見ることができます。

 まず原料から、植物繊維を取り出す工程が必要です。取り出した繊維の集まりを「パルプ」と呼ぶので、この工程をパルプの製造工程といいます。次にパルプを水に溶かして、たたきます。こうしないと植物繊維がうまく絡み合わず、丈夫な紙ができないのです。最後に、水に薄く延ばして、紙をすき、乾燥させます。この3つの工程が紙を作るときの基本になります。


◆木材の主要3成分
 パルプの原料には、木材を使います。木材の主要成分は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンの3つです。木材を鉄骨プレハブにたとえると、セルロースが鉄骨にあたり、紙を作る植物繊維の主役となります。ヘミセルロースは壁と鉄骨をつなぐボルトで、リグニンが壁材にあたります。この木材から、パルプを取り出すには、主に2つのやり方があります。機械パルプ化法と、化学パルプ化法です。


◆機械パルプ化法と化学パルプ化法
 機械パルプ化法は、原料となる丸太を直接、機械を使ってすりつぶします。この方法で作られたパルプは新聞紙などに使われます。原料の90%以上がパルプになります。作り方からわかるように、機械パルプ化法で作られたパルプには、セルロースも、リグニンも、ヘミセルロースもそっくりそのまま残されています。

 化学パルプ化法は、原料として小さな木片の集まりである木材チップ*3を使います。木材チップに、カセイソーダと硫化ナトリウム*4という薬品をまぜて、煮ると、リグニンとヘミセルロースが溶け出します。化学パルプ化法は、セルロースを繊維の主体として取り出す方式です。原料に対して、60%ぐらいがパルプとして取り出せます。化学パルプ化法は、原材木の種類を選ばず、白い紙を作ることができ、しかも使用した薬品の回収ができるなど、製造工程上の優れた特長を持っています。そのため現在の製紙工業では、化学パルプ化法が全盛で、80%以上のパルプがこの方式で作られます。

 化学パルプ化法でつくられたパルプは、リグニンとヘミセルロースが溶け出してしまいセルロースのみが残されるので、繊維同士の間に空間があるスポンジのようになります。これを水につけ、たたくと、繊維間の空間が広がり、繊維のまわりに毛羽立つような細かな毛が作られ、さらに繊維が切れて短くなります。これを薄くのばして、乾燥させると、繊維の間にあった水がなくなり、細かな毛同士がしっかりと絡み合って強い紙ができるのです。
 こうして出来上がった紙は、さらに表面を加工されたり印刷されたりして用途に応じて使用されます。それでは次に、この紙がリサイクルされる時に何が起こるのかみてみましょう。


◆化学パルプは再生すると紙の強度が落ちる
 最初の役割を終えて、古紙が回収されてきました。これを、もう一度パルプの原料にするには、印刷されたインクをとって、水に浸してやります。ここで、再び古紙が水を吸って、スポンジのようになってくれると都合がよいのですが、化学パルプ化法でつくられた紙の場合は、あまりに繊維同士がぴったりくっついているので、十分に水を吸うことができないのです。このために、リサイクルされたパルプは、周りのパルプと十分に絡み合うことができなくなり、紙の強度が落ちてしまいます。化学パルプの場合、3回再生すると、強度が大幅に落ちるといわれています。


◆機械パルプは再生しても大丈夫
 これに対して、機械パルプ化法で作られたパルプには、ヘミセルロースやリグニンがセルロースの中に残ったままになっています。このため、水に浸して、叩いて、脱水しても、化学パルプで作ったほどには、繊維同士が強く密着しません。これが古紙として回収されてきたときには、強く密着していない分、2度目の水を十分に含むことができ、周りのパルプと十分に絡み合うことができます。機械パルプの場合、リサイクルしても、紙の強度がさほど落ちないのです。

 
古紙回収率で決まるリサイクルの回数
 しかしながら機械パルプを用いるとしても、永遠にリサイクルが可能なわけではありません。仮に、50%の回収率で古紙を製造パルプの中に混ぜて紙をつくる場合、2回目には25%だけが回収されることになり、3回目には12.5%、4回目には6.25%、5回目には、3.125%となり、実質的なパルプのリサイクルは長くても5〜6回ぐらいと推定されるのです。


◆紙のリサイクルのもう一つの効用
 紙のリサイクルを行うと、森林資源の節約ができることはもちろんですが、もう一つ大切なことがあります。それはゴミの量を削減できるということです。日本全国の容器包装廃棄物のうち、約30%が紙類です*5。従って、紙のリサイクルを進めることは、ゴミ問題の軽減にかなり貢献できるのです。ちょっとの手間はかかりますが、新聞紙にせよ、牛乳パックにせよ、事務用紙にせよ、紙を燃やしてしまうのではなく、リサイクルに回すことで、それだけゴミは減り、森林資源が節約できます。さあ、みなさん、面倒がらずに紙のリサイクルをしましょう。

(文:中村滋

【住所】
札幌市中央区南1条西4丁目
【アクセス】
市営地下鉄 南北線東西線「大通」駅下車 徒歩


【参考文献】

  1. 原啓志『紙のおはなし』日本規格協会、2002
  2. 門屋卓編著『新しい紙の機能と工学』裳華房、2001
  3. 大江礼三郎他『パルプおよび紙』文永堂出版、1991
  4. 『朝日百科 植物の世界10 単子葉類2』寺澤一雄「紙の将来」pp254-256、朝日新聞社、1997


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*1:2000年の経済産業省「紙・パルプ統計」によります。

*2:「新しい紙の機能と工学」門屋卓著p2より引用。

*3:木材チップは、大きさが3cm×3cm、厚さ5mmぐらいの木片です。主に丸太から建築用材をとった残りの端材などから、チッパーという装置を使って作ります。

*4:この薬品のセットを用いる方式をクラフト法といいます。以下の本文の化学パルプ化法の特長は、クラフト法のものです。

*5:1995年の厚生労働省の統計によります。