薫るヨーロッパのクリスマス 〜大通公園 ミュンヘンクリスマス市in Sapporo〜





大通公園の西2丁目にモミの木で飾られた小さな店が並んでいます。「ミュンヘンクリスマス市 in Sapporo」は、ドイツ ミュンヘン市との姉妹都市提携30周年となった2002年から始まりました。

  • クリスマス市風景(撮影 2006/11/25)


【スパイスが薫るワイン、ブーケ】
ミュンヘンクリスマス市の名物はソーセージに代表されるドイツの食べ物と、温かい赤ワイン(ドイツ語でグリューヴァイン)です。グリューヴァインはあたためた赤ワインにスパイス(シナモン*1クローブ*2)とオレンジの皮などの香りをうつしたものです。ワインにスパイスの香りが加わり、体が温まる飲み物です。


ここでは、ドイツのクリスマス装飾品、工芸品なども販売されています。その中に独特な香りを放つ工芸品、ザルツブルガーゲビンデがあります。ドイツとオーストリアの国境に近い、ザルツブルク*3周辺で作られる伝統工芸品で、クローブ、シナモン、スターアニス*4などを細いワイヤで巻き、リボンや造花などと組み合わせたブーケや壁飾りです。聖書では、キリスト生誕後に東方から三人の博士が贈り物を持ってやってきたとされます。その贈り物の一つが香料(スパイス)であったことから、キリストの生誕を祝うものとしてスパイスで作ったブーケを飾るのだそうです。


  • 左:ザルツブルガーゲビンデ/ 右:使われているスパイス(撮影 2006/11/30)


クローブとシナモン】
シナモンは、「八ツ橋」に使われているニッキ*5とよく似た香りです。甘味を引き立てるので、アップルパイ、ドーナツ、シナモンロールなどのお菓子やカレー、ソースに使われます。クローブはシナモンに比べると馴染みが薄いですが、ウスターソースや中華料理に使われる五香粉に含まれます。甘く、強い香りをもち、アイスクリームや洋菓子に添加されるバニリン*6を合成する原料としても使われます。


クローブやシナモンはじめ各種のスパイスは、ドイツのクリスマスに欠かせないお菓子、シュトーレン*7やレープクーヘン*8にも含まれます。日本ではケーキやクッキーにバニラで香りづけをすることがほとんどなので、ドイツのお菓子の風味には違和感を覚える人もいるでしょう。ドイツ周辺では11月からお菓子をつくり始め、少しずつ食べたり、ツリーに飾ったりします。でも、11月に作ったお菓子がクリスマスまで日持ちするのはなぜでしょうか?その秘密はスパイスにあります。


【スパイスの"ちから"】
クローブとシナモンはオイゲノールという、芳香成分を含む精油*9を持っています。
この物質には抗菌・防カビ作用、沈静作用、局所麻酔作用、抗炎症作用、防虫作用などがあります。中国では口臭を防ぐために口に含んだり、刀のさび止めとしても用いられました。日本に伝来したのは8世紀頃と言われ、奈良時代聖武天皇大仏開眼の時に身につけた冠にクローブが真珠とともに飾られていたそうです。平安時代には衣類の薫香、防カビ、防虫のために着物をクローブで染める「丁子染め」が行われていました。
ヨーロッパの人々も中世からオイゲノールの効用を知り、利用してきました。たとえばオレンジやりんごなどのフルーツにクローブをびっしりと刺した「ポマンダー」と呼ばれるものは、魔よけや病気予防のお守りとして、また消臭のために使われました。
クリスマスのお菓子もクローブやシナモンを混ぜ込むことで長期保存ができ、1か月にわたって楽しめるのです。


  • オレンジポマンダー(撮影 2006/12/2)


【香りと記憶】
香りによって、過去の体験や記憶がよみがえることがあります。
数年前、ほんの短い期間ですが私はオーストリアで生活しました。当時は苦手だったクローブの強い香りが今は懐かしく、彼の地でのクリスマスやさまざまなできごとを思い出させてくれます。
5回目を迎えた札幌のクリスマス市。美しいイルミネーションに彩られた大通公園で、ヨーロッパの香りに包まれてみませんか?



(文・写真 原林 滋子)

【アクセス】
大通公園2丁目ホワイトイルミネーション会場
地下鉄南北線東西線東豊線「大通駅」26番出口
【開催期間】
2006年11月22日(水)〜12月17日(日)
月〜金 正午〜21:00、土日祝 11:00〜21:00

参考リンク

  1. スパイス&ハーブ総合研究所 
  2. 生薬、薬用植物(薬草)と身近な野生植物(野草)のページ
  3. 食材辞典
  4. die Hausfrauenseite
  5. 幸運をよぶ香りのお守りフルーツポマンダー


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*1:原料はセイロンニッケイというクスノキ科の木の樹皮。

*2:インドネシア モルッカ諸島原産。フトモモ科の植物のつぼみ。丁子(ちょうじ)とも呼ばれる。丁子とは、釘(くぎ)の意味で、つぼみの形が釘に似ていることから名づけられた。

*3:オーストリア ザルツブルク州の州都。モーツァルト生誕の街として有名。

*4:八角ういきょうとも呼ばれる。中国原産の常緑高木トウシキミの果実。

*5:原料はクスノキ科シナニッケイの根。シナモンの原料となるセイロンニッケイは近縁種。

*6:ラン科バニラの果実に含まれる香気成分。

*7:ドライフルーツを混ぜて焼いたパンに粉砂糖をまぶしたもの。白い粉砂糖が幼子イエスを包む産着に見立てられる。

*8:蜂蜜を混ぜ、熟成させた生地で作るクッキー。

*9:植物の花、葉、茎、樹皮などから抽出された揮発性の液体。「森林浴の『快適さ』とは?〜野幌森林公園〜」参照