薬になる植物園 〜北海道立衛生研究所薬用植物園〜


北海道大学の北隣に北海道立衛生研究所があります。水や食品の安全性評価や、感染症や食中毒の調査研究など、私たちの健康な生活のための研究を行っている施設です。


敷地内には薬用植物園があります。




  • 薬用植物園の入り口(2006年6月16日撮影)

 

この植物園は薬用植物の優良な遺伝資源の保存、調査研究材料の供給を目的として、昭和46年8月に設置されました。中へ入ってみると予想以上に広いことに驚かされます。約3000平方メートルの敷地内には温室もあり、約750種もの植物が栽培されています。


人間は昔から、食用、薬用、工芸など生活の中で幅広く植物を利用してきました。そのなかにはゲンノショウコドクダミ、センブリなどのおなじみの薬草もあります。これらは「民間薬」と呼ばれるもので、その使い方や服用量に理論的な裏付けはありませんが、日本でも昔からの言い伝えに基づいて利用されてきました。


一方、中国で発達した「漢方薬」は、複数の薬草(生薬(しょうやく)*1)を数千年の歴史をもつ独特の理論に基づいて正確に混ぜ合わせたもので、症状や体質に応じて用いられます。



  • 漢方薬の一種「葛根湯」に用いられる複数の生薬の組み合わせ(カッコン、タイソウ、マオウ、カンゾウ、ケイヒ、シャクヤク、ショウキョウ)(2006年7月28日撮影)


昔から経験的に知られている植物の効能や言い伝えを科学的に研究することによって、今まで知られていなかった新しい成分が発見されることもあります。このような有効成分が現代医学でも薬として使われたり、健康食品として利用されたりしています。特に、北海道では、アイヌの人達が伝統的に利用してきた植物の効能に注目した研究が行われています。この薬用植物園の中でも、そのような植物を観察することができます。



  • 北海道の人達には春の山菜としておなじみのギョウジャニンニクも、アイヌの人達が薬用や食用として古くから使用してきました。(2006年6月26日撮影)

衛生研究所の研究室の中では北海道産の薬用植物の化学的品質評価と有効利用の研究が行われています。


  • ずらりと並んだ薬用植物(生薬)(2006年7月28日撮影)


実は北海道はわが国有数の薬用植物の生産地なのです。現在、北海道では、トウキ、センキュウ、シャクヤク、ダイオウ、オタネニンジンなど漢方薬の原料となる10数種類の薬用植物が栽培されており、その生産高は国内の約1割を占めているということです。


さて、薬用植物といっても、地味な草木ばかりではなく、観賞用としておなじみの美しい花が咲くものもたくさんあります。園内では、6月にはシャクヤクの花が盛りを迎えます。



 

 


『立てば芍薬シャクヤク)、座れば牡丹(ボタン)』と言われるほど美しい花の代名詞ともなっているシャクヤクですが、薬として役に立つのは根の部分です。痛みをとり、筋肉の緊張を緩和する作用があるので、腹痛や婦人病に用いられます。

道立衛生研究所薬用植物園は、5月から9月までは毎月、第1金曜日と第3金曜日に、一般公開しており、また定期的に「薬草観察会」も行っています。詳しい日程は衛生研究所のホームページに掲載されています。
http://www.iph.pref.hokkaido.jp/



  • 薬草観察会の様子(2006年6月26日撮影)


観察会では衛生研究所の専門家が、ひとつひとつの植物について詳しく説明してくれます。季節ごとに違う植物を見ることができるため、毎回参加している人もいるようです。また、春の山菜の季節には、山菜と毒草の見分け方の講習会も開かれています。


普段、一般の人は入ることのできない研究所で、四季折々の花の美しさを楽しみながら、人間と植物との関わりについて学ぶことができるのは魅力的ですね。



(文・写真 山岸理恵子)


【謝辞】
北海道立衛生研究所食品薬品部薬用資源科長 姉帯正樹様にご協力いただきました。ありがとうございました。

北海道立衛生研究所


【参考文献】

  1. 北海道立衛生研究所パンフレット
  2. 北海道立衛生研究所ホームページ

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*1:薬草の薬用部位を調整加工(乾燥、切断、加熱、湯通しなど)したもののこと