樹齢120年の色香 〜宮部記念館前のライラック〜


 北大植物園の宮部記念館前には、1885年に日本で最初に持ち込まれたライラックが120年以上経った今も現存しています。

 
[写真左]宮部記念館(手前がライラックの木) 2006年7月23日筆者撮影  
[右]ライラックの花  提供:「ようこそさっぽろ」 http://www.welcome.city.sapporo.jp/ 


 昭和35年に札幌市の花に選ばれたライラック(仏名:リラ、別名:ムラサキハシドイ、紫丁香花)は、5月下旬から6月にかけて、北海道を彩ります。この時期は日増しに気温が上がりますが、ライラックが満開に咲く頃、一時的な寒の戻りがあります。これを、札幌市民は「リラ冷え」と呼んでいます。
「リラ冷え」という言葉、もともとは札幌の初夏をあらわす俳句の季語として生まれました。しかし、今ではすっかり生活語として定着し、札幌では桜の時期の「花冷え」よりも多く使われているようです。


 この「リラ冷え」、気象学的にどのような現象なのでしょうか?札幌管区気象台業務課の三浦郁夫さんに聞いてみました。
リラ冷えの原因にはいろいろあるそうですが、典型的なものとしては、寒冷前線あるいはオホーツク海高気圧により、冷たい空気が札幌に入り込むことが挙げられるそうです。
また、一例として、平成18年5月25日と6月11日の天気図を比較して説明してくれました。


 まずは5月25日の気象衛星画像と天気図です。
 
資料提供:札幌管区気象台 http://www.sapporo-jma.go.jp/


 寒冷前線が日本の南東の沖に達しており、日本の北側から冷たい空気が日本海を通って、札幌平野に入ってきています。札幌は西に山がありますが、北は開けていますので、札幌では晴れているのに最高気温17度までしか上昇せず、文字通り「リラ」が咲く中での「冷え」となりました。


 次に6月の気象衛星画像と天気図をみて見ましょう。
 
資料提供:札幌管区気象台 http://www.sapporo-jma.go.jp/


 北海道の北東に位置する高気圧がオホーツク海高気圧と呼ばれる高気圧で、この時期にはよく見られる高気圧です。このオホーツク海高気圧から吹き込んでくる冷たい北東の風が、気温が下がる原因となります。この日には東京のあたりまで高気圧の影響がありました。札幌では最高19度、東京では22度という涼しい一日でした。


 寒冷前線や高気圧は、地球の自転や、極と赤道付近の気温の差により、極付近の冷たい空気と赤道付近の暖かい空気が入り混じること(大気大循環といいます)によって発生します。特に、寒冷前線は、地球を取り巻く大気の極地方と赤道地域の熱交換の最先端であるといえます。気圧の差により風が吹くのですが、想像してみると、自然のエネルギーというか、偉大さを感じずにはいられません。


 三浦さんのお話によると、この二つ以外にもリラ冷えとなる原因はいろいろあって、毎回同じ原因ではないということでした。いずれにしても、5月に一度25度以上まで暖かくなった後に涼しい気温になることを、札幌に住む私たちはよく体験しています。今年は5月16,17,18日に25度以上の夏日が続いたあと、しばらく20度を超える日はありませんでした。


 三浦さんはさらに面白い事を教えてくれました。

 「春一番」や「小春日和」は気象用語として定義がありますが、リラ冷えは定義づけされていないそうです。ちなみに「春一番」は立春から春分までの間に広い範囲で初めて吹く暖かい南よりの強い風。「小春日和」は晩秋から初冬にかけての暖かく、穏やかな晴天とありました。(気象庁HPより   http://www.jma.go.jp/jma/index.html


 一般の人からの質問が多いことが定義づけされる理由の一つになるそうです。 「春一番」や「小春日和」に比べると時が浅い言葉ですが、札幌管区気象台のお天気相談所にリラ冷えについてたくさんの人からの質問が集まれば、いつかリラ冷えの定義が決まる日が来るかもしれませんね。


 ライラックの花が終わると、札幌は本格的な夏を迎えます。歴史あるライラックの木の下で、リラ冷えについて思いを馳せるのもおしゃれな感じがしませんか?

(文責・伊藤紀代)


 <謝辞> 札幌管区気象台業務課の三浦郁夫様、ご多忙中のところ、インタビューに快く応じていただき、ありがとうございました。

アクセス

北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 耕地圏ステーション植物園
札幌市中央区北3条西8丁目  TEL 011-221-0066
http://www.hokudai.ac.jp/fsc/bg/index.html

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