いごよろしく 〜札幌囲碁学院〜


北海道大学のすぐ近くに札幌囲碁学院があります。500円で1日遊べ、筆者が学生時代には週に4-5回通った碁会所です。今回は人間の脳の働きという面から、元気な老後を送るためのヒントをお伝えします。

 (札幌囲碁学院)

 
 囲碁や将棋のプロ棋士には年をとってからも、いわゆるボケる人は、ほとんどといっていいほど見当たりません。現役のトーナメントプロを引退しても、解説や立会い等の仕事をこなされているそうです。
死ぬ直前まで体も頭も健康でいることは、理想の人生のひとつと言っていいでしょう。今回はそんな人生を送るために、囲碁や将棋が大変効果的だという考えを紹介します。
 人間の脳は右脳と左脳に分かれ、それぞれの機能に違いがあります。以前は、これは人間に特有の現象と考えられてきましたが、最近の研究では、他の生物にも右脳と左脳の機能差があるのではないかと言われています。
一般に右利きの人では、左脳に言語中枢があります。そして計算や分析の機能を持ち、仕事や勉強に必要な知性の領域と言われています。一方、スポーツや芸術にも必要な人間の感性をつかさどっているのが右脳です。右脳には音声や音を識別したり、パターンや図形を認識したりする機能があります。実際の作業時には左右の脳は協力しあって働きますので、右脳と左脳の役割については、基本の働き、という理解をして下さい。
 さて、浜松医療センターの金子満雄氏はPET(陽電子放出断層撮影)を用いて、人間が囲碁をしているときの脳の働きを調査しました。アマチュア6人を調査した結果、序盤は全員が右脳後半部を使っていました。ここは従来、図形イメージを捉える部分と考えられています。また詰碁(ご存じない方は、非常に狭い範囲に限定された部分的局面と思ってください)の問題に取り組む時には、右脳後半部と同時に前頭前野や左脳も使っています。詰碁は読みも重要ですので、最初に思いついた手を読みによって確認しているようです。囲碁に取組むと一局を通して右脳を使っており、右脳が鍛えられるというのは本当のようです。
 ところがプロ棋士の場合は、アマチュアと異なる思考過程をとっているようなのです。例えば序盤の局面では、プロは右脳をほとんど使っていませんでした。同様のことは、プロの音楽家が音楽を演奏する時にも言えるそうです。仕事や業務として取り組むと、趣味で取り組む時とは違って感性を磨くことには繋がらないようです。
 金子氏は認知症の患者を、これまで外来で27000人診てきました。そのような患者の中に囲碁や将棋を趣味として楽しんできた人はほとんどいないそうです。高学歴で社会的地位の高かった方、真面目で仕事ばかりされてきた方が少なくありません。そこで、金子氏は認知症のリハビリに囲碁を利用することを、思いつきました。試して見ると、実際に数ヶ月で社会復帰された方もいたそうです。
 金子氏は、「認知症生活習慣病といってよく、遺伝的要素や脳血管性によるものは合わせて1割くらい」と述べています。囲碁将棋や芸術を楽しんでこなかったから認知症になったのか、それとも、そもそも認知症になりやすい人はそのようなものに興味がわかないのか、というところまで述べられてはいませんが、右脳を鍛えることは人生にとって思った以上に重要である可能性があります。ただし囲碁をやったことがあるといっても、義務的、仕事上仕方なく、といった付き合い方では効果がないそうです。これはプロ棋士の思考過程で明らかになったように、囲碁との付き合い方も大事ということです。やはりあまり楽しいと思えない趣味は、本当の趣味とは言えないということなのでしょう。マージャン、トランプ、音楽、俳句、短歌といったものも、認知症予防には効果があるようです。
 今回囲碁や将棋のルールを説明するスペースがありませんので、ルールをご存知無い方は申し訳無いですが、インターネットなどで検索して下さい。詳しいルール解説が色々なところに載っています。また本もたくさん出版されていますのでそれらも参照してください。
 ところで囲碁や将棋に対して人工知能の方は、どの程度まで進歩しているのでしょうか?実はまだまだ人間の方が優勢です。しかし近年の進歩は目覚しく、数年前チェスの世界チャンピオンはコンピュータに負けてしまいました。将棋でも最近のアマチュア全国大会で将棋ソフトがかなり上位に進出しています。

 (囲碁の局面例)


 コンピュータにとっての泣き所は、将棋や囲碁は「局面の場合の数」が非常に大きいところです。囲碁の場合19路×19路=361路に交互に黒石と白石をおいていきます。単純に「361の階乗」(361×360×359×…×2×1)ですと10の768乗になります。実際的な局面の数として東海大学の古山教授は、囲碁で少なくとも10の500乗以上、将棋で10の200乗程度と見積もっています。
 これらがどれくらい大きな数かをイメージしてもらうため、宇宙にある原子数と比較してみましょう。宇宙を構成する原子数は10の80乗程度と見積もられていますから、囲碁や将棋の局面の数がいかに大きいかがわかります。
 しかし人間はこれらのゲームを昔から楽しんでいるのです。囲碁や将棋のような、難解なゲームでも楽しめる脳を持つ人間という生物は、普段あまり自覚していませんが、本当にすごい生き物なのですよ。
 (文、写真:ひるあんどーん)

所在地 :札幌市北区北18条西4丁目 北18条ハイツ904号
電話  :011-736-1515
定休日 :月曜日
アクセス:地下鉄南北線北18条」駅から徒歩2分

参考文献:
和田博編著、囲碁と脳の働き、出版文化社
古山恒夫、将棋は先手必勝か、HPコラム http://www.ss.u-tokai.ac.jp/frame/column/furuyama/furuyama.htm

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