ビールとマイセンの意外な関係 〜サッポロファクトリー〜

 「ビール」と磁器の意外な関係、「マイセン」とサッポロクトリーの意外な接点を紐(ひも)解きましょう。

 これからの季節、サッポロと言えばビール?、ドイツと言えばビール! 皆さんがビールを飲む時は、豪快(ごうかい)にビアマグで飲みますか?おっと、未成年は飲んじゃいけませんよ。
 ビアマグには、一般的にガラスのジョッキと言われるもが多いですが、陶器や磁器のビアマグもあります。ドイツなどでは、蓋(フタ)付きの陶磁器のビアマグも、よく見かけます。*1

  • 高級磁器マイセンのビアマグならぬ、ただのマイセン産のマグカップ*2(撮影:2006/05/20)


 ここで、「マイセン」磁器について少し、お話をしましょう。
磁器のことを、別名チャイナ(China)と言うのは、15世紀後半から17世紀にかけての大航海時代に、磁器が中国からヨーロッパへ伝わったからです。その当時のヨーロッパでは、まだ、白色で透明感のある磁器が、うまく作れませんでした。

 18世紀初頭のヨーロッパ、ドイツの東部に、磁器を作るのに適した土「カオリン*3 の鉱床が新たに発見され、1709年、ヨーロッパで最初に白色で透明感のある白磁を作り出す事に成功したのが、ドイツの、「マイセン」窯で、ヨーロッパにおける磁器の「発祥の地」となりました。*4この「カオリン」と言う土の主成分は、二酸化珪素(SiO2)とアルミナ、水などです。


 一方、「ビール」そのものはと言いますと、北ヨーロッパでのビールの発祥は、紀元前1800年頃との記録があります。北海道でのビールの発祥は、1871年明治4年)北海道に野生のホップが見つかりました。それをきっかけに、1876年(明治9年)官営ビール事業として北海道開拓使札幌麦酒醸造所が設立されたのが始まりです。*5 サッポロファクトリーは、その「発祥の地」のあった場所なのです。


 さて、「ビール*6は、麦芽とホップを酵母(こうぼ)で発酵させて作りますが、最後の工程で酵母を取り除くためのフィルター(ろ過剤)として、珪藻土(けいそうど)が使われます。*7 珪藻土の主成分は、植物由来の二酸化珪素(SiO2)です。

  • 銅色が美しいビール用のケッセル(仕込み釜)(撮影:2006/05/09)

  • 産地と成分(北海道の珪藻土 日本の磁器)のイメージ(クリックで拡大)


 北海道には珪藻土の産地は沢山ありますが、カオリンの産地はありません。磁器に適した土が沢山取れる所で、陶芸が盛んになったと言えますね。同様に、大麦もホップも珪藻土も取れる北海道は、ビール醸造に適した土地と言えます。
 「ビール」と「磁器」の意外な関係とは、元素が同じ二酸化珪素(SiO2)の似て否なる粘土を使っていることです。
 ヨーロッパでの磁器の発祥の地、「マイセン」と北海道でのビールの発祥の地「サッポロファクトリー」の意外な接点とは、キーワードが「発祥の地」なのでした。サッポロファクトリーに札幌マイセン美術館があるのは、何かの結びつきでしょうか。

 みなさま、陽気に乾杯 Prost!(プロースト)・ちょっと気取って Zum Wohl(ツム ヴォ−ル!)


  • アトリウム(撮影:2005/11/14)(クリックで拡大)

 札幌の街にある建物は、歴史的に全然違うし近代的で雑な感じなのですが、フランスのパリにある建物と似ている思うことがあります。デジャビュ「(仏語) dj vu」(既視感)でもないし、ここもドームと時計が似ています。見知らぬ街で、似ている場所を発見をするのも面白いですよ。

  • オルセー美術館の内部 奥に写っているのがオルセー名物の大時計(撮影:2001/10/03)(クリックで少し拡大)

http://www.musee-orsay.fr/

【住所・公式サイト】

サッポロファクトリー  札幌市中央区北2条東4丁目
http://www.sapporo-factory.co.jp

札幌開拓使麦酒醸造所見学館 (サッポロファクトリー煙突広場)
http://www.sapporo-factory.co.jp/beer_museum/index.html

札幌マイセン美術館 札幌市中央区北2条東4丁目 サッポロファクトリー2条館4F
http://www.meissen.jp/

【マイセン磁器に興味のお持ちの方には】
北海道江別市セラミックア−トセンタ−
http://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/ceramic/
2006年展覧会「華麗なるマイセン磁器」2006/6/10(土)-2006/7/30(日)
http://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/ceramic/02/h180610/index.html


(撮影・文・図 荒瀬 美由紀) UPDATE 2006/05/23 Ver 1.0

*1:【陶磁器のビアマグで飲む】と、泡が細かく立ちマイルドな味で、厚く立った泡がフタになって注ぎたての味が持続するそうです。ガラスと磁器、実際に飲み比べてみませんか?

*2:【マグカップ】ベルギーのAteliers Hellebough(アトリエ・ヘレボー)社の「スイートアニマル」シリーズの一つ。ドイツ・マイセン地方にあるプライベート工場「NPM(Neue Private Porzellangesellschaft Meissen/Germany)」で、某高級陶磁器と同じ土「カオリン」で作られいる硬質磁器。裏底には Made in Meissen / Germany との表示あり。

*3:カオリン】中国江西省の現在の景徳鎮(けいとくちん)市は、漢の時代から磁器作りの街でした。近くの高嶺(Kaoling)山で産出される白色粘土が、磁器を作るのに適した土だったからです。それで、全世界の同じように磁器に適した粘土は、高嶺(Kaoling)がなまって「カオリン」と呼ばれるようになりました。

*4:【今日(こんにち)の交流】日本では、佐賀県の有田や愛知県の瀬戸などで良質の「カオリン」が多く産出されるので、今でも磁器の生産地として有名です。日本の有田市とドイツのマイセン市、有田市と中国の景徳鎮市は、姉妹都市の関係にあります。同様に、札幌市とドイツのミュンヘン市は、ほぼ同緯度に位置し、互いに「ビールのまち」として有名であることから、姉妹都市になっています。

*5:【日本でのビールの醸造の発祥】は、1870年に横浜の外人居留地で日本初の醸造所が設立され、主に居留外人向けに販売しました。日本で初めて味見をしたのは、それをさかのぼり、1724年にオランダの商船使節団が江戸に来た時と言われています。

*6:【ビール】については「さっぽろサイエンス観光マップ」2005-12-20 酵母もリサイクル 〜サッポロビール博物館〜 を参照。http://d.hatena.ne.jp/costep_webteam/20051220

*7:珪藻土(けいそうど)】1〜3千年前の太古の時代に生息していた植物プランクトンの一種「珪藻」の死骸(しがい)が堆積(たいせき)して化石化してできた軟らかい粘土です。珪藻は大きさ0.01〜0.05ミリで、無数に穴のあいた殻を持っています。そのために珪藻土は水や空気の小さなゴミを取り除く性質があったり、軽い、断熱性が高いなどの特徴があります。昔から火に強い土として知られ、七輪、コンロ、耐火断熱レンガの原料として、また、ワイン・日本酒などのビン詰め前の最後の工程で、澱(おり)を除去するためのフィルターとして、吸放湿性を生かし家の中の壁材としてなど、多種多様な用途で使用されています。フィルターとしては、ビールで利用するのが、一番多いそうです。近年、磁器を作る研究もされているようです。