スケートが滑る理由の記事その後(3/3)

http://d.hatena.ne.jp/costep_webteam/20060517のつづき)


 前々記事、前記事で、1)スケートが滑る理由のうち「圧力説」が専門家の間で既に否定されていること、及び「圧力説」がいまだに信じられていること、2)私がその「圧力説」を前面に出して記事を書いたいきさつ、について書きました。この記事では、今回の件を通じて私が思ったことについて読んでいただけたらと思います。


■ 私が思ったこと


 今回のケースのような、すでに広まってしまっている誤解は、科学技術コミュニケーターが遭遇する問題の1つだと私は思います。間違った内容が広まっているというのは、悲しいことだと思います。特に今回のスケートの件は、何らかの思想や商業的な理由などがあるわけでも無いのに広まってしまっています。しかも、私自身も気付かずにいつのまにか誤解を広める当事者になっていました。


 間違ったことを書かないためには、十分な下調べが重要です。正しい情報を得ることが第1歩になります。また間違った情報を出してしまったことが判明したら、すぐに声明を出すべきでした。そういう場合に迅速に対応し、適切にアップデートしていことで信頼を勝ち得ることができると思います。今回の件は対応が遅くなってしまって、関係者に迷惑をかけてしまいました。反省しています。


 今回は専門家しか知らない情報へのアクセスについて考えさせられました。もちろん最近の専門家は正しい情報を広める活動を、すでに本やインターネット等で行っています。問題は非専門家がどのようにアクセスし、どのように読み解くかです。 私が調べる上で困ったのが、担保された情報をどのように探すかでした。普段だったら教科書を頼りにするのですが、困った事に私の持っている熱力学の教科書(の練習問題)には圧力融解説が書いてあります。インターネット上にも圧力融解説を紹介しているサイトは多いです。私はこの分野の素人ですから、著者の名前などで情報の信憑性を判断する事はできません。そこでソースとなると考えたのがリンク先の、「化学の質問ありまへんか」でした。根拠としては、著者が大学の先生だったことです。


 ちょっと話しはそれますが、CoSTEP教員の難波先生がblogで「にせ科学について、その分野の学会で公式声明をだしては」という提案を行っています。私はにせ科学だけでなく、今回のように間違った内容が広がってしまっているものについても、学会として公式声明を出していただくことは出来ないかと思いました。そうすれば非専門家でも簡単に、安心できる情報にアクセスできます。学者の間でどこまでが決着していて、どこからが決着してないのかを部外者が知るのはかなりの調査が必要です。学会内でも専門家によって違う見解があるかもしれません。それを学会の中で意思の統一を図って、それを発信しておいてもらえると非専門家にとって安心できる情報源になります。もちろん意見が分かれるようなことは統一見解が出せないでしょうが、今回の件のように既に学会内で結論が出ているような話題については可能なはずです。


 科学技術コミュニケーションはまだ過渡期であり、専門家との付き合い方についてもまとまっていません。正しいと保障できる情報をどう拾うか。非専門家がアクセスしやすい安心できる情報とは何か。今回の件はそんなことを考えさせられました。


(文:宮下友則) 最終更新 2006/5/17 ver.1.0