トイレで引力 〜北大植物園・博物館事務所附属便所〜

札幌中心街の一角にある北大植物園には
さまざまな植物があるだけではなく、古い建物も立ち並んでいます。
これらの建物は国の重要文化財に指定されています。


  • 植物園の古建築群。左から博物館事務所、付属便所、バチェラー記念館 (撮影:2005/12/1)


緑屋根から小さな塔が出ている
一番小さな建物が博物館事務所付属便所です。
この便所は今でも現役のトイレとして使える、めずらしい重要文化財で、
まさに植物園の穴場です。


  • 博物館事務所附属便所。男女別の水洗式。屋根の小さな塔は換気塔 (撮影:2005/12/1)

この便所はもともと、明治36年1903年)に、
今の北大農学部図書館書庫の東端あたりに建てられ、
その後、大正7年(1918年)に植物園に移築されたものです。


その後も何度も改修を受けた後、
平成4年(1992年)から2年間をかけて、調査・改修がなされ、
現在の形になりました。


様々な人によって使われ、守られてきたことによって、
今の私達も使うことができるのです。
私達も大切に、未来へ残したいですね。


  • 付属便所の変遷。3度の大きな変更をうけてきた*1


建築当初のトイレはもちろんくみ取り式でした。
つまり万有引力の法則にしたがって
うんちとおしっこは地面に埋められた容器に落ちていき、そこにたまります。


  • 左:裏手にある大便用くみ取り口の跡。板が張ってある。右上:表にある小便容器が埋められていた場所。尿は小便器から傾斜した管を通ってここまで運ばれる (撮影:2005/12/1)


万有引力とは、全てのものには引き合う力(引力)が働いている、ということです。
この場合、うんちやおしっこと地球が引き合っているために、
下にある便器のほうへ落ちていくのです。


現在、便器は水洗式に改修されており、
来園者は明治建築の雰囲気を感じつつ、快適に使うことができます。


  • 左:大便器。右:石製の小便器。石の上にはアクリル板が取り付けられている (撮影:2005/12/1)


どちらの水洗便器も、
高い場所にあるタンクにためられた水が流れ落ちる勢いで、便器を洗い流します。
つまりこの場合は、水と地球が引き合っているのです。


ちなみに、宇宙では、水もうんちも地球と引き合わずに、
浮いたままになってしまいます。


そこで宇宙船のトイレでは掃除機のように吸い取っています。
引力があってよかった〜としみじみ思います。
吸い取られるなんてなんだか落ち着きません。


ここで疑問が二つ。
なぜ、地球と宇宙のうんちは引き合わないのか?
そしてなぜ、人間とうんちは引き合わないのか?


いや、引き合って欲しくないですけど・・・


引力は、引き合うものどうしの距離が遠いと弱くなります。
そのため、地球から遠い宇宙では引力は弱くなります。


また、引力は、引き合うものの重さが重いと強くなります。
地球はうんちやヒトよりもはるかに重く、引き合う力が強いですが、
それに比べると人とうんちの重さは、どちらも非常に軽いのです。


  • 地球・ヒト・うんちのおおよその重さと引き合う力


このため、
人にうんちがひきつけられるほどの引力は働かないのです。


もっとも、トイレに行きたくなった人は
ものすごい力でトイレに引きつけられますけどね。


(文・写真・図:川本思心) 最終更新:2006/2/21 ver.1

【公式サイト】


【住所】

  • 中央区北3条西8丁目 植物園中央付近 (詳細は公式サイトをご覧ください)

※ 冬季開園期間(11/4〜4/28)は温室のみ公開のため、附属便所は見学できません。


【参考資料】


【取材協力】

*1:【水洗便所の増築時期】1968年に、園北側に来園者用の別の水洗便所が設置されたという記述(『北大125年』)、『保存修理工事報告書』の「水洗便所を使うようになったので、大便所を解体し…」という記述、および今回の取材で得られた「渡辺千尚館長の時代、昭和45・46年(1970・71年)ごろに設置された」という証言を合わせると、1968年から1971年頃までの間に増築されたと考えられる。1968年に下水施設等の整備が植物園全体で同時期にされたと考えると、前述の『工事報告書』の記述(不確かではあるが)と合わせて、1969年の倉庫化より前、あるいは同時期に水洗便所が増築された可能性が高い。