伊夜日子神社のヤマタノケヤキ


中島公園内、伊夜日子神社の脇に、大きなケヤキの樹が鎮座しています。
樹に貼り付けられた説明書きによれば、
神社が建てられた明治の末に、施主が植樹した樹だそうです。

  • 西日を浴びるケヤキ (撮影:2005/10/16)


ケヤキは関東に多い落葉広葉樹で、漢字で書くと「欅」。
木へんの右側は「挙」という字の旧字体で、
人が両手でものを差し上げた様子を示しています。
ケヤキの特徴はその字の通り、まっすぐ伸びた幹と傘状に伸びる枝です。
和名は「けやけき(すばらしい)木」がつまったものと言われています。
まっすぐ伸びることから、材木としてお寺の建築によく使われてきたそうです。


しかし、伊夜日子神社のケヤキの樹は、
幹がヤマタノオロチのように八つ股に分かれています。
ケヤキのような広葉樹は、切られると、根元からまた新しい芽が出てきます。
この芽は萌芽、あるいはヒコバエと呼ばれています。
北海道を代表するポプラなども、萌芽性の強い樹です。


ケヤキの歴史については、
神社に詳しい資料が残っていないそうなので正しくはわかりませんが、
若い頃なんらかの理由で切られたことが原因に考えられます。
ケヤキは本来、温帯で育つ植物ですから、
冬の寒さや積雪によってダメージを受けたのかもしれません。


樹の下のほうから新しい枝が出ていました。
また新しい幹ができてくるかもしれません。

  • ケヤキの根元 (撮影:2005/10/16)

■樹はどのように太っていくのか


樹は上へと伸長成長するほか、横にも肥大成長していきます。

植物の幹の真ん中には、たくさんの管が集まった維管束組織(いかんそくそしき)があります。
維管束組織の外側は、主に養分が通る管の集まった「師部」で(※上図では内樹皮の部分)
内側は、主に水が通る管の集まった「木部」です。


師部と木部の間には、「形成層」という薄い層があります。
この形成層の中では、新しい細胞が作られます。
新しい細胞が付け加えられることにより、樹は同心円状の外側に太っていきます。


■心材の話


樹が太っていくうちに、中心部の、木部の細胞が老化して死にます。
死んだ細胞は水を運ぶ能力を失い、「心材」と呼ばれる樹木の芯となります。
植物の管にはところどころに穴が空いています。
管の細胞が心材となってしまうと、周りの生きた細胞が、
チロース」という風船のような物質を作って穴を塞ぎます。
そうして、木部は「心材」とそれを取巻く「辺材」との間に壁ができ、
物質の行き来がなくなります。


心材の部分には様々な化学物質がつまっていて、菌や虫の侵入を防いでいます。
心材の化学物質には、人にとって有益なものもあります。
例えば、ヒノキの良い香りは心材中の物質によるものです。


ケヤキのようなニレ科の広葉樹は、心材部分に水を多く含んでいます。
辺材中の生きた細胞が含む水は凍結しにくいのですが
心材中の水は−5℃程度の寒い日が続けば凍ってしまいます。
このことによりケヤキは、樹心部の水分が少ないほかの樹木に比べて、
寒さによるヒビ割れ(凍裂)が起こりやすいと考えられます。


■おまけ


雪が降る前に飛び交う雪虫はアブラムシの一種。
札幌など都心で目立つのは、ケヤキに住むケヤキフシアブラムシです。
アブラムシも含め、樹の周りにはたくさんの生物が暮らしています。

  • ケヤキの幹についていたバッタ (撮影:2005/10/16)


(文・写真・イラスト タナカマイ)最終更新:2006/3/16 ver.1.2

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【参考文献】

  1. 『樹木学』ピーター・トーマス 2001 築地書館 
  2. 『朝日百科 植物の世界第8巻』1997 朝日新聞社 


【取材協力】