水辺に冷たい光をさがして 〜西岡公園〜
木々の輪郭が闇に沈むと、草のかげで小さな光が点滅し始めます。豊平区の西岡公園は、明治時代に旧陸軍の水道施設として造られた西岡水源池を中心とする水辺の自然公園です。トンボや野鳥の種類が多いことから、環境省の「ふるさといきものの里100選」に選ばれています。ここで7月中旬から8月にかけて、ホタルが見られます。
- 西岡公園のヘイケボタル(提供:札幌市豊平区土木センター)
【 ホタルの種類 】
ホタルは世界に約2000種、日本には45種が確認されています。日本人によく知られているのはゲンジボタルとヘイケボタルです。ゲンジボタルは本州、四国、九州に生息し、体長15〜20mm。ヘイケボタルは日本全土と中国東部に生息し、体長7〜10mmとゲンジボタルよりやや小型です。
北海道ではヘイケボタル、オバボタル、スジグロベニボタルの3種が見られます*1。
【 ホタルの住むところ 】
ホタルの幼虫はほとんどが陸上で成長します。ところがゲンジボタルとヘイケボタルの幼虫は水中に住みます。農薬の多用や川の汚染で数が激減したため、各地で川の浄化やホタルを飼育・放流する活動が行われてきました。
ゲンジボタルの幼虫は、カワニナという貝を主食にします。カワニナは流れのある清流に住み、水質の悪化に敏感です。一方、ヘイケボタルはカワニナ以外にモノアラガイやサカマキガイ、タニシを食べます。これらの貝は流れの緩やかな川や水田・湿地に住むため、ヘイケボタルの見られる場所は必ずしも「清流」ではなく、むしろ「きれいすぎない」水辺といえます。
- 西岡公園 八つ橋付近の流れ(撮影:2006/7/27)
【 光らなくてもホタル 】
ホタルの光は雌雄のコミュニケーション手段として知られています。しかし、すべての種類が夜に飛び交い光るわけではありません。ホタルは成虫の活動時間帯により
1. 断続的に強く発光する夜行性種
2. 連続した弱い光を発する両行性種
3. ほとんど発光しない昼行性種
の3グループに分けられます。
雌雄間のコミュニケーション方法はグループごとに違います。夜行性種はご存じお尻を光らせて、両行性種は発光とにおい(フェロモン)を使い分けて、昼行性種はフェロモンでコミュニケーションしています。
また、発光によるコミュニケーションにもいくつかのパターンがあります。
ゲンジボタルは雄が集団で飛びながら一斉に同じリズムで光り、違うリズムで光る個体を雌と認識します。ヘイケボタルは雄と雌が別々の発光をして互いを認識します。
さらに、同じ種のホタルでも、体長や発光間隔が生息地域によって異なることが知られています。たとえばゲンジボタルは、飛びながら約4秒間隔で光る集団と約2秒間隔で光る集団が、日本の東西に分かれて生息しています。
【 すばらしいエネルギー変換システム 】
ホタルの光はどのように作られるのでしょう。ホタルの体内にはルシフェリンという発光物質があり、これにルシフェラーゼという酵素とATP*2が作用すると酸化反応を起こして発光します。
ルシフェラーゼはATPをAMPに変える反応に関わるだけでなく、オキシルシフェリンに結合して光を出す役割も果たしている |
- ホタルの発光
電球と違い、ホタルの光は熱を出さないことから「冷光」*3と呼ばれます。ホタルはATPから取り出したエネルギーを熱として捨てることなく、90%以上を光に変えることができるのです。人間が作ったどんなシステムもこれほど高い効率は得られません。
筆者はホタルを見たのはこれが初めてでした。やっと出会えたホタルは思いのほか小さく、静かに光っていました。しかし、ふと我に返ると蚊の羽音と執拗な攻撃が・・・。
浴衣にうちわを持っての優雅な「ホタル狩り」のイメージとは、ほど遠い夏の夜でした。
(文・図・写真 原林滋子)
アクセス
公式サイト
http://www.city.sapporo.jp/ryokuka/nishioka/
・ホタルの観察に適した条件:湿度が高く、風のない晴れた夜。月明かりもないほうがよい。日没後1〜2時間が見頃。
・清田区、西区ではNPO法人や小学生がホタルの飼育・放流に取り組んでおり、清田区役所、西区の左股川緑地で放流会や鑑賞会が行われます。
参考文献