トンギョもつどう 〜札幌コミュニティードーム「つどーむ」〜



アクセス
 地下鉄東豊線栄町駅から東へ10分ほど歩くと、札幌コミュニティードーム「つどーむ」につきます。「つどーむ」は平成9年にオープンしたドーム型多目的施設で、名前の「つどーむ」は人々が集う場所との意味から名づけられました。札幌ドームができるまで、札幌ではドームといえば「つどーむ」のことでした。 

  • トンギョの池について

 その「つどーむ」の敷地内、北側東端に長さ15m、幅5m、水深が20cmほどの池があります。この池は「つどーむ」を建設するときに同時に整備された人工池で、池の底はコンクリート製、周囲は芝生になっています。正式には貯留地といって、「つどーむ」の敷地内に降った雨水を一時的に貯めておく働きをもった場所です。池の水位が上昇したときには、敷地を隣接して流れる丘珠川という小川(どぶ川に近い)に、水を排出する仕組みになっています。

 さて、散歩に出かけた5月のある晴れた日に池の中をのぞいてみると何やら小魚が泳いでいるのが見えます。何が泳いでいるのか確かめたくなり、家から網を持ってきました。捕まえてみると「トンギョ」でした。

  • トンギョについて

トンギョとは、北海道での俗称で、背びれの前方部分に棘があるトゲウオ目トゲウオ科の魚を指します。トゲウオは成長しても7cm程度の小魚ですが、水生昆虫や浮遊動物、小型の甲殻類などを捕食する動物食です。日本に生息しているトゲウオの種類は、背中に長くて3本の棘をもつイトヨ属が2種、背中に9〜10本程度の短い棘を持つトミヨ属が5種、合計7種が確認されています。本州に棲んでいたものの中には、残念ながらすでに絶滅してしまった種もあります。生殖地域は、本州の兵庫県滋賀県あたりを南限として主に北陸・東北以北に分布しています。生息環境は淡水河川や池沼をはじめ汽水域*1や海の沿岸・潮溜まりなど種により様々です。しかし繁殖は、どの種も共通して、水草が存在する緩やかな流れの河川や池で行います。オスが水草などの植物で巣を作り、その中にメスを誘い込み産卵させ、卵や幼魚を保護するという独特の繁殖行動をとることが知られています。 
日本の中では、北海道が最も多くの種類のトゲウオが住んでいる、トゲウオの本場です。イトヨ属の「イトヨ」、トミヨ属の「イバラトミヨ」(キタノトミヨともいう)、「エゾトミヨ」、「トミヨ」の合計4種のトゲウオの生息が確認されています。


つどーむ」につどっていたトゲウオは…トミヨ属の「イバラトミヨ(淡水型)」でした。
「イバラトミヨ(淡水型)」は北海道では、多くの場所で生息しているあまり珍しくもない種類のトゲウオです。しかし、本州では河川の直線化による流速の増加や、宅地造成による湧水地の減少といった環境変化が原因でその生息場所がどんどん少なくなっています。もともとトゲウオは氷河期に分布域を広げた北方起源の魚で、本州では水温があまり上昇しない冷たい湧き水が水源となっているところに棲んでいる場合が多く、そのような場所が減少していることが本州で生息数を減らしている原因となっています。個体数が激減し絶滅の危機に瀕している地域もあります。
ここ北海道でも、汽水域に生息している「イバラトミヨ(汽水型)」は、環境変化によって容易にその生息数を減らす可能性があり、北海道レッドデータブックという北海道の希少野生生物の情報を記載した本の希少種に指定されています。さらに、日本では北海道だけに生息するエゾトミヨは、その生息する場所と個体数が明らかに減少していることから、北海道レッドデータブックだけでなく環境省レッドデータブックの準絶滅危惧種に指定されています。
  

  • トンギョ達よフォーエバー!!

 「つどーむ」の池に棲むイバラトミヨは成魚だけでなく稚魚もいることから、この人工池に定着していることがわかります。イバラトミヨが生活し繁殖するための生態系がいつのまにかできあがっていたのです。イバラトミヨに限らず、野生動物は新たに生息場所を広げようとする強さと、人間にとってはちょっとした環境変化でも生息場所が脅かされるという弱さの両面を持ち、その微妙なバランスの上で我々の住む地球の生態系や自然が成り立っているのです。
(トンギョの親子)


人工池である「つどーむ」の池に人知れず「つどい」住み着いたイバラトミヨは、都市化が進む札幌に自然の豊かな環境が残っていることを象徴する存在かもしれません。トゲウオの本場、北海道がいつまでもトンギョの「つどえる」場所であり続けてほしいものです。
 (文・写真 三浦久和)

【アクセス】

【住所】

  • 東区栄町885番地1

【参考文献】

  1. 日本産魚類検索   東海大学出版
  2. 原色日本淡水魚図鑑 保育社 

【関連リンク】

「閲覧画面へ」をクリックしトゲウオ科を参照して下さい。トゲウオ科5種の画像と分布が閲覧できます。


【謝辞】
 トゲウオの同定について、札幌市豊平川さけ科学館 学芸員 岡本さんにご協力をいただきました。ありがとうございます。

*1:海水と淡水が交じり合っているところのこと