光のいたずら・蜃気楼 (その1・光学編)〜小樽市朝里〜



■石狩湾で蜃気楼が見られます


 JR函館本線の朝里駅で電車を降りて、海岸沿いに札幌方向へ3分ほど歩けば朝里海水浴場に着きます。ここからは、石狩湾を広く見渡すことができます。私はよくこの場所に来ますが、ただ海をぼーっと眺めているだけではありません。ここ小樽市朝里の海岸は蜃気楼の「おすすめ観察スポット」なのです。


  • 小樽市朝里の蜃気楼観察スポット:朝里海水浴場


 ここから対岸を見ると、約17km先の石狩湾新港のタンク群を望むことができます。蜃気楼が発生すると、この景色がいったいどんなふうに変化するのでしょうか?



■ 蜃気楼はどのように見えるの?


 蜃気楼とは、遠くから届く光が途中で屈折するために、景色が実際とは異なって見える現象です。どのように見えるかというと、遠くの景色が伸び上がって見えたり、上方に反転して見えます。石狩湾新港が蜃気楼になると、下の写真のように丸いはずのタンクは伸び上がって反転し「ひょうたん」のように見えることもあります*1。ここ石狩湾では毎年4〜7月頃、年に10回程度蜃気楼が発生します。見応えのある蜃気楼は年に1〜2回しかないので、そのチャンスにめぐり合うのは大変好運なことです。


 

  • 石狩湾新港のタンク群(超望遠撮影)。蜃気楼(2001/05/30)と実景(2006/06/30)

 〜風車は、あとから2005年に作られました〜


 蜃気楼が発生している時は、遠くの景色がかすんでいてはっきりとは見えません。そのような状況でも、良く観察していると、タンクがちぎれたりくっついたり、刻一刻と変化します。その変化する様子は、まるで「おばけ」でも見ているようで、とても面白いです。


■蜃気楼を科学的に考えると


 それでは、蜃気楼が起きる仕組みを説明します。科学的には蜃気楼は光の屈折により起きる光学現象であると言えます。光が通過する物質(空気や水など)が均一ならば、光は通常その中を直進します。水槽の中に水を入れて、レーザー光をあててみましょう。下の写真のように、レーザー光は水の中をまっすぐ進みます。水槽の向こう側に置かれた「蜃気楼」という文字も、ゆがんではいません。


 :H215

  • 水槽での実験1:均一な水の中でレーザー光は直進する。向こう側の文字がゆがまずに見える。


 ところが、水槽の中の下層に濃い食塩水、上層に普通の水を入れた場合、食塩水と普通の水では光がその中を進む速度が異なるため、その境界で光がわずかに屈折します。したがって下の写真のように、横方向に進む光は上に凸になるように進みます。光がまっすぐに進まないので、水槽の向こう側の文字も本来とは違って見ます。


 :H215

  • 水槽での実験2:塩水と普通の水の境界層でレーザー光が屈折して、光が凸に進む。向こう側の文字も変形して見える。


 つまり、「光の進む速度が物質の種類によって異なるために、その境界で進行方向が変わり、景色が実像とは異なって見える」というのが蜃気楼発生のメカニズムです。


 石狩湾の場合は、温度の異なる空気が上下にあることによってそこを通る光が屈折し、蜃気楼が発生するのです。それでは、どんなときに温度の異なる空気が存在するのでしょうか?8月20日掲載の記事「光のいたずら・蜃気楼(その2・気象学編)」では蜃気楼が発生する際の気象条件について紹介をしていきます。


(文・写真・図 大鐘卓哉)

朝里海水浴場

  • 【アクセス】:JR函館本線朝里駅下車。海岸沿いに札幌方向へ歩いて約3分。
  • 【住所】:小樽市朝里4丁目1


【参考サイト】

  1. 北海道・東北蜃気楼研究会(石狩湾の蜃気楼を詳しく紹介)
  2. 琵琶湖蜃気楼情報(水槽の実験についての紹介があります)

*1:蜃気楼は遠くの景色が変化して見えるので、双眼鏡を使って観察することをおすすめします。