ゆったりとした時間の流れを求めて 〜大通公園西6丁目 日時計〜




札幌の中心を東西にのびる大通公園
地下鉄大通駅から地上に出て、テレビ塔を背にして西に向かって歩いていくと、西6丁目に野外ステージが見えてきます。そのステージの斜め前の芝生の中に、花に囲まれた大きな日時計があります。

(大通西6丁目:撮影2006年7月9日)



日時計のしくみ】
さて、このように私たちが日常の風景の中でなにげなく目にする日時計ですが、それが「どのような原理で正しく時を示すのか」を調べてみると、思っていた以上に奥が深いことがわかります。日時計には様々な形式がありますが、一番簡単なものを例にとってそのしくみを説明しましょう。まず、日時計の文字盤(庭日時計の場合は地面)に対して垂直になるように、ノーモン(日陰棒)と呼ばれる棒を立てます。ノーモンに太陽の光があたると、文字盤に影ができます。この影の動きに注目しましょう。


太陽が一番高い位置にある(=南中)時刻を12時とし、その時のノーモンの影の向きを基準にすれば、そこからの影の向きの変化で、今の時刻を知ることができます。地球にいるわたしたちから見ると、太陽は空の上で少しずつ位置を変えながら、ちょうど一日、つまり24時間で同じ位置(厳密には少し違う)に戻ってきます。そうすると一時間あたり、360÷24=15ですから15度方向を変えていることになります。これは同時に、ノーモンの影も逆向きに同じ動きをします。したがって、日時計の文字盤をノーモンを中心として15度ずつ分割して印を付ければその影が印を通過するたびに一時間の時間の経過がわかるわけです。

(図1:日時計の基本形)
         

【ずれを補正する】
これが一番簡単な日時計のしくみです。さてこの日時計は、どの程度「正確」なのでしょうか?現在私たちの社会が使っている時刻は「日本標準時*1と呼ばれているものです。ところが、上で説明した通りの日時計を実際に作ると、一貫した時刻のずれが生じることがわかっています。この「ずれ」には、日時計が設置されている位置(緯度と経度)と地球の動き方(自転と公転)が大きく影響しています。これらの影響をうまく補正することで、日時計の示す時刻はより正確さを増します。


①経度によるずれの補正
東西に長い日本では太陽が一番高くなる時刻(=南中時刻)が場所によって違います。例えば本日7月18日の場合、札幌や那覇における標準時との時間のずれは、表1のようになります。したがって、札幌は25分遅く、那覇では30分早くなるように文字盤をずらす必要があります。
(表1)


②地軸の向きと緯度によるずれの解消
地球は南極点と北極点を結ぶ地軸を中心軸にして傾いた状態で自転しています。このため、太陽は私たちから見ると地軸を軸に回転しているように見えます。そのため、日時計を正確に作動させるにはノーモンを地軸に向ける必要があります。北半球の場合、地軸の延長上にある北極星にノーモンを向けることになります。この時文字盤(地面)とノーモンの角度は緯度と同じ角度になります。


③公転運動によるずれの補正
地球は太陽の周りを回っていて、これを公転運動といいます。公転運動の軌道は楕円形をしており、太陽と地球の距離によって、公転速度は速くなったり遅くなったりします。その結果、太陽が南中してから次の日に再び南中するまでの時間が変わってしまうので、それを補正する必要が生じるのです。*2


以上のことから、標準時は、
標準時=日時計の時刻―(公転運動でのずれ(分)+経度でのずれ(分))
で計算できることがわかります。
このように、「ずれを補正する」ことで、より正確な日時計をつくることができるのです。


日時計のいろいろ】
また、日時計には様々な種類があります。
ノーモンを真北において緯度の角度分傾け、文字盤をノーモンに対して垂直においたものを、その形状から「コマ型日時計」といい、文字盤を地面に水平に置いたものを「水平型日時計」といいます。
また形態によって、庭日時計、携帯日時計、柱式日時計などと呼ばれるものもあります。

 


では、大通公園日時計は何と呼べばよいのでしょう。地面に文字盤となる数字のブロックが見え、ノーモンは北の方向を指しています。ですから、これは「水平型日時計」になります。また、花壇の一部となっていますので、「庭日時計」でもあります。実生活で標準時を使用している現代では、このようにアクセサリー的に使用されることが多いようです。
「コマ型日時計」は新札幌の青少年科学館正面の館外で見ることが出来ます。これもどちらかというと芸術的な感じがしますね。
     
(左:大通公園日時計:撮影2006年7月9日 右:青少年科学館の日時計:撮影2006年6月25日)


【おわりに】
日時計の歴史は非常に古く、紀元前2000年古代エジプトではすでに使われていました。短所は昼の晴れた日にしか使えないということ。それでも手軽さもあって昔から多くの人々に利用されてきました。現在のアナログ式の時計の針は北半球での日時計の影の動きに合わせたものです。そのために時計回りが「右回り」になっています。


日時計の示す時刻はゆっくりとした流れを感じさせます。札幌の短くもさわやかな夏のひととき。あなたもお気に入りの本を持って、日時計の周りの木陰でゆったりとした時間を過ごしてみませんか。



(文、写真、作図 かみむらあきこ)

  • 【アクセス】 地下鉄南北線大通駅2番出口から徒歩約3分
  • 【住所】   札幌市中央区大通西6丁目
  • 【参考資料】   

       -理科年表平成18年版  国立天文台 編
       -国立天文台サイト http://www.nao.ac.jp/
       -日時計 Wikipedia  日時計

*1:日本標準時は、1884年明治17年)に万国子午線会議で決定したイギリスのグリニッジ天文台付近を通る子午線を基準にした「世界標準時」をもとに、その2年後の1886年に決定されました。日本では、兵庫県明石市の東経135°を基準の子午線としています。その後何度か補正項目が加えられて、現在は「協定世界時UTC)」という時刻が基準になっています。

*2:公転運動による一日の長さの変化は、本日7月18日の場合は約6分短くなります。また、今年の場合、最長は11月3,4日で約16.5分長い日になり、最短は7月26,27日で約6.5分短くなります。