北極の未来は・・・ 〜円山動物園〜





銀世界の円山公園に、冬でも元気な動物の姿を観察できる、円山動物園があります。
ここで飼育されているホッキョクグマのピリカは、12月14日に1歳になったばかり。まだまだ子グマです。


  • 鮭をほおばるピリカ (2006/12/15撮影)

筆者が訪れたときは、ちょうどピリカのお誕生会が催されていました。
プレゼントの鮭を美味しそうに食べるピリカの無邪気な姿は、とてもほほえましいものでした。


ホッキョクグマは、北極圏*1に住む*2熊です。
北極の中心付近には、陸地がありません。海氷という、海が凍ってできる氷があるだけです。
ピリカの仲間のホッキョクグマは、一年のうちほとんどを海にぷかりと浮かぶ海氷で生活しています。
対して、北極から見ると地球の反対側にある南極地域には陸地があり、南極大陸と呼ばれています。
南極大陸にはペンギンが生活しています。
ペンギンも、円山動物園で飼育されています。


  • たたずむペンギン (2006/12/15 撮影)


【北極が消える!?】


先日、2040年までに北極海の海氷がほとんどなくなってしまうかもしれないというショッキングな報告がありました。*3
地球温暖化の影響を予測したものです。
海に浮かんでいる海氷が溶けると、海は一体どうなると思いますか。
海水面が大幅に上昇してしまうのでしょうか。それともあまり変わらないのでしょうか。
ちょっとした実験をして、考えてみましょう。


アルキメデスの原理】


コップに水を入れ、氷を浮かべます。
水面の高さに印をつけて、部屋においておくと、氷が全部溶けます。
水面の高さはどうなったでしょうか。



  • 氷が溶ける前(左)と後(右)で水面は変化しなかった。  (2006/12/29 実験、撮影)


この実験からもわかるように、水に氷が浮かんでいるとき、その氷が全部溶けても水面の高さは変わりません。
一体なぜでしょう。
これは古代ギリシャの学者、アルキメデスが発見した原理が関係しています。



液体に物を入れると、そこには浮力が生まれます。
その浮力の大きさが、物体が押しのけた液体の重さに等しくなるというのがアルキメデスの原理です。*4


この原理を基に、水に浮かんだ氷がとけても水面の高さがなぜ変わらなかったのか、考えてみましょう。
例えば、水10g分を凍らせたとします。
水の密度は1g/cm3なので、水10gの体積は10cm3です。
しかし氷は水よりも密度が低くなる*5ので、10gの水を凍らせても10cm3にはならず、それよりも大きくなります。


氷は、重力と浮力のつりあう位置にくると静止します。
氷にかかる重力は10g重なので、浮力が10g重になるとつりあいます。
10g重の浮力を得るためには、水面より下に10cm3分の体積があればよいので、それよりも大きくなっている氷は一部を水面から上に出します。


  • 氷を水に浮かべた場合


もともと10gの水が凍った氷ですから、溶ければ10g、すなわち10cm3の水に戻ります。水面の高さは変わらないというわけです。


海氷も同じです。
溶ければ、水面より下にある塊の体積に等しくなるので、海水は増えないはずです。*6
これらのことから考えると、海氷が溶けても特に悪い影響はないように思えますね。
しかし、そうではありません。
海氷は大切な役割を持っているのです。


【海氷の大切さ】


海水面への影響がたとえ少なくても、海氷を主な生活場所としているホッキョクグマにとって、事態は深刻です。
ホッキョクグマは、アザラシなどと違い海を泳いで行動することができないので、氷がなくなってしまうと行動範囲がかなり限定されます。餌をとることが難しくなり、どんどん数が減っていくと考えられています。
また、温暖化によって北極圏の海氷がなくなると、さらなる気候の変動をおこすと考えられています*7
海氷がとけること、それは様々な現象を引き起こす大変な危機なのです。


もちろん、地球が温暖化するとは海氷だけではなく陸地にある氷や雪も溶けてしまいます。
このときは溶けた分だけ海水が増えてしまうので、海水面が上昇してしまいます。
海氷だけを考えれば海水面の変化は少ないかもしれません。
しかし地球温暖化の影響を多方面で考えると、やはり海水面は上昇してしまいます。小さな島は沈没の危機にさらされています。


ピリカたちホッキョクグマなど、北極圏に住む動物たちの姿を鑑賞するとき、その故郷の北極に思いをはせてみてください。とけゆく北極を、想像してみてください。


そして、
私達ができること、考えてみてください。

【アクセス】
円山動物園
市営地下鉄東西線 円山公園駅下車
バスターミナルよりJRバスに乗車して、動物園前で下車

年始は1月1日より開園しています。2007年の干支、イノシシも来園中!

【参考資料】

  1. 「北極と南極の100不思議」東京書籍 神沼克伊 監修
  2. 「南極・北極の百科事典」丸善 国立極地研究所 編集
  3. 「物理学」裳華房 小出昭一郎 著
  4. http://stepsrx.hp.infoseek.co.jp/fushigi/seafaceup/think01.html


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*1:北緯66.5度より高緯度の地域。この範囲の面積のうち3分の2が海です。

*2:北極圏中心部よりも周辺部のほうが数が多いようです。

*3:アメリカ国立大気研究センターとワシントン大学などの研究チームが「地球物理学研究レター」に発表したものです。特集記事が2006年12月28日付けの北海道新聞に載っています。

*4:

*5:水は固体になったときに体積が増える、珍しい物質です。詳しくはこの記事をご覧ください。

*6:実際は海水に含まれる塩分などの影響もあり、海水面は若干上昇すると考えられます。北極圏の氷が溶けると海水面がどうなるかについては、まだ議論が続いているようです。

*7:海氷は黒い色をした海に対して白くみえるので、太陽からのエネルギーを吸収せず反射します。また、気温が-30度になっても−1.8度という温かさを保つ海の、ふたになります。この働きで、極圏の寒冷な気候が保たれています。海氷が薄くなったりなくなってしまったりすると、太陽エネルギーが吸収されます。さらに温かい海水によって空気が温まり、極圏の気候はどんどん温暖化していくと考えられます。北極海の海水温も地球規模の気候に影響を及ぼしていると考えられているので、北極圏の海水温が上昇することはこれの変動につながります。