かもかも川の冬のかもランデヴー

豊平川の作る札幌扇状地を流れる創成川は、
札幌の市街を東と西にわけ、街に豊かな景観を与え親しまれています。
創成川の上流の、中島公園の西側に寄り添いすすきの付近の南7条まで続く
流れは鴨々川(かもかもがわ)と呼ばれ、文字通りカモが住んでいます。
(ただし、この名前は鳥のカモに由来するのではなく、
アイヌ語でサケを採る道具「カモカモ」から付いたという説や
京都の鴨川にちなんで付けたという説など、諸説あります。)

  • 冬の鴨々川 (撮影:2006/2/7)


春や夏の暖かい昼下がり、公園のベンチでカモを眺めることはありませんか?
北大構内のひょうたん池や道庁前の池など、
札幌にはカモを観察できるスポットがたくさんあります。
「カモ」という名前はカモドリの縮まったもので、「浮かぶ鳥」という意味。
昼間ぷかぷか池に浮かんでいるカモたちは
夜はどこで寝ていて、池の凍ってしまう冬はどこで過ごしているのだろう…
今回は、前から気になっていたそのことについて調べてみました。

  • 雪に覆われた冬の中島公園 (撮影:2006/2/7)


■カモの生活
実は、カモは昼行性の鳥ではありません。
日中は湖や川で休息し、夜間に水田や湿地でエサをとって暮らしています。

  • 精進河畔公園の川のほとりで休むカモ (撮影:2005/11/23 提供:川本思心さん)


エサは主に水中の水草や岸辺の木の実で、
ヤゴやタニシなどの水棲生物を食べることもあります。
札幌市街地にいるカモは、大体マガモカルガモで、
あまり深く潜らず、水草を中心に食べています。


秋から冬にかけてが繁殖期で、不凍水域や海岸部で越冬します。
札幌のカモは、鴨々川や発寒川など冬でも流れのある所で過ごしています。


つがいになると群れから離れて暮らし、春にヒナが生まれます。
鳥には、メスとオスが協力して巣を守る巣卵防衛型と、
オスはほとんど関与せず、メスが巣を守る営巣型がありますが
カモの場合は、後者の営巣型です。
メスのみが卵を温め、ヒナが生まれるとヒナを連れてお散歩します。
ヒナは親に教えられて、自分で餌を取ります。

  • 春のひょうたん池のカモ親子 (撮影:2004/5/14 提供:守真奈美さん)


■冬のお嫁さん探し
カモは春の産卵より数ヶ月前の、餌の少ない冬につがいを作ります。
これは、他の鳥類とは異なる、カモ類独特の生態のひとつです。


カモが冬につがいになるのは、メスにとって有利だからという説が有力です。
カップルになれば、夫が天敵や他の独身オスのセクハラから守ってくれます。
安心して十分な餌をとれるので、繁殖の成功率が高まります。
またカモの世界では、既婚のメスのほうが独身のメスよりも地位が高いのです。
オスの方もまた、つがいになれば求愛に注ぐエネルギーと時間がなくなり、
ゆっくり餌をとることができます。


オスのカモは、お嫁さんを獲得するために様々な努力をします。
生物どうしがコミュニケーションをとるために身につけた、
特定のパターンの行動や特別な体の構造のことをディスプレイといいます。
毒を持った毛虫がけばけばしい体色で捕食者に警告するのも
ヒナがピイピイと親に餌乞いをするのも、ディスプレイの一種です。
オスがメスを引寄せるための行動や体の変化を、求愛ディスプレイと呼びます。


オスのカモの場合は、繁殖期に玉虫色の頭に黄色いくちばし、
尾羽の中央からカールしたビロード状の柔らかな羽のでた派手な衣を纏います。

  • 中島公園のカモたち (撮影:2001/11/25 提供:荒瀬美由紀さん)


このきれいな羽は繁殖期が終わる頃には抜け落ち、一時的に飛べなくなるため、
子育ての頃にはメスと同じような茶色の体になります。
地味になったオスの体色は、「エクリプス」と呼ばれています。
この時期も、オスのくちばしの色だけは鮮やかな黄色のままなので
(メスはくすんだ茶色)くちばしで見分けることができます。
メスはきれいな羽色のオスを好みますが、
このように繁殖能力の高いオスが選ばれることを性淘汰といいます。

  • 繁殖期のオスのカモ (撮影:2004/5/29 提供:守真奈美さん)

  • 大沼公園のエクリプスのオスのカモ (撮影:2005/7/17 提供:斉藤有香さん)

  • メスのカモ 


豪華な羽で着飾ったオスは、
頭や尾を上げて「ピュー」と高い声で鳴き、メスにアピールします。
カモに特徴的なのは、求愛中に水を飲むマネや羽づくろいをすることです。
このような、一見求愛とは何の関係もない、おかしな行動を転位行動と呼びます。
行動学者のローレンツによれば、転位行動は
相手に情報を伝える時の、偶然の動きや反応が進化の過程で定着してしまったものだそうです。


カップルになったオスは、頭の羽を膨らまし、妻の前を堂々と泳ぎます。
妻は、他のオスが近づいてくると、くちばしを振って
低い鳴き声をせわしく出す「けしかけ」のディスプレイで追い払います。
そうして二羽は群から離れて、めでたしめでたしと幸せに暮らします。


(文・写真 タナカマイ) 最終更新 2006/3/15 ver.1



【参考資料】

  1. 『鳥類の研究-生態-』黒田長久 新思潮社
  2. 『北海道野鳥図鑑』河井大輔・川崎康弘・島田明英 亜璃西社
  3. 『行動生態学』J.R.クレビス N.B.デイビス 蒼樹書房
  4. 東アジア地域ガンカモ類保全行動計画・重要生息地ネットワーク公式HP 第3回自由集会要旨(web)


写真を提供してくださった皆様、ありがとうございました。