サケへの新たな挑戦 〜札幌市豊平川サケ科学館〜


真駒内公園の一角に生きているサケを観察できる札幌市豊平川サケ科学館があります。春は稚魚の放流、夏は川ウオッチング、秋は採卵実習にサーモンウオッチングと、ここはサケや水辺の生き物との観察体験ゾーンです。


 石狩湾に注ぐ豊平川は、昔は多くのサケの上る川でした。それを有効利用するためサケの増殖事業が実施されることとなりました。その後、都市化の影響で水質の悪化が進みサケの遡上は激減することとなリます。しかし下水道整備の向上と1979年からの稚魚の放流事業の再開の結果、カムバックサーモンの歌のようにその稚魚はりっぱなサケとなって3年後は戻ってきました。

  • 札幌市豊平川サケ科学館 (撮影:2005/11/14)


館内には、サケの生活史を紹介する展示やビデオが流れ、またいろいろなサケの生態が観察できるようになっています。
日本ばかりでなく外国からもこのサケの生態を見ようとたくさんの人々が訪れています。
サケの仲間には、一生に一回しか卵を産まないものと何回でも産めるものがあります。地下の展示水槽には、何回でも産める種類としてニジマス、イトウ、オショロコマなどが展示されています。

  • サケの仲間のニジマス(ホウライマス) (撮影:2005/11/14)


  • イトウの色素のないアルビノ*1 (撮影:2005/11/14)


  • 川での様子をあらわした産卵模型 (撮影:2005/12/15)


別館のさかな館には、水生生物や、かえる、サンショウウオなどの両生類も展示され、子どもたちの人気を集めています。
本館では、サケの受精卵の展示があります。

  • 仔魚ま近い元気な発眼卵 (撮影:2005/12/15)


  • 仔魚ってなあに? (撮影:2005/12/15)


サケ科の魚類は、種によって、積算水温が一定ということが分かってきました。積算水温とは、受精から孵化までの環境水温と、時間(H)をかけたものです。受精後の水温を管理することで、孵化の日にちを割り出すことができ、それによって、計画的な放流ができるようになりました。
計画的な放流は、稚魚が海へ遡上する確率を高めます。
シロザケの積算水温は480℃H 水温10℃で48日後に孵化します。

  • 石の下で泳ぐ、孵化した仔魚(撮影:2005/12/15)


仔魚は、5月には立派な稚魚になり、たくさんの子どもたちの手によって真駒内川に放されます。


  • 科学館横を流れる真駒内川 (撮影:2005/11/14)


川の保全とともに全国各地でサケの母川回帰率が上がってきました。
サケがたくさん取れることより、食料としてばかりではない活用法の研究がされる様になりました。

  • サケの頭(撮影:2005/12/15)


サケは、そのものが食用である安全性から健康食品、医療用へと新しい活用が開発されています。
そのひとつはサケの皮や、うろこからコラーゲンを精製する活用です。
コラーゲンとは、人体では、体内のタンパク質の繊維状の組織体でいろいろな部分の基礎や壁*2となって体を維持するという重要な働きをしています。また、人体の全タンパク質の30パーセントを占めています。しかし加齢とともに組織を維持する力が減少し、保水力が衰え、柔軟性が失われていきます。それが老化といわれるものです。
それゆえコラーゲンは必要とされるのです。
高齢化社会、健康志向の進んだ今日、安全性の面からも最も期待される物質のひとつです。


体外から摂取するコラーゲンには動物由来のもの*3と海洋性のもの*4があります。
体内でコラーゲンになりやすい小さな分子構造で、また匂いのないことから、海洋性コラーゲンペプチドは、健康食品の他*5医薬品に、またゼラチンは食品加工や添加*6へ利用されています。
日常の食品でも海洋コラーゲン入りという表示をよく見かけるようになりました。


ペプチドとは、2個以上の同種または異種のアミノ酸の間で、一方のアミノ酸の水素原子と他方のカルボキシル基の水酸基が水分子のかたちで取れて結合した化合物の総称をいいます。

  • 5つのアミノ酸がつながったコラーゲンペプチド


アミノ酸から体の出来上がる順番は分子量の順で、
アミノ酸<ペプチド<コラーゲン<タンパク質<体
となります。


また、アレルギーなどの危険がないことより、医療分野とりわけ医薬用ハード・ソフトカプセル、錠剤、トローチ、代用皮膚のラミネート材、止血剤、細胞培養用ゲル、研究試薬での利用が進んでいます。

  • 20個ものアミノ酸が、3本の束になって組織を守るコラーゲン


ふたつ目は、今まで、産業廃棄物として扱われることが多かったサケの白子の活用です。
その中のDNA*7は医薬品、化粧品、空気清浄機フィルター他*8に活用されています。またプロタミン*9などいろいろな成分の幅広い開発が進められています。
海には、まだいろいろな生物の力がかくされています。サケの隠れた力と、海の生物の新しい力をサケ科学館で想像してみてはいかがでしょう。


(文・撮影・図:北守敦子) Update 2006/3/19 ver1.1

【公式サイト】

(休館日:月曜日 入館料:無料)  TEL: 011-582-7555


【住所】


【アクセス方法】


【参考資料】

  1. サケ・マス魚類のわかる本 (ヤマケイFF“CLASS”シリーズ)』 井田斉, 奥山文弥 山と渓谷社 2000
  2. nichiro サーモンミュージアム サケの加工 (web)
  3. 井原水産株式会社 海洋性コラーゲン (web)
  4. 楽天市場 komachi サプリメントハウス (web)

*1:アルビノ】遺伝的にメラニンを生成する酵素が欠落し、同じ種類でも体色が、黄色や、白になる。ニジマスは優性遺伝で片方の親がアルビノ(黄色)であれば、子にアルビノ(黄色)が引き継がれる。通常の魚では、劣性遺伝で、両親ともアルビノでなければ引き継がれない。

*2:【コラーゲンを含む組織】主に皮膚、軟骨、腱、腸、血管など

*3:【動物性コラーゲン】牛豚鶏の骨皮からとりだしたもの

*4:【海洋性コラーゲン】サケの皮やうろこからとりだしたもの

*5:【コラーゲンを含む製品】加水分解コラーゲン粉末、コラーゲン入り乳酸飲料、化粧品、洗剤(洗顔料、食器用台所洗剤、歯磨き粉)

*6:【ゼラチンを含む製品】菓子、惣菜、ソーセージの結着材、酒の添加剤、調味料

*7:【DNA】遺伝子の本体で細胞分裂のときに複製される。デオキシリボ核酸ともいわれる

*8:【DNAが使われている製品】有機EL素材、医歯科素材

*9:【プロタミン】DNAとくっついているタンパク質。健康食品、医薬品、食品添加物素材(保存料)に利用される