ドングリころころ、「こんにちは」と言ったのは・・・ 〜月寒公園〜
地下鉄美園駅から環状通をとおって羊ヶ丘通に出ると、左手に木立に囲まれた小高い丘が見えてきます。この丘一帯が月寒公園です。自然林を含む起伏に富んだスペースに野球場、テニスコート、パークゴルフ場を備え、冬は子供たちがスキーやそり遊びを楽しみます。
緩い坂をのぼると、周囲を背の高い落葉樹に囲まれた駐車場に着きます。足元に目を向けると、落ち葉に混じってドングリが落ちているのに気がつきます。
- 左:月寒公園の丘から見える風景 / 右:紅葉した自然林 (撮影2006/10/15)
【 ドングリとは? 】
ドングリとはブナ科のコナラ属、シイ属、マテバシイ属の種子を総称したものです。まるく堅い殻に包まれ、「帽子」*1をかぶったような姿がユーモラス。リスや野ネズミなどの越冬用の食料になるとともに、子供の遠足のお土産としても人気です。
- コナラの木とドングリ (撮影2006/10/15)
ところで、ドングリに小さな穴があいているのを見たことはありませんか?
拾ってきたドングリを部屋に置いておいたらいつの間にか小さな芋虫が!と驚いたことはありませんか?
この芋虫は「ドングリ虫」と呼ばれます。ドングリにあいている穴はドングリ虫が出てきた跡です。夜、周囲が寝静まった時間帯には、ドングリの中から彼らが活動するプチプチという小さな音が聞こえてきます。
【 こんにちは、ドングリ虫 】
ドングリ虫の正体は、ゾウムシの仲間の幼虫です。月寒公園で見つけたドングリに入っていたのは「コナラシギゾウムシ」の幼虫でした(コナラシギゾウムシの画像はこちら。ページの下までスクロールしてご覧下さい)。体長は5mm〜10mm程度。象牙色のからだにオレンジ色の口がついています。
コナラシギゾウムシは、夏の終りころにドングリの殻の上から産卵管を差しこみ、卵を産みつけます。幼虫はドングリの子葉*2を食べて育ち、やがて自分の体がとおるだけの大きさの穴をあけて外へ出てきます。1個のドングリには幼虫が何匹も入っているので、穴も1つだけではなく、2つ、3つと開いていることがあります。穴のあいたドングリを割ってみると、茶色い粉のようなものがぱらぱらと出てきます。これは、コナラシギゾウムシの幼虫のふんです。外へ出た幼虫は、地中にもぐってサナギとなり、翌年の夏に成虫となります*3。
- 左:ドングリ虫 まわりに見える粉が「ふん」 / 右:ドングリの断面
(撮影2006/10/29)
【 人間とドングリ 】
ドングリはゾウムシや小動物たちだけのものではありません。人類もドングリと深い関わりをもってきました。全国各地での遺跡の調査から、縄文人がクリ、クルミ、ドングリを食べていたことがわかっています。札幌駅構内の遺跡からも、これらの木の実が1kg以上出土しています。
ドングリにはタンニンという成分が多く含まれます。タンニンは古来より皮をなめすために使われてきましたが、渋み・えぐみの素でもあります。また、ドングリを餌にして飼育したアカネズミはタンニンの影響で体内のタンパク質が失われ、体重を減らすことが知られています。*4だから、ドングリはしっかりアク抜きをしなければ食べられないのです。
縄文人は、ドングリを粉にして何度も水にさらしたり、土器に入れて加熱し、水につけるということを繰り返してアクを抜いていたようです。きっと過酷な環境のなかで生き抜くために、ドングリを食料とする知恵を身につけたのでしょう。また第二次世界大戦中は、未利用資源としてドングリの食料化をすすめようとした、という記録が残っています。そして今でも九州や東北には、ドングリの粉で団子をつくる伝統がのこる地域があるそうです。かすかなえぐみが感じられるというその味は、私たち人類の記憶に刷り込まれた懐かしいものなのかもしれません。
さて、私は拾ってきたドングリから出てきた幼虫を、土を入れたジャムの空きびんに移しました。幼虫たちは土中にもぐって、サナギになる準備をしています。来年の夏にどんな姿で出てくるのか、再会を楽しみにしています。
- びんに入ったドングリ虫 (撮影2006/10/29)
(文・写真 原林 滋子)
アクセス
月寒公園 豊平区美園10〜12条7〜8丁目、月寒西2〜3条4丁目
地下鉄東豊線「美園駅」下車,徒歩10分
地下鉄南北線「平岸駅」又は東西線「白石駅」から中央バス白石平岸線[白30]乗車,「美園11条7丁目」下車,徒歩5分 など
参考文献・リンク
- わたしの研究 どんぐりの穴のひみつ 高柳芳恵 偕成社
- どんぐり見聞録 いわさゆうこ 山と渓谷社
- 札幌市埋蔵文化財センター 展示解説パンフレット
- 農林水産省 農林水産研究Web Server平成14年度研究成果選集より「野ネズミにとってドングリは本当に良い餌か?」
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