芸術に息吹く科学 〜札幌芸術の森〜
地下鉄南北線真駒内駅からバスに揺られて15分。坂の上に、立派な門が現れます。この門のなかに広がる札幌芸術の森には、野外美術館・美術館・工芸館・コンサートホールなど、芸術に触れ合える様々な施設があります。その中でも野外美術館は、7.5ヘクタールの広大な敷地に、74点の作品が展示されている広大な施設です。屋内の美術館と違い、走ったり、歓声をあげたり、見上げたり中に入ってみたりと、様々な楽しみ方ができます。作品の解説をしてくれるボランティアガイドさんもいて、詳しい解説を聞きながらの散策もできます。
- 展示解説をするボランティアガイドさん(緑のパーカー)
(撮影:宮本朋美)
今回は、この野外美術館で芸術とサイエンスの意外にも親密な関係について探ってみましょう。
まず展示作品の中に、野外にあるにもかかわらず、ピカピカと光沢を放つ作品がたくさんあることに気づきます。ご存じのとおり、金属を水にぬらしたり長い時間放置したりすると錆が付いてしまいます*1。しかしここにある作品は、まったく錆がなく傷も見当たりません。
- ステンレスを用いた作品 (左上:「方円の啓示」/小田襄、右上:「位相」/多田美波、左下:「1・9・8・5知性沈下」/湯原和夫)
(撮影:石村源生)
秘密は材料にありました。
これらの作品は、材料にステンレスを使っていました。
ステンレスは、「stain(錆)less(ない)」という名前の通り錆がつかない金属です。ステンレスは鉄にクロムをまぜた合金で、常に水に濡れる台所用品などに使われています。
なぜ、鉄にクロムをまぜると、錆がつかないのでしょうか。実は、クロムは大変酸化しやすい金属で、空気中の酸素ともすぐに酸化反応を起こします。このような酸化還元反応のしやすさのことをイオン化傾向といい、クロムはこのイオン化傾向が強い物質です。酸化したクロムは、金属表面を覆う膜(不動態*2皮膜)をつくります。ステンレスでも、クロムがこの膜をつくり、ステンレス中の鉄と酸素や水分が反応し、錆(酸化鉄)ができることを防ぐことができます。
このほかに、さびにくい純金属としては金やプラチナなどが挙げられ、野外美術館には金箔を使った作品も展示されています。
さて、次に5分ごとに姿を変える不思議な作品に注目しました。*3
- 5分毎に赤矢印部が90度回転して姿を変える「1:1:√2」(作/田中薫)
(撮影 石村源生)
この作品のテーマは「1:1:√2」。これは、直角二等辺三角形の辺の長さの比です。
直角三角形の辺には、以下のような法則が成り立っていて、これを三平方の定理といいます。
この作品の柱の幅と奥行きの比は1:√2になっており、これを45度の角度で切ると断面が正方形になります。
- 1:√2の立体の45°切断面
この作品は、回転部を90度回転させることで形を変化させます。
切断面が正方形なので、90度回転させても辺の長さがぴたりと一致します。
三平方の定理を発見したのは、有名な古代ギリシアの数学者であるピタゴラスでした。なんとピタゴラスは現在使われている音階の元になったピタゴラス音階を開発していたともいわれており、音楽と数学にも密接な関係があることがうかがえます。
野外美術館は森の中を歩くハイキングコースにもなっていて、コースを全て歩くと体がほかほかとあたたまり、今時期ですと自然の生み出す「紅葉」という芸術も楽しめます。(紅葉の仕組みはこちらをご覧ください。)
色づいた木々と人の作り出した作品の、静かで力強い鼓動が野外美術館には溢れていました。
【アクセス】
【参考文献】
(文・図 宮本朋美)
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