FISノルディックスキー世界選手権大会がやってくる! 〜 白旗山競技場、札幌中島体育センター 〜


(白旗山競技場)


(札幌中島体育センター)


2/22から3/4の11日間にわたって札幌にFISノルディックスキー世界選手権大会がやってきます。


ノルディックスキーとは、ジャンプ、クロスカントリーと、この二つを組み合わせたノルディックコンバインド(複合)の総称です。


ダイナミックなジャンプ*1に比べるとクロスカントリーはあまりなじみがないのではないでしょうか。
クロスカントリーとは、スキーを履いて起伏のあるコースを滑走し、そのタイムを競う競技です。コースの距離は1200mから50km(女子は最長30km)に及び、陸上の中長距離走のスキー版と考えればよいでしょう。


クロスカントリー競技が行われる会場のひとつが、清田区にある白旗山競技場です*2。白旗山競技場は札幌の中心部から車で一時間ほど走ったところにあり、スプリント用のトラックと、山林の中を走る25kmの距離用のコースがあります。今は大会準備の真っ最中で、選手と思しき人が練習に励んでいました。


  • 白旗山競技場のトラック


というわけで、今回は白旗山競技場をクロスカントリー競技と関係の深い、「歩くスキー」*3で歩いてみてレポートしようと思っていたのですが・・・


  • が〜ん


白旗山競技場の方に聞いてみると、中央区にある中島公園札幌中島体育センターで、歩くスキーが無料で借りられると教えて頂いたので、早速行ってみました。



「歩くスキー」のスキー板や靴を良く見てみると、普通のスキーと異なる部分がいくつかあります。


そのひとつが、スキー板の裏面につけられたうろこ状の模様です。


  • 歩くスキーでは、靴のあたりの裏面にうろこ状の模様がつけられています


もうひとつの違いが、歩くスキーでは、スキー靴が柔らかく、つま先だけが固定され、かかとを浮かせることができることです。


  • 歩くスキーでは、かかとを浮かせることができます


これらの構造の違いは、スキーで「歩く」ことと、どう関係しているのでしょうか。スキーを借りて、よちよち歩きで滑りながら考えてみました。


まず、歩くスキーを履いて歩いてみると、スキーは後ろにはほとんど滑らないことがわかりました。これはスキー裏面のうろこ状の模様のためだと考えられます。この模様は、前に向かっては緩やかに傾いていますが、後側は切り立った刻みがつけられていて、雪をかみやすい構造になっています。


  • スキー板のうろこ状の模様の役割


このため、歩くスキーは前には滑りやすく、後ろには滑りにくいつくりになっています*4


しばらくどたばたと滑っていると、滑り方のコツのようなものがつかめてきました。例えば、下の図のように左足で体を前に押し出して勢いをつけた後に、右側のスキーに体を乗せると、スキーがつーっと滑ってゆきます。左右交互にこれを繰り返すと、スムーズに前に進めることがわかりました。


歩くスキーを履いて右足を前に踏み出すと、左足はかかとが上がり、スキーを後ろに押し出そうとします。しかし、スキーが後ろに滑りにくく、左足の位置はほとんど動かないため、反動(スキーを後ろに押し出そうとした力の反作用)で体は前に向かって押し出されます。


  • 歩くスキーが前に進むしくみ


力が与えられて速度がついた物体(このときはスキーを履いた人になります)は、その速度と向きを保ったまま進みつづけようとします(慣性の法則と呼ばれています)。このため、踏み出してしばらくの間は、スキーが前に進みます。

スキー板と雪の間には摩擦があるので、速度は次第に小さくなり、やがて止まるのですが、うまく滑れるようになると、普通に歩くときの歩幅より長く一歩で進めるようになります。


中島公園で歩くスキーをしている間、ずっと雪が降っていました。たまたま黒いフェルトの手袋をしていたので、手袋の上に落ちた雪の結晶はしばらく溶けず、じっくりとその形を見ることができました。
寒く厳しい札幌の冬は外に出るのも億劫になりがちですが、じかに自然と触れ合うときにだけ、自然が見せてくれるものもあるのです。


ノルディックスキー世界選手権大会では、世界のトップアスリートたちは、白旗山でどんなレースを見せてくれるのでしょうか。大会中にクロスカントリー競技を見たときには、選手の表情や駆け引きと共に、その足元にもちょっと注目してみてください。


  • 手袋に降った雪の結晶


(文、図、写真:佐藤登志男)

【アクセス】

  • 白旗山競技場
    • 札幌市清田区真栄502
    • 地下鉄東豊線福住駅」下車、中央バス福87「白旗山競技場入口」から徒歩30分
    • 大会中は無料のシャトルバスが運行されます


【参考リンク】

  1. 2007年FISノルディックスキー世界選手権札幌大会公式ホームページ 
  2. ウェブシティさっぽろ 2007年FISノルディックスキー世界選手権札幌大会 


【参考文献】

  1. ヨコヤマ・ノルディックスキー・スクール編著 歩くスキー 成美堂出版(1975)
  2. 今村 源吉 歩くスキー・装備・ワックスから楽しみ方まで 北海タイムス社(1976)
  3. 岩岳スキースクール編著 クロカンスキー入門 スキージャーナル(1982)
  4. R. クロフォード=カリー クロスカントリースキー入門 ベースボールマガジン社1984

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*1:「さっぽろサイエンス観光マップ」にはスキージャンプについての記事もあります。詳しくはこちら 「世界ノルディック大会に向けて 〜札幌ウインタースポーツミュージアム〜 」 とこちら 「スキーと体の揚力で飛ぶ 〜大倉山ジャンプ競技場〜」 をご覧ください。

*2:もうひとつは札幌ドームです。なんと、ドーム内に雪を持ち込んで、屋外とつないで競技を行うようです。

*3:「歩くスキー」は冬の野山をスキーで散策するものですが、この用具をスピード競技用に改良し、いわば「走るスキー」としたものがクロスカントリースキーといえます。

*4:うろこ状の模様をつけるかわりに、雪が食い込むように厚くワックスをかけたり、毛皮を貼ったりすることもあります。