開拓時代を映す赤い色〜北海道庁旧本庁舎〜



  地下鉄南北線さっぽろ駅10番出口を出て、大通り公園に向かって南に歩いていくと、右手にレンガ作りの大きな建物が見えてきます。これが、北海道庁旧本庁舎です。別名「赤レンガ庁舎」と呼ばれて、札幌市民にも親しまれています。


(赤レンガ庁舎全景: 2006/12/28)


  この赤レンガ庁舎は、1888年明治21年)に作られました。設計は、北海道庁の技師が担当し、アメリカ風のネオ・バロック様式のレンガ造りで、アメリカのマサチューセッツ州議事堂をモデルとしています。地上2階地下1階のこの建物には、約250万個もの赤レンガが使われています。明治時代、白石、月寒、豊平の各地区に次々にレンガ工場が出来ました。近くの森林の比較的浅いところから、良質の粘土が出てきたからです。当時、レンガの需要は非常に高く、また、開拓者にとってもよい働き場所でした。ここで作られた赤レンガは、北海道庁をはじめ、ビール工場、植物園内の博物館、トンネルの内壁、鉄橋の橋げた、そして東京駅など様々な場所で使われていきました。

 
【レンガの語源】

  では、「レンガ」とは、一体どこの言葉でしょうか。
カタカナで「レンガ」と書かれることが多いため、外来語だと思っている人がいるかもしれません。実は、「レンガ」は「煉瓦」と書き、日本語です。レンガが建築材料として利用されたのは、メソポタミア文明時代からですが、日本には、江戸時代末期から明治初期にヨーロッパから入ってきました。この新しい建築材料を見た日本人が、焼くという意味の「煉」と「瓦(かわら)」という文字を組み合わせて「煉瓦(レンガ)」という言葉を作ったのです。


 【レンガの積み方】

  赤レンガ庁舎では250万個ものレンガを使用しているので、その重さはかなりのものになります。そのため、レンガの積み方には、注意が必要です。レンガとレンガの接着部分を目地といいます。一段ずつ積み上げていくので、横目地はレンガ同志の接着面が一直線になります。これを芋目地といいます。それに比べて、縦目地は、上下の段がつながらない破れ目地になっています。レンガはもともと鉄筋等の補強を入れずに、目地の接着力のみで、つながっています。もし縦目地が縦に1本通っていると、部分的にくずれやすくなります。そのため、破れ目地にして、全体を一体化して、強度を高める工夫がされているのです。


  実際に、建物の外壁に近づいて見ましょう。レンガが縦方向の接着面が重ならないように、しかも規則的に並んでいることがわかります。レンガの積み方には、様々な積み方があります。国名が付いていることが多く、代表的なものには、「フランス積み」や「イギリス積み」があります。「フランス積み」は、正面から見たときに、長手と小口が交互に並んで見え、明治初期の建物に見られます。また、「イギリス積み」は、ある段は長手、次の段は小口、その上の段は長手と交互に並んで見え、明治中期以降の主流となっています。赤レンガ庁舎は、長手と小口が交互に並べられている「フランス積み」です。国内では、比較的珍しい積み方です。「イギリス積み」に比べて、強度は落ちますが、「フランス積み」には華麗さがあると言われています。


(赤レンガ庁舎の壁: 2006/12/28)




【赤レンガの赤の正体は?】
 
  次に、レンガの色に注目してみましょう。レンガというと、多くの人が赤茶色のいわゆる「赤レンガ」を思い浮かべるのではないでしょうか。赤レンガは、建築用に使用されています。ほかに、製鉄に利用される耐火レンガ(白レンガ)もあります。 レンガは、粘土質の土をこねて、成形し、窯で焼くことによって作ることが出来ます。一般的に成形してから着色して焼いても、色は飛んでしまいます。焼いた後でも残る色は、金属の色です。レンガの場合は、土の中に含まれている鉄分が酸素と反応した酸化鉄の赤い色なのです。
  物質と酸素が結びつくことを、酸化*1といいます。そして、酸化で出来た化合物を酸化物といいます。鉄が酸化鉄になることは、化学反応式では、次のように書くことができます。


4Fe + 3O2 → 2Fe2O3
(鉄) + (酸素) → (酸化鉄)


  このFe2O3*2は、酸化第二鉄と呼ばれ、土に含まれている鉄分が、酸素をどんどん取り入れることにより酸化が進みます。空気中の酸素と反応して、自然に生じる酸化鉄、つまり「赤さび」と言われているものも同じです。レンガは、燃焼温度によって、その赤さが変わります。700〜800℃では、オレンジ色を呈しますが、1000℃以上では、赤紫色から黒褐色になります。900℃前後で、独特の赤色を呈するのです。現在では、Fe2O3は、赤色の顔料やベンガラと呼ばれる鉄骨などに塗られている塗料、磁気テープの磁性体原料など様々なところで利用されています。
  また、Fe(鉄)とO2(酸素)が酸化反応を起こすときには、発熱が起こります。この原理を利用して作られたのが、冬によく利用される使い捨てカイロです。

 
【当時を映し出して】

  実際に、赤レンガ庁舎を訪れてみると、その存在感には圧倒させられます。しかし、その存在感は、10階建てのビルに相当する33mにも及ぶ高さや大きさだけではなく、上に述べたプロセスがもたらした、赤レンガの「赤」い色にもあるようです。赤レンガ庁舎が出来たころ、当時の札幌の人々には、この赤い色が、きっと輝いてみえたことでしょう。


(文・図・写真: かみむらあきこ)
(ブロック製作: かみむらあやめ)

  • 【住所】   札幌市中央区北3条西6丁目

        開館時間:9:00~17:00
        休館日:12月29日〜1月3日
        入館料:無料

 【参考資料】   
 -赤レンガ庁舎 しおり         北海道総務部総務課
 -フォーラム理科資料         正進社編
 -煉瓦 Wikipedia      
 -酸化鉄 Wikipedia
 -シティーさっぽろ 鈴木レンガ工場跡       札幌市役所


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*1:逆に、酸化物から酸素が離れることを、還元といい、その化合物を還元物といいます。

*2:鉄の酸化反応は、反応条件によっていくつかの種類の酸化鉄が生じます。空気の不足した条件で反応させると、2Fe+O2→2FeOが生じ、錆止めとして利用されています。また、熱した鉄に水蒸気を反応させると、3Fe+2H2O+O2→Fe3O4+2H2が生じ、黒さびといわれています。