防災の基本は理解と備えから〜札幌市民防災センター〜

 


地下鉄南郷7丁目駅1番出口のすぐそばに、平成15年3月にオープンした札幌市民防災センターがあります。この施設は、火災・震災に関する展示や模擬体験を通して防火・防災に関する知識と災害時に必要な行動を学ぶことができます。防火・防災に関する知識をさまざまな体験により学ぶことができるので、週末には千人近くの見学者が訪れる人気の施設です。

建物の1階と2階にある展示施設は、異なるテーマを持つ3つのゾーンで構成されています。

  1. 「消防の仕事紹介ゾーン」は、実物のはしご車や消防隊員の活動服が展示されています。
  2. 「災害と体験コーナーの紹介ゾーン」では地震災害を題材にした3D映像の映画を見ながら、防火・防災意識の重要性を学ぶことができます。また、札幌市民防災センターで体験し学ぶことのできる内容についても知ることができます。
  3. 「体験ゾーン」では、実際に起こった大地震の揺れを体験できる地震体験コーナーや煙が充満した建物から避難行動を体験できる煙避難体験コーナーなどがあります。

 中でもお勧めは、「体験ゾーン」にある消火体験コーナーです。このコーナーでは、スクリーンに映し出された天ぷら油の炎を、本物の消火器を使用して消火の体験をすることができます。
 消火器の操作方法を体験し修得することで、いざというときに「消火器の使い方が分からない。」や「実際に消火器を使い消火できるか自信が無い。」といったことを防ぐことができます。
 自宅に備えてある消火器を、緊急時に役立てるための貴重な体験ができる施設です。

 

 ところで、消火器が燃焼を止める働きを消火作用といいます。消火器が持つ消火作用とは、具体的には、どのようなものでしょうか。



■消火作用
 燃焼のメカニズムを詳しく見ると、まず熱源からの熱エネルギーにより可燃物の分子や原子の熱運動*1が増大します。
 次に、熱運動が増大した可燃物の分子や原子が酸素と反応し、反応により熱エネルギーと光エネルギーが生じます。生じた熱エネルギーが新たな熱源となり高温が持続し、可燃物の分子や原子の熱運動が増大した状態が維持されます。
 これにより、新たな可燃物の分子や原子が酸素と反応する連鎖反応が成立しています。

※燃焼のメカニズムのアニメーション。下の「こちら」をクリックすると、アニメーション画面に移ります。アニメーション画面内の「次へ」ボタンを3回クリックして下さい。

こちらをクリックしてください。

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 燃焼が継続するためには、「可燃物」「酸素」「熱源または高温の持続」、が必要です。「可燃物」「酸素」「熱源または高温の持続」を燃焼の3要素といいます。燃焼の3要素うちどれかひとつでも取り除くと燃焼は止まります。また、燃焼が継続するための要素として、可燃物の分子や原子が酸素と反応し続ける「連鎖反応の成立」も必要です。
 これらの要素を取り除いたり、阻害する働きが消火作用です。消火作用には、次のようなものがあります。

  1. 可燃物を取り除く働きの「除去作用」。
  2. 酸素の濃度を薄くしたり、遮断する働きの「窒息作用」。
  3. 熱を奪い温度を下げる働きの「冷却作用」。
  4. 可燃物を化学変化により不燃化させたり、可燃物と酸素の連鎖反応を阻害する働きの「抑制作用」。

 消火器はこれら4つの消火作用のうち、「窒息作用」「冷却作用」「抑制作用」を利用して消火をしています。「除去作用」が利用されないのは、実際の火災では特殊な場合を除いて可燃物を取り除くことが困難な場合が多いためです。


■消火器の種類
 消火器の内部に詰められている消火用の物質のことを消火剤といいます。消火器は消火剤の種類から、二酸化炭素消火器やハロゲン化物消火器、泡消火器などに分類することができ、数種類の消火器が存在します。
 消火剤の種類によって、持っている消火作用が異なります。
札幌市民防災センターの消火体験コーナーで使用している消火器は、模擬体験用なので、水道水が詰められていました。しかし、現在、一般家庭用として販売されている消火器は、粉末薬剤(ABC粉末)が詰められている粉末消火器と強化液(中性)が詰められている強化液消火器の2種類が主流となっています。
 粉末(ABC粉末)消火器と強化液(中性)消火器ではどのような違いがあるのでしょうか。これらの消火器では、詰められている消火剤の違いにより、消火器の持つ消火作用が異なるため消火に適する火災の種類が異なります。


■火災の種類
 火災の種類は特殊なものを除き、燃焼する物体の性質から次の3種類に分類することができます。

  1. A(普通)火災:木材・紙類・布等が燃焼する火災
  2. B(油)火災:灯油・ガソリン・天ぷら油等が燃焼する火災
  3. C(電気)火災:電線・変圧器・モーター等が燃焼する火災

 現在、一般家庭用として販売されている粉末消火器も強化液消火器どちらも、ABC火災すべて対応となっています。しかし詳しく見てみると消火剤の種類と特徴により、適する火災の種類が異なります。


■粉末(ABC粉末)消火器の特徴
 粉末消火器の持つ消火作用は、主に窒息作用です。噴出された粉末の消火剤が可燃物を覆い、酸素を遮断することにより消火します。また、消火剤が熱分解して生じた物質が、可燃物と酸素の反応を阻害する抑制作用も持っています。
 窒息作用での消火は炎をすばやく消し去ることが特徴です。しかし、紙類・布類等や合成樹脂類の火災への消火力はやや劣ります。
 粉末消火器の最も適する火災は、B(油)火災です。特に、ガソリンのように揮発性の高い引火性油類の消火には最も適しています。しかも、薬剤が粉末なので同程度の大きさの強化液消火器より重量が軽く、値段も安いので設置しやすいメリットを持っています。


■強化液(中性)消火器の特徴
 一方、強化液消火器が持つ消火作用は、主に冷却作用です。噴出された液体が可燃物から熱を奪い冷却することにより消火します。強化液消火器の最も適する火災はA(普通)火災です。消火液が可燃物の内部まで浸透して冷却することができるので、再燃することがなく確実に消火することができます。この特徴により、粉末消火器ではあまり適さない紙類・布類等の火災に威力を発揮します。
 また、強化液消火器はB(油)火災のうち、特に天ぷら油火災に非常に強いという特徴も持っています。これは、強化液消火剤が持つ抑制作用によるもので、消火剤が天ぷら油と化学反応し天ぷら油を不燃化するためです。
 強化液消火器で消火する場合は、可燃物の温度が徐々に冷えて消火されるので、粉末消火器より消火までの時間がかかる場合があります。しかし、強化液消火器は、同じ大きさの粉末消火器より長く消火剤の噴出をすることができます。
 そして、一般家庭での火災原因として多い天ぷら油火災や、紙類・布類・木材の火災に対し最も適する消火力を持っていることがメリットです。


■消火器を設置する時は…
 数年前に、私の自宅のご近所が火事になったことがあります。その火事の原因は天ぷら油火災でした。その火事の体験から、我が家でも消火器の必要性を強く感じ消火器を設置することにしました。
 消火器を設置するときは、まず、設置する場所にどのような種類の火災が発生するかを考えることが大切です。次に、消火器の特徴を知り火災の種類に適した消火器を選ぶことが肝心です。そして、何より肝心なことは設置した消火器の使用法をよく理解していざというときに使うことができるようになることです。札幌市民防災センターの消火体験コーナーでの消火体験は、絶対にお勧めです。
 冬は暖房の使用などで、火災が増える時期です。火の用心と消火器の備えを忘れずに。
(文:三浦久和)

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【参考文献・参考リンク】

  1. 「危険物取扱必携」 全国危険物安全協会編
  2. 札幌市民防災センターHP
  3. ヤマトプロテック株式会社HP
  4. 株式会社モリタHP

【謝辞】
 取材にご協力していただきました札幌市民防災センターの方々、消火薬剤のことについて、詳しくご回答いただいた、ヤマトプロテック株式会社・株式会社モリタの担当者の方々本当にありがとうございました。また、燃焼のメカニズムのアニメーションを制作してくれた安田君、協力ありがとう。

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*1:物質を構成する分子または原子は、回転・振動などの乱雑な運動していいます。これを分子運動または分子の熱運動といいます。熱運動は温度が高くなるほど激しくなります。