ごみダスト、コストがかかる、忘れずに…〜白石清掃工場〜



 国道275号線を札幌市内から江別方面に向かって走り、豊平川に架かる雁来大橋を渡ります。すると、右手に高い煙突を持つ巨大な建物がひときわ目立って見えます。この巨大な建物は、平成14年11月に完成した札幌市内で最も新しい清掃工場の白石清掃工場です。

 清掃工場はごみを焼却する施設です。焼却することによりごみの容積を減らし、ごみ埋め立て地がより長く使えるようになります。また、清掃工場では、ごみ自身が持っている熱エネルギー*1の再利用も行っています。焼却で生じた熱エネルギーで発電を行い工場内施設の動力源とし利用し、さらに余剰な電力は売却しています。白石清掃工場は、別名、札幌市白石発電所と名づけられています。

 この白石清掃工場は、事前に電話予約をすると、係りの人から工場内施設の説明を受けたり、工場内の見学をすることができます。工場内見学では、焼却炉内でバーナーや補助燃料などの助けを得ないでごみが燃えている様子をテレビモニターで観察することもできます。今回は白石清掃工場内の見学リポートです。


ダイオキシン類への対策

 白石清掃工場の処理能力は、札幌市の清掃工場中、最も大きく3基の焼却炉で一日当たり最大900tのごみを焼却することができます。また、大きな処理能力だけでなく環境に配慮し安全に処理をする工夫を凝らした設備も持っています。その代表的が、ダイオキシン類への対策を行う最新の設備です。
 近年、環境汚染物質として問題となっているダイオキシン類は、主にごみ焼却場から排出される排気ガスが発生源とされています。ダイオキシン類は炭素・水素・酸素・塩素が重金属とともに熱せられる過程で焼却炉内で自然に合成されます。特にごみが不完全燃焼し焼却炉内の温度が約300℃前後のとき最も合成されます。ごみを焼却する過程では、ダイオキシン類が発生することを避けることができません。

 そこで、白石清掃工場の焼却炉にはダイオキシンを排出しないように、いくつかの対策がしてあります。
 一つは焼却に必要な空気を、焼却炉の熱を利用した空気予熱器で約100℃に暖めた後、送風機により焼却炉に送り込むということです。これにより新たに投入されたごみを十分に乾燥させ燃焼させることができます。また、酸素不足による不完全燃焼を防ぐこともできます。その結果、焼却炉内の温度が低下せず、ダイオキシン類が分解される850℃以上の高温でごみを燃焼させることができます。

 次に、発生した排気ガスの温度管理をしていることです。ダイオキシン類は高温の焼却炉で分解させても、排気ガスが冷えていく過程で再合成してしまいます。再合成は300℃前後で最も盛んになります。そこで、高温の排気ガスに水を噴霧して、ダイオキシンの再合成が進まない約150℃の温度環境まで速やかに冷却されます。

 さらに、冷却した排気ガスに、今度は活性炭を噴霧しダイオキシン類を吸着除去します。その後、活性炭に吸着されたダイオキシンは熱分解装置で処理し分解します。

 これらの対策により、白石清掃工場の排気ガス中に含まれるダイオキシン類の量は平成16年測定値で1号焼却炉の0.0032 ng-TEQ/Nm3〜3号焼却炉の0.0000071 ng-TEQ/Nm3*2となっており、これは国が定めた排出基準0.1 ng-TEQ/Nm3を大きく下回っています。


■焼却灰の処理

 白石清掃工場のもうひとつの特徴は、焼却灰や排気ガスに含まれる小さな灰(飛灰といいます)を集めて、灰溶融炉という施設でもう一度処理が施されることです。灰溶融炉を持つ清掃工場は札幌では白石清掃工場だけです。白石清掃工場にある灰溶融炉は、プラズマ式溶融炉です。溶融炉の中で直流電流のアーク放電により高温のプラズマを作り出し、焼却灰を1400℃まで加熱し溶融します。

 従来の清掃工場では焼却灰はそのままごみ埋め立て地に埋めていました。しかし、焼却灰にもダイオキシンや有害な銅やクロムなどの重金属イオンが含まれていることから、雨水や地下水が浸透し侵出することで埋立地周辺の地下水を汚染する恐れがありました。

 灰溶融炉で溶融した焼却灰は水で急冷されスラグというガラス質の化学的に安定した物質になります。焼却灰をスラグ化すると有毒な物質の流出を防ぐことができます。スラグ化により焼却灰の容積を1/2程度に圧縮することができ、埋立地をより長期に利用することが可能になります。

 また、この過程で焼却灰に含まれていたダイオキシンは分離され処理することができます。さらに銅やクロムなどの重金属イオンや焼却灰に含まれていた金属類は合金(メタル)として取り出すことができます。焼却灰から取り出された合金には金がかなり含まれており、その含有率は金鉱石並だそうです。

 このように、白石清掃工場では排気ガスの安全性だけでなく、灰溶融炉により焼却灰からも有害物質を取り除き環境への負担を減らし安全性を高めています。


■ごみ処理のコスト
 このように白石清掃工場は、最新の設備を持ち環境に配慮しごみを安全に処理することのできる清掃工場です。また、ごみの焼却で得た電力の売却益が年間5億円、焼却灰から取りだした合金の売却益が年間500万程度あり、ごみの再資源化も行っています。ごみ処理は、コストをかけずに安全に、が理想です。
しかし、現実には安全にごみを処理するために必要なコストは高額です。白石清掃工場で見てみると、設計耐用年数が30年で建設費が570億円。さらに、焼却炉のメンテナンスや薬剤の購入費などの維持費が毎年11億円ほど必要です。
また、札幌市全体で見てみると、ごみ処理に年間296億円(平成16年度)という巨額の費用をかけています。これらの費用には、当然私たちの税金が使われています。ごみ処理の費用を節約する基本は、ごみの量を減らすことです。ごみを出すときには、ごみ処理に必要なコストを忘れずにごみの量を減らすよう心掛けたいと思いました。


(文・写真 三浦久和)

【アクセス】
札幌市白石区東米里2170番
新札幌バスターミナルより 中央バス 厚別通線[白38]に乗車し、停留場「厚別幹線通」下車

参考リンク

  1. 白石清掃工場ホームページ 

参考資料

  1. さっぽろごみゼロニュース vol.16 札幌市環境局発行
  2. さっぽろごみ事情2006 札幌市環境局発行 

謝辞
記事制作にあたり、白石清掃工場 山本さんにご協力いただきました。ありがとうございます。

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*1:ごみ1kgあたり2300kcalの熱エネルギーを持つそうです。

*2: ng=10億分の1g, TEQ=ダイオキシン類は種類によって毒性が異なるため、最も毒性の強い2,3,7,8‐TCDDの毒性に換算した量で表現します。例えば、2,3,7,8-TCDFは2,3,7,8-TCDDの10分の1の毒性を持つため、10ngの2,3,7,8‐TCDFは1ng-TEQと表現されます。 /Nm3=0℃、1気圧の気体1立方mあたり