この道の彼方に : 札幌の舗装道路のはじまり 〜北三条通り〜



北海道庁赤レンガ庁舎の正門前から東に延びる北三条通りは、大正13年に札幌ではじめて道路の舗装が行われた場所です。



現在広く使われているアスファルト舗装とは異なり、当時の舗装はブナの木のブロックにコールタールとクレオソートと呼ばれる液体を染み込ませ、道路に敷き詰めたものでした*1。ブナの木のブロックは、今は道路の下に埋もれていますが、掘り出されたものが北三条通りの歩道にある、「札幌舗装道路発祥の地」の碑の中に埋め込まれています*2


  • 左:「札幌舗装道路発祥の地」の碑 右:碑の上に置かれたブナの木のブロック


また、北三条通りの起点となる旧北海道庁の正門のすぐ前には、北海道と札幌市の道路元標(道路の起点と終点を示す碑)が置かれています。北三条通りは北海道の道路がはじまる場所でもあります。


  • 札幌市(北海道)道路元標


ブナのブロックに使われたコールタールと現在の道路舗装に使われているアスファルトの間にはちょっとした共通点があります。それは、どちらの材料も化石燃料を精製する過程で生まれる副産物であることです。


コールタールは石炭からコークスを作る過程で生まれます。コークスは、石炭を空気のない状態で1200℃程度の高温で蒸し焼きにし、石炭の主成分の炭素とその他の揮発性成分(アンモニアや硫黄や炭化水素*3等)を分離し(乾留)、製造します。揮発性成分のうち、沢山の種類の炭化水素類が含まれる、黒い粘りのある液体がコールタールと呼ばれています。

コールタールを約200〜400℃で加熱すると、さらに油状の液体を分離することができます。これがクレオソートで、コールタールとともに木材の腐食を防ぐ性質を持っています。


一方、アスファルトは石油(原油)を精製する過程で生まれます*4原油の中にもコールタールと同じように沢山の炭化水素類(油分や天然ガス)が含まれています。ガソリンや灯油、軽油重油等の石油製品は、それぞれ揮発する温度が異なるため、温度を変えて加熱すると分離(分留)できます。
このとき、最後まで揮発することなく残ったものがアスファルトです*5原油の産地により割合は異なりますが、原油の重さの2〜3割程度がアスファルトとして得られます。

加熱温度 30℃〜180℃ 170℃〜250℃ 240℃〜350℃ 350℃以上
石油製品 ガソリン、ナフサ ジェット燃料、灯油 軽油 重油アスファルト


高速道路の舗装などでコンクリートが使われることもありますが、道路の大半は、アスファルトで舗装されています。
コンクリートをしっかりと固めるためには、コンクリートの周りに覆いをかぶせ、水分や温度を一定に保つ、「養生」と呼ばれる工程が必要です。養生は数日から数週間にわたっておこなう必要があり、この間は車が道路を通ることができず、工期が長くなる欠点があります。


一方、アスファルト*6は、加熱すると柔らかくなり、薄く平らに延ばしたあと普通の温度に冷やせば、すぐに固まります。コンクリートと異なり、養生の期間が不要で、短期間により長い距離を舗装できるのが長所です。


北海道では、冬季に地面の凍結により道路が盛り上がって壊れたり、15年ほど前まではスパイクタイヤにより道路が削られるなど、他の地方に比べて道路が痛みやすいという寒冷地特有の問題がありました。痛んだ路面を補修したり、下水道など道路の下に埋められた配管を掘り返し、再び埋め戻すなど、すでに敷かれた道路の保守整備もやりやすいことがコンクリート舗装と比べ広く使われている理由です。


現在、札幌市内の車道の総延長は、約5500kmに及び、その舗装率は都市部ではほぼ100%だそうです。車道の他、歩道や駐車場などの舗装も進んでいます。アスファルト原油から生まれたものであること、そして現在アスファルト舗装されている地面の広さのことを想うと、私達がこれまで消費した原油の量がどれほど莫大なものだったのかと、ふと思いました。


北三条通りの両端には、北原白秋が作詞した、「この道」の歌詞が書かれたパネルがあります。この歌詞には、札幌の道を連想させる、アカシヤの花や時計台の姿が織り込まれています(先日,北大のポプラ並木の倒木から作られたチェンバロの演奏会でこの曲が演奏されました。そのお話はこちらで)。朝晩の冷え込みで黄色く色づき始めたイチョウ並木の下を鼻声でハミングしながら、普段は何気なく通り過ぎるこの道のはじまりと、その向かう先にしばし想いをめぐらしていました。



(文・写真:佐藤登志男)

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【参考文献】

  1. 石油と石炭の化学 共立出版 (1972)
  2. 土木材料III <アスファルト> 大学講座土木工学8 共立出版(1974)
  3. 石油化学プロセス 石油学会編 講談社サイエンティフィク(2001)
  4. 北海道道路誌 北海道庁(1925)
  5. 北海道舗装史 北海道土木技術会舗装研究委員会(1986)
  6. 北海道道路史 II 技術編 北海道道路史調査会(1990)


【参考リンク】

  • 札幌市建設局土木部

http://www.city.sapporo.jp/kensetsu/stn/pr/pb/index.html

  • 北海道立文書館

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/mnj/

http://www2.ceri.go.jp/jpn/iji/index.htm


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*1:ブナの木のブロックは長さ15cm, 幅9cm, 厚さ8.5cmで、延長117m, 幅14.5mの道路に約12万4000個が敷き詰められました。現在の北三条通りの舗装は、レンガ色のタイル舗装で、ところどころがアスファルトで補修されています

*2:北海道庁内の北海道立文書館の展示スペースではより状態のよいものが見られます

*3:炭素と水素の化合物の一般的な呼び名で、コールタールには、ナフタレンやフェノールなどが含まれています

*4:北海道にも油田があったんですよ。詳しくはこちら: http://d.hatena.ne.jp/costep_webteam/20060419

*5:天然の状態で石油の揮発しやすい成分が蒸発し、固まった「天然アスファルト」も存在します

*6:舗装に使われるのは、アスファルトに砂や砂利、石粉などを混ぜた物で、アスファルトの含まれる割合は10%ほどです