心臓は電気で動く!?〜札幌駅東改札内のAED〜

札幌駅の人ごみの中で、こんなオレンジ色の看板を見かけたことがありますか?
  

(2006年10月7日撮影)


これはAED(エーイーディー:自動体外式除細動器)の場所を知らせる看板です。看板の中央あたりに見えるオレンジ色のかばんの中にAEDが入っています。AEDとは、突然の事故や心臓病により心臓停止の状態や心不全など、心臓がうまく収縮できない状態になった時に、電気ショックを与えて回復させるための医療機器です。以前は医療従事者しか使えませんでしたが、2004年からは救命の現場に居合わせた一般市民も使用できるようになりました。札幌市では、学校、体育館・プールなどの公共施設に200台以上が設置されています。(設置場所へのリンク)

  • 心臓の働き

AEDの説明の前に、まずは心臓の働きについてみてみましょう。

http://costepwebteam2006.g.hatena.ne.jp/files/costepwebteam2006/f6934677352356e9.flv

出典:IPA「教育用画像素材集サイト」 http://www2.edu.ipa.go.jp/gz/


心臓の大部分は心筋と呼ばれる筋肉で出来ています。腕や足の筋肉は、電気的刺激を受けると収縮する性質がありますが、心筋も同様に、刺激伝導系*1に電気的刺激が通ることでリズミカルに収縮します。腕や足の筋肉と違うのは、心臓は意識をしなくても自動的に拍動を繰り返すことです。このことを心臓の自動性といいます。筋肉の細胞の一つ一つが自動性を持っているので、仮に断片化しても、その心筋の小片はそれぞれがばらばらに収縮、拡張を繰り返します。そこで、刺激伝導系がその歩調とりの役割を果たしているのです。上の動画の中では、刺激伝導の速さ・遅さがあっても、心室と心房がちょうど歩調を合わせて収縮しているのがわかります。


ところが、心臓病などで刺激伝導系の働きがうまくいかなくなると、心房と心室は歩調の合った収縮・拡張が出来なくなってしまいます。これは心室細動(粗動)、心房細動(粗動)などと呼ばれる心不全の主な理由です。血圧が下降し、脳へ送られる血液量が減少し、意識を失ってしまいます。プールなどでの事故の場合は、心臓は呼吸が停止したあとも、自動性があるために心臓はしばらくの間拍動しますが、酸素不足などの理由で数分後には停止してしまいます。

そこで、心不全を起こしてしまった心臓に対して使われるのが、AEDです。心筋に電気ショックを与え、心房と心室の歩調を正常に戻す治療法で、意識を失うなどといった重篤心不全の症状が出た場合には、直ちに使用しなければなりません。一分経過するごとに、救命率が5〜7%下がるといわれています。救急車が要請を受けてから到着するまでに平均6分以上かかっているので、発見次第すぐに救命活動を始めなければなりません。

  • 使用方法の実際

以下が、使用法の実際です。

(1)患者に意識がないのを発見したら、直ちに従来どおりの救急法、「心臓マッサージと人工呼吸」を開始します。

(2)救命を二人で行う場合は、もう一人が救急車を呼び、最も近くにあるAEDを取りに行きます。
・駅など公共の場であれば、大声で助けを呼び、AEDを持ってきてもらいましょう。

(3)心臓マッサージを続けても回復しない場合、直ちにAEDを使用するために胸部を露出します。

(4)患者の右上胸部と左下胸部に電極を貼ります。
 ・そのときにペースメーカーの上に貼らないように気をつけます。ペースメーカーは皮下に埋め込まれているので、見た目で確認できます。
 ・ブラジャーはつけたままにします。
 ・また、電気は人体を通るので、電気ショックを与える瞬間には、患者から離れます。「離れてください!」と周囲の人にも知らせます。
 ・プールなど胸部が水にぬれている場合は、乾いたタオルで拭き取ってから電極を貼ります。
 ・8歳以下の小児には大人用のAEDは使えません。その場合は、心臓マッサージを続けます。

(5)誰も患者に触れていないことを確認し、AEDのスイッチをいれて電気ショックを与えます。


(心電図:異常な波形がAEDにより正常波形に戻っている)

  • 知っておかなければならない注意点

上の図は、心臓の活動電位を測定した心電図です。AEDを使って電気ショックを与えると(オレンジの矢印)、通常通りの心電図(右側)に戻ります。しかし、一回で必ず戻るわけではないので、電気ショックを与えたあとに、もう一度脈拍を確認する必要があります。AEDが脈拍を計測してくれますので、音声指示に従い、AEDの画面を見て、脈拍数が表示されたかを確認してください。→この心電図はAEDの効果について理解を助けるためのもので、AEDのモニター上には現れません。


 脳震盪(のうしんとう)など意識がなくても心臓が動いている場合に、電気ショックを与えてしまわないかという心配をされる方がいらっしゃるかもしれませんが、AEDが心臓の拍動を感知し、電流が流れないような仕組みになっています。


正しい知識が必要なAEDの使用が一般市民にまで開かれた理由には、以上のように、比較的安全なAEDが開発されたことがあります。また、緊急時にあわてて方法を間違ってしまわないように、音声で指示してくれる機器ができてきました。音声の指示に従えば、安全にAEDを使用できます。


しかし、AEDは心臓マッサージと人工呼吸法の補助的手段です。また、AEDが近くにない場合を想定して、心臓マッサージや人工呼吸法といった機械を使用しない救命方法を習得しておくことが重要です。そのためには定期的に研修に参加するという方法があります。


札幌市では、救急車が到着するまでの間、研修を受けた救急サポーターがAEDを使用する「さっぽろ救急サポーター制度」を開始しています。 (さっぽろ救急サポーターへのリンク)
また、札幌市消防局救急科のお話では、将来的に携帯電話でAED設置場所がわかるシステムを作る予定があるということでした。しかし、高齢になるにつれてAEDを必要とする頻度が高くなりますが、多くの高齢者は携帯電話を使っていないという問題点もあり、大切な情報をどのようにその情報を必要とする人へ届けるかが今後の大きな課題となりそうです。


今回ご紹介した札幌駅東改札口内のAEDは、2006年6月に設置されました。他にももう一台、西改札口内にAEDが設置されていますが、50メートルと離れておらず、広い札幌駅構内で、その2台が近距離であることには問題があります。また、いざという時のために看板は目立つ色でなくてはなりませんが、他の観光用の看板の色に混じってしまい、実際私が札幌駅で写真を撮るために行った時には、見つけるのにずいぶんと時間がかかりました。


 また、駅職員全員が事前に普通救急救命の講習を受けて導入されたということを伺いましたが、駅職員は救命の専門家ではない事を知っておく必要があります。なお、設置されて以降、幸いなことにまだ一度の使用もないということですが、地震などの災害時同様、普段からの心構えが重要なのは言うまでもありません。


(文・図・写真:伊藤紀代)


参考文献

  1. 「図解生理学 第2版」中野昭一編、医学書院、2000年
  2. 「系統看護学講座 専門7 成人看護学3 循環器疾患患者の看護」吉田俊子ら、医学書院、2003年

アクセス

JR札幌駅 東改札口内 キヨスク

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*1:心房の洞房結節を起点とし、電気刺激を心臓全体へ伝える繊維のこと。