飛べないゴルフボール 〜豊平川緑地 南七条パークゴルフ場〜



札幌も夏が過ぎ、高く澄んだ秋の青空が見られる日が多くなりました。そんな日は北海道で人気のパークゴルフを楽しんでみましょう。


地下鉄南北線の「中島公園」駅を降り、豊平川沿いを北に向かって歩いてゆくと、南七条大橋のたもとの河川敷*1パークゴルフ場があります。500円玉一枚*2で用具を借りてプレイできるので、手ぶらで来てもパークゴルフが楽しめます。



パークゴルフは1983年に北海道の幕別町(北海道のこの辺にあります)で生まれたスポーツです。
ボールを打ってカップに入れるというゴルフのルールを基本としていますが、1ホールの長さが100m以内と短く、公園のような小さな場所にもコースを作ることができます。
南七条パークゴルフ場のコースの総延長は789mで、サッカー場二面分程度の面積に18ホールが収まっています。
小さいながらも各ホールにはティグラウンドがあり、ところどころにバンカーや池(というか水たまり)などもあって、なかなか楽しめるコースです。


  • 左:南七条パークゴルフ場のコース案内図 右:パークゴルフのコース(手前がティグラウンド、写真の中心あたりにあるのが「池」、人が集まっているあたりがグリーンです)


普通のゴルフ場に比べてパークゴルフ場が小さくてすむのは、どうしてなのでしょうか。それは、パークゴルフのゴルフボールが遠くに飛べないからです。


ボールの飛ぶ距離は打ち出した角度、飛び出すときの速度、空気抵抗などによって決まります。これらの値は、パークゴルフで使用されている用具によって決まります。普通のゴルフで使われる用具と比較して、パークゴルフのボールが飛べない理由を考えてみましょう。


まずあげられるのが、ボールを打つクラブの構造の違いです。パークゴルフのクラブと普通のゴルフクラブとを比べてみると、パークゴルフクラブのヘッドの打面は垂直に立っているのに対し、ゴルフクラブのヘッドの打面は斜めに傾いています。


打面が傾くとボールは斜めに打ち上げられ飛んでゆきますが*3、打面が垂直だとボールは水平に飛び、すぐに落ちて地面を転がってしまいます。
パークゴルフでも打ち方によってはボールが打ち上げられることがあります。でも、ゴルフボールほど遠くには飛びません。これはボールを打ち出すときの速度と、空気抵抗に関係があります。


パークゴルフとゴルフの違いは、ボールの大きさと重さにもあります。ゴルフボールは直径42.67mm、重さ45.93gですが、パークゴルフのボールは、直径60mm、重さ80〜95gです。パークゴルフの方が大きく重いボールを使っています。



ボールが飛ぶのは、クラブをスイングすることで生まれたヘッドの運動エネルギーがボールに伝えられるからです。同じ量のエネルギーがボールに与えられた場合、ボールが重いほど飛び出す時の速度は小さくなります。
ボールの構造の違いも、ボールの飛距離に影響を与えています。パークゴルフの反発の度合いはゴルフボールより小さく作られています*4。このため、パークゴルフのボールでは初速が小さくなり、ボールを打ち上げることができてもゴルフボールより飛距離は小さくなります。


さらに、打ち上げられたボールはまわりの空気から飛ぶ方向と逆向きの力(空気抵抗)を受けます。パークゴルフのボールは直径が大きいので空気抵抗がより大きく、ますますボールは飛びにくくなります。
また、パークゴルフのボールの表面は滑らかですが、ゴルフボールの表面には「ディンプル」と呼ばれるくぼみがたくさんついています。これはゴルフボールの空気抵抗を減らし、より遠くに飛ばすために工夫された構造です。パークゴルフのボールにはディンプルをつけることが禁止されています。


以上のような理由で、パークゴルフのボールは「飛べない」のです。ボールを必要以上に飛ばさないように用具を工夫することで、小さなコースの中でも安全なプレイができるように配慮がされているのです。


パークゴルフ場では、夫婦連れや家族連れ、友人の集まりや恋人どうしのようなグループが、プレイを楽しんでいます。コースが短く体力の消費も激しくないので、子供からお年寄りまで三世代が一緒に楽しめるスポーツです。


そのはずでした。


生まれて初めてのパークゴルフは1ラウンド(18ホール)で一時間半ほどの運動だったのにもかかわらず、最後は疲労と筋肉痛でよろよろで、スコアも惨憺たる有様でした。運動の法則を考える前に、日頃の運動不足について深く考えるべきなのかもしれません。


  • 悲惨なスコア・・・

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[参考文献]

  • 「ゴルフの物理」増田 正美 裳華房(1995)
  • 「図解雑学 ゴルフの科学」岩上 真人、小川邦康 ナツメ社(1998)
  • 「ゴルフ上達の科学」大槻 義彦 講談社 ブルーバックス(2004)
  • NPO) 国際パークゴルフ協会パークゴルフ用具の基準(2003)
  • プレーヤーに聞くボール選びのコツ Park Golf View 47号 (2006)
  • ゴルフボールの科学 冨永 一郎 日本ゴム協会誌 第57刊 52号(1984
  • ボールのあたりと飛び 力石 利生 日本機械学会誌 Vol.95 No.888(1992)


[参考サイト]

http://www.ipga.jp/

http://www.spmg.jp/toyohiragawa.html

  • 札幌市環境局みどりの推進部 公園検索システム「豊平川緑地」

http://www2.wagamachi-guide.com/sapporo_koen/apps/list.asp?mode=2&ID=410001


[取材協力]

札幌パークマネジメントグループ 中島公園管理事務所 様
(NPO)国際パークゴルフ協会 様
ブリヂストンスポーツ株式会社 様


(文、写真:佐藤 登志男)


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*1:豊平川の河川敷は1968年から緑地整備が行われ、パークゴルフ場の他にも、サイクリングコース、野球場、テニスコートなどがあります

*2:使用料300円、用具(クラブ、ボール)貸出料200円

*3:ゴルフの場合はカップまでの距離に合わせてヘッドの傾き角が異なるクラブを何本も使い分けますが、パークゴルフでは一本のクラブのみでコースをまわります

*4:パークゴルフのボールはプラスチック製で、高さ1mからの自由落下で、5cm厚の鋼板に落としたとき、跳ね返ってくる高さが65cm以下であることが用具の基準で定められています。ゴルフボールを同じ高さから落とすと78cm程度反発する((株)ブリジストンスポーツ様)そうです