観覧車は無限のレールを走る 〜nORBESAの観覧車〜
地下鉄南北線の「すすきの」駅を降り、地上に出て西に向かってロビンソンデパートの前を歩いてゆくと、道路の向こうにこんな風景が見えてきます。
- ちょっとびっくりする風景
札幌のビル街の、ど真ん中のてっぺんで観覧車がのんびり回っているのです。
この観覧車は今年の5月にオープンしたばかりのnORBESA*1というビルの上にあり、nORIA*2という名前がついています。
では、nORBESAのてっぺんまで登って観覧車の足元へ行ってみましょう。
観覧車はnORBESAの七階の屋上にあって、その周りをガラス張りの廊下が囲んでいます。屋上という狭い空間の中で、観覧車を間近で安全に観察するための配慮がなされています。
観覧車の両側には太いパイプが3本ずつあって、大きな三角形を作っています。この三角の頂上に観覧車の中心軸があり、観覧車の重さを支えています。太いパイプの間に細いパイプが組み合わされ、三角形の構造がたくさん作られています。以前テレビ塔の回(リンクはこちら)で取り上げられていたトラス構造と呼ばれる構造です。
観覧車には32台のゴンドラが取り付けられていて、お客さんを乗せてゆっくり回りながら空に上ってゆきます。
さて、この観覧車は、どうやって回っているのでしょうか?
ゴンドラ乗り場の斜め左上を見てみると、こんなもの(下の左側の写真)を見つけることができます。
- 左の写真:観覧車の駆動部(右の写真の黄色い丸の部分にあります) 右の写真:駆動部とレールとの位置関係
回転する4本のタイヤが赤いレールを両側から挟み込んでいます。
赤いレールは観覧車の両側に取り付けられていて、直径36mの大きな円を作っています。
この赤いレールが回転するタイヤに押し出されることで、観覧車を回しているのです。
- 観覧車の駆動部を裏側から見てみました(撮影:nORIA 大坂様)
両側合わせて8本のタイヤにはそれぞれモーター(青いケースがそうです)が一台ずつ取り付けられています。モーターの出力は2.2kW(3馬力)です。これは50 cc のバイク(スーパーカブ)のエンジン出力とほぼ同じです。(スーパーカブのスペックはここ)
タイヤの回転は摩擦力により、観覧車のレールに伝えられます。
この力はタイヤとレールの間が滑りにくく、タイヤがレールを挟み込む力が強いほど大きくなります。
この観覧車では、タイヤとレールの間を滑りにくくするため、ゴムタイヤを使っています。ゴムは柔らかい物質で、レールの表面に密着することができます。タイヤとレールの触れ合う場所が多くなるため、レールに効率よく力を伝えることができます。
- ゴムタイヤとレール(撮影:nORIA 大坂様)
観覧車のレールは円形をしているので、始まりも終わりもありません。つまり、観覧車とは無限に続くレールの上を走り続ける乗り物といえます。
では、観覧車のタイヤはどれほどの距離を走っているのでしょうか。
ちょっと計算をしてみると*3、一日に約8km、一年で約3000km走っていることになります。人は一時間で4km歩けるので、一日の走行距離は二時間の散歩と同じくらいですが、一年に走る距離は札幌とサイパンの間の距離(約3100km)*4に近いのです。ゆっくりのんびり回っているように見えて、実は結構働き者なのです。
せっかくここまで来たので、観覧車に乗ってみましょう。
乗ってすぐの間は、屋上の建物に視界がさえぎられますが、屋根を越えると一気に視界が広がります。どんどんすすきのの街が小さくなり、札幌ドームや恵庭岳など遠くの景色が見えてきます。
- 観覧車の頂上付近からテレビ塔方面を見る
観覧車のゴンドラは地面から78mの高さまで登ってゆきます。
最後に観覧車に乗ったのはもういつのことか思い出せませんが、家族みんなでゴンドラに一緒に乗ってはしゃいだのを覚えています。
久しぶりに観覧車に乗って遠くの風景をぼんやりと眺めていると、そんな遠い日のことを思い出しました。
約十分で空中散歩は終わります。ゴンドラを降りてビルを出るといつもと変わらない風景がありました。
(文・写真:佐藤 登志男)
[参考リンク]
観覧車について
タイヤについて
[取材協力]
株式会社 太平エンジニアリング nORIA運行管理者 近藤 和夫 様、nORIA運転者 大坂 和弘 様
nORBESA運営事務所 営業担当 松田 恭昌 様