夏でも雪崩が起きる札幌!? 〜宮の森ジャンプ場〜

今回は宮の森ジャンプ場をご紹介します。宮の森ジャンプ場では、ノーマルヒルジャンプ大会が毎年開催されていますので、テレビでご覧になったことがある方もいらっしゃると思います。渋滞がなければ札幌駅から車で20分程度のところです。札幌駅から地下鉄とバスでも行けますので、観光やビジネスで札幌に来られた方もぜひどうぞ。普段は誰でも無料で見学できます。競技に使用される部分には立ち入ることはできませんが、観戦スタンドを上ることはできます。


(宮の森ジャンプ台全景)


 ピンポン玉による雪崩機構の解明実験


 宮の森ジャンプ台では冬のジャンプ競技は当然として夏にもサマージャンプ大会が開催されています。さらにその他にも、ちょっと変わった使われ方をされたことがあります。それはピンポン玉を使った、雪崩のメカニズムを解明するための実験です。北海道大学を中心とした研究チームが1995年から1997年に行いました。ピンポン玉は最大で55万個が使用されました。まずは55万個のピンポン玉を使った実験の写真をご覧ください。


(阿部幹雄氏 撮影)
(55万個のピンポン玉を使用した雪崩実験)


 この迫力!圧倒されませんか?ところで何で雪崩の実験にピンポン玉を使うのでしょうか?雪国札幌で雪崩の実験をやるのだったら雪を使ってやればいいじゃないか、と思いませんか?できればそうしたいところなのですが、人工的に雪崩を起こすのは大変難しいらしいのです。雪の積もった斜面上に雪を流そうとしてもすぐ止まってしまうのだそうです。もちろん自然の雪崩は何時、何処で起こるか分からないので、例えば雪崩の様子を撮影しようと思っても準備ができません。そこで容易に雪崩の性質を再現できる実験ができないものかと考えているうちに、軽くて転がるピンポン玉が候補に挙がりました。そして予備実験を行ったところ、大変良く雪崩の性質を表すことが分かったので、大規模な実験を行うことになったそうです。ピンポン玉の質量と受ける空気抵抗のバランスが良く、滑り出してすぐ雪崩の特徴を持って流れ落ちていくそうです。実験できる斜面の長さは決まっていますから、長い距離を流れないと雪崩の特徴を再現できないのでは役に立ちません。これは大変重要な条件です。しかも安全!です。


 さてピンポン玉実験の写真をもう一度ご覧ください。集団の先頭部に塊ができ、後方に行くと分散している様子が分かります。このような状態が実際の雪崩の性質を良く表したものなのです。それをイメージ図で表すと次のようになります。


(雪崩の性質を表したイメージ図)
(雪崩、西村浩一、日本気象学会、夏季大学講座、Vol.46, 84-87, 1997)


  空気中では空気抵抗のため、雪は、粒子一つずつで流れるよりも集団で塊となって流れる方が速く流れます。そのため、仮に先頭集団から飛び出した雪の粒子があったとしても、すぐ後ろの集団に追いつかれてまたその中に取り込まれてしまいます。これはちょうどバランスのとれた状態ですが、このような雪崩の性質を、ピンポン玉はその質量と空気抵抗のバランスが適当なため、滑り出してすぐ再現できるということです。ここでピンポン玉がこの実験に適している理由をもう少し詳しく書きます。バランスがとれた状態(定常状態)で流れるには空気抵抗が関係します。この空気抵抗は、運動する物体の速さが大きくなるほど大きくなります。例えば直径がピンポン玉と同じで、より重い球体が定常状態になるには、より大きな空気抵抗が必要です。言い換えれば大きな速度に達しないと定常状態にはなりません。大きな速度を持つためには長い距離を滑らなくてはならないので、ピンポン玉のように滑り出してすぐ雪崩の性質を持ってはくれません。逆に軽すぎると空気抵抗が大きすぎて流れてくれません。ピンポン玉は適当な質量と大きさを備えているのです。

 さて、今後はピンポン玉を使ってどんな実験をするのだろうと思い、、今後の実験予定について尋ねてみました。ところが2000年にピンポン玉の規格が変わったので、現在使用されているピンポン玉ではこのような実験はできないということでした。調べてみると、質量が2.5gから2.7gに、直径が3.8cmから4.0cmに、とそれぞれわずかですが大きくなっていました。空気抵抗は玉の直径に影響されますから、今まで絶妙だった質量と空気抵抗のバランスが崩れ、雪崩の性質を短い距離で再現することができなくなりました。たった0.2g、0.2cmの変更ですが、雪崩の研究者には大きな影響があったみたいです。

(文・写真・図:ひるあんどーん)

所在地:札幌市中央区宮の森1-18

営業時間:9:00-17:00

休業日:無休

アクセス:地下鉄東西線円山公園駅」からJRバス「宮の森シャンツェ前行き」終点下車徒歩10分(坂を上っていきます)

入場料:無料

『取材協力』

新潟大学 西村浩一教授 ・ 北海道大学 伊藤陽一博士

『参考文献』

平成7〜9年度科学研究費補助金(基礎研究(B))研究成果報告書

雪崩、西村浩一、日本気象学会、夏季大学講座、Vol.46, 84-87, 1997