自然の中の数式 フラクタル 〜前田森林公園〜

 
 お天気の良い休日、お日様の下で楽しむ散歩、ジョギング、ドライブ。この季節は外に出るのが、楽しくなります。そして、いつでも気軽に楽しめるのが、公園めぐりでしょうか。今回ご紹介する手稲区前田森林公園は、カナール(運河)のある公園として有名です。ここへの道しるべは大空に向かってシャボン玉を吹くかのようにニョッキリ伸びた銀色のモニュメントです。この公園の新しい生命の息吹をイメージしてつくられ、「芽生え」と名づけられています。

  • 大空にそびえる「芽生え」(撮影:2006/6/11)


 また、平成4年に完成したこの公園には、17世紀のフランス貴族の庭園をイメージしたフランス式庭園の様式が取り入れられています。そのヨーロッパを思わせる景色から、合唱や札幌交響楽団のコンサートなどの数多くのイベントが開かれたことでも有名です。

  • 「壁泉」を仲良く泳ぐ2羽のマガモ (撮影:2006/6/11)


 公園のメインエリアには、3つの象徴的な水景があります。
1つ目には正門入り口近くの手稲山から流れる水をイメージし、約100メートルにわたる岩壁を背景にリズミカルな水しぶきを揚げる壁泉です。2つ目はカナールと呼ばれる運河で中央ゾーンの正面奥の展望台を城に見立て、入り口から幅15メートル 600メートル長さでゆったりとしてながれています。3つ目は、展望台近く、昭和6年の博覧会と同じデザインで作られた円形の噴水です。それは、サンクガーデンの新緑のトピアリーとともに、幾何学的でおとぎの国のような、ちょっと不思議な空間を作っています。

  • 展望台に向かって続く「カナール」(撮影:2006/6/11)


 フランス式庭園の最大の特徴は、庭園全体が城を中心にシンメトリー(左右対称)になっており、遠景に庭園の消点が配置されていることです。前田森林公園では、手稲山山頂の中心と公園内の展望台の中心を結ぶ直線上を対称軸として、シンメトリーに構成されています。この幾何学的なレイアウトの効果は庭園に差し込む太陽の光とその影に表情豊かな色彩の変化を生み出します。また風のない天気の良い日には、カナールの水面に手稲山の山影が映るという演出を楽しむこともできます。
カナールの両わきには、シンメトリーをきわだたせる320本のポプラ並木が植えられ、春は芽吹き、初夏は雪のような綿毛で季節の移ろいを人々に知らせています。

  • 手稲山の山頂とつながるシンメトリーな庭園(撮影:2006/6/11)


 幾何学的で、全体がシンメトリーに配置された庭園は、いささか窮屈におもわれがちですが、いろいろなところにあえてシンメトリーを崩すような様々な変化をもたせ、アンバランスな中に心地良い調和が得られるよう工夫されているのです。
 上の写真の微妙に違う左右の植栽に気がつかれたでしょうか。


 さて、この庭園の幾何学的なデザインについてご紹介しましたが、もちろん庭園を設計したのは人間です。しかし自然界にも幾何学的に興味深いデザインを発見することができます。

 たとえば、太陽に向かって四方に延びる木の樹形に注目して見ましょう。樹形の一部を拡大してみると木全体と似た形になっている事に気づくでしょう。また、一部分を拡大してもやはり同様の形を見出すことができます。 

  • 樹木の自己相似のイメージ


これに対して、下の図のような単純な曲線の場合は、どうでしょう。どんなに拡大しても同じにはなりません。拡大することによって、前の特徴が失われどんどん直線に近くなってしまうのです。

  • 曲線の拡大


 樹木の例のように、自分自身の中に自分を縮小したものが埋め込まれているという幾何学的な性質を「自己相似性」といいます。
これを数学的に図形を記述する数式の研究するのが、フラクタル*1幾何学と呼ばれる分野です。微妙な数値の違いで、カエデの葉、雪の結晶、海岸線の模様、雲、木、鳥の羽など複雑に入り組んだ図形を作ることができます。その中でコッホ曲線*2が有名です。

  • コッホ曲線の考え方


様々なフラクタル図形を以下のウエブで見ることができます。
「Javaでものみながらふらくたるたいむ」より
http://www.nikonet.or.jp/spring/Fractal/Fractal.htm


  • 伸び続ける藤の穂先にもフラクタルが隠れています(撮影:2006/5/30)


  • 展望台を翼のように取り巻く満開の藤(撮影:2006/6/11)


現在、札幌には2,573箇所、総面積、20,097haの公園、緑地があります。(平成16年)赤ちゃんから大人までの利用する身近なスペース。市民一人あたりの公園面積は、10.8?とか。休日にのんびり公園を歩きながら、自然の中の隠れた不思議をぜひ、見つけてみて下さい。

  • ペットを通じての会話を楽しむ人々(撮影:2006/6/11)


(文・撮影・図:北守敦子) 最終更新:2006/6/22 ver.1.0


【参考文献】

  1. カオスとフラクタル―Excelで体験』 臼田昭司ら オーム社 1999
  2. 造園時代への先がけ―石勝エクステリアの仕事 ZOEN』 涌井史郎 マルモ出版 1997
  3. 公園と緑地 (さっぽろ文庫)』さっぽろ文庫64 札幌市教育委員会編 北海道新聞社 1993
  4. みどりのページ』(web) 札幌市環境局緑化推進部
  5. コッホ曲線』(web) 数学とソフトウェア M.Sanae'S HomePage
  6. コッホ曲線』(web) Wikipedia  

*1:1975年米国IBM社のマンデルブローが自己相似性という特殊な性質を持つ幾何学図形に与えた名称。ラテン語の「砕けた石」から命名。そして、同じ数式の繰り返しから自然界のデザインを再現し、また、コンピューターによりきわめて精度の高い表現が可能となった。

*2:スウェーデンの数学者ヘルゲ・フォン・コッホが考案した、線分を3等分し、分割した2点を頂点とする正三角形の作図を無限に繰り返すことによって得られる図形。フラクタル図形の一つ。