北風と太陽 〜札幌駅の「風太郎」(かぜたろう)〜



札幌駅それは札幌の街の象徴の一つです。世界的に活躍されている北海道出身の彫刻家・デザイナー五十嵐 威暢(たけのぶ)氏デザインの札幌駅南口の外壁の『星の大時計』が、刻々と時を告げます。

  • 札幌駅南口の「星の大時計」 (撮影:2006/02/12)


大時計の下の壁面の青い筋の様に見えるのは、ミラーガラスと単なる青い模様と思われるでしょうが、実は、この青い模様がソーラーパネル*1とは、ちょっと意外ですよね。



同じ札幌駅ビル「JRタワースクエアのステラプレイス」4階の北側スペースにあるセンター屋外駐車場には、弱風でも発電可能な直線翼垂直軸型風車風太郎』が設置されています。小平 悦子さんデザインのオブジェ(芸術作品)は駐車場の区域の案内も兼ね、上部の風車は立派な風力発電機の一部です。

  • センター屋外駐車場の「風太郎」(撮影:2006/03/25)


翼の回転軸が地面に対して垂直なものは、垂直軸風車と呼ばれ、回転軸を縦方向に固定させることで、360度、全ての方角から吹く風に対して翼が回転するため、風向の不安定な場所でも常に発電できるそうです。一方、翼の回転軸が地面と平行な水平軸風車は、風車の回転面が常に風に向かって正面を向くような(風上に向けるような)方向の制御が必要になります。

  • センター屋外駐車場の「風太郎」(撮影:2006/02/25・04/03)



太陽光発電風力発電により作られた電気は、JRタワー地下3階にある「天然ガスコージェネレーションシステム」*2と共に、大時計の動力や駐車場の街灯など、JR札幌駅を含む巨大商業施設の電力の一部となります。*3

  • 駅西口のコンコースにあるアートガイドの「発電中」表示パネル(撮影:2006/03/25) (クリックで拡大)


風力発電に、話を戻します。 風を起こす「扇風機」を思い浮かべてください。扇風機は、電気でモーターを回転させ羽根(翼)で風を起こします。逆に、風力発電は、風が羽根(風車)を回転させ発電機を回して、電気を取り出すのです。

  • 風車の発電の仕組み(イメージであって、風太郎などの実物の機器ではありません)


風車がつかむ風のエネルギーは、風速の3乗に比例します。例えば、風速1m/sの時、風速が2倍になると風車がつかむ風のエネルギーは8倍になります。風は高さ(高度)が高くなるほど強くなり、大型の風車ほど風力エネルギーを得ることができます。風力発電のうちプロペラ型の大型水平軸風車は、その風力エネルギーの約40%を電気エネルギーに変換できる比較的効率の良いものです。(日本では、平均風速6m/秒以上の安定した風力の得られる場所*4で稼動中の大型風車は約440基だそうです。*5

さて、札幌も風車と深い関係の時期がありました。牛山 泉 教授の「さわやかエネルギー 風車入門 」によると、
『北海道の風車のパイオニア 山田 基博 氏は第二次世界大戦の終了後、札幌に「山田風力電設工業所」を作り、風車(風力発電)の普及と改良に努めました。
「山田風車」はプロペラ材料に北海道産のエゾマツを使い、翼に適度な「ひねり」を与え、軽くて丈夫な2枚翼・3枚翼のスリムな形状で、風の強さに応じて翼の向きを変えるピッチ式などを採用し、翼の風洞(ふうどう)実験や地形による風の変化などを観察して改良が加えられた、当時、斬新(ざんしん)な風車でした。
故障が少なく価格も安く寿命も長かったので、東北・九州、さらには南米やアフリカでも利用されました。』*6
風力発電への期待が高まる昨今、海外の強力「風車」に押されぎみの国内メーカーの中に、その企業名を連ねることも無く、過去の歴史として忘れ去られようとしているのは惜しい限りです。

  • 200W2枚翼と300W3枚翼の「山田風車」(掲載許諾済:2006/04/10 提供:足利工業大学 副学長 牛山 泉 教授)(クリックで少し拡大)

  • 今はもう動かない2枚翼の「山田風車」*7(掲載許諾済:2006/04/12 撮影:2004/04/15)(クリックで拡大) 写真左の巨大風車は、市民風車「石狩」の「かぜるちゃん」


「北風と太陽」と言うイソップ物語は、北風は強い風で、太陽は強い日差しで、旅人のマントを脱がせる競争をするお話です。現実の風と太陽、他に波やバイオマスなど、自然を相手にエネルギーを利用するには、競争するのでは無く、ナンバー・ワンでも、オンリー・ワンでも無い、互いに補い合う補完関係、仏の文豪アレクサンドル・デュマの「Tous pour un, un pour tous = All for one, one for all」と言う言葉が似合うと思いませんか?

【住所・公式サイト】
札幌駅 札幌市中央区北6条西4丁目
http://www.sapporoeki.jp/
JRタワースクエア 札幌市中央区北5条西2丁目
http://www.jr-tower.com/

【取材協力】
日本風力エネルギー協会会長
足利工業大学副学長 総合研究センター長 牛山 泉 様
http://www2.ashitech.ac.jp/crc/index.html

【参考サイト】
財団法人 新エネルギー財団(NEF)「風力発電
http://www.nef.or.jp/windpower/index.html

独立行政法人 新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)「バーチャル図書館」
http://www.nedo.go.jp/library/index.html
http://www2.infoc.nedo.go.jp/fukyo/index.html

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(撮影・文・図:荒瀬 美由紀) 最終更新:2006/04/28 Ver 2.0

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*1:ソーラーパネル】については「さっぽろサイエンス観光マップ」2006-03-30 陽のめぐみ 〜「札幌市円山動物園」〜を参照。http://d.hatena.ne.jp/costep_webteam/20060330

*2:天然ガスコージェネレーションシステム】については「さっぽろサイエンス観光マップ」2006-06-07 謎の空中工場 〜JRタワー〜 を参照。http://d.hatena.ne.jp/costep_webteam/20060607

*3:【参考】札幌駅総合開発のタワー管理部に伺いました。まだ統計的な数字では無いですし、太陽光では幾ら風力では幾らと言うような個々の記録も無いそうですが、システム全体で、この一年で、おおよそ3万3千5百メガワットの発電量だそうです。また、この発電量の大半は天然ガスによるものです。(2006/04/18 電話取材)

*4:【風力の得られる場所】新エネルギー・産業技術開発機構「局所風況マップ」 http://www2.infoc.nedo.go.jp/nedo/top.html

*5:【稼動中の大型風車】新エネルギー財団「風力発電http://www.nef.or.jp/what/whats03.html

*6:【山田風車】については「さわやかエネルギー 風車入門 増補版 牛山 泉 著 三省堂」より、抜粋引用。

*7:【今はもう動かない2枚翼の山田風車】強風対策を備えた直径4mの2kW機(解説:牛山 教授) 場所:石狩市新港南3丁目 所有:前田電機製作所 様 道路から見えますので工場内への立ち入りはご遠慮ください。