サイエンス・カフェ札幌 〜紀伊國屋書店〜

 ここ数年、急速に再開発が進む札幌の玄関、JR札幌駅周辺。百貨店や量販店、パソコンショップ、大型書店が立ち並ぶ一角に、約80万冊に及ぶ洋書から一般書までを扱う紀伊國屋書店札幌本店があります。


 明るいガラス張りの店内に多くのビジネスマンや若者が書籍を求めて訪れます。また開放的な一階インナーガーデンロビーは、待ち合わせや憩いの場として、利用されています。この静かな憩いの場、インナーガーデンは、月に1度、コーヒーの香りとともに科学談義に沸く、熱い「サイエンス・カフェ」に変わります。

  • 第5回サイエンス・カフェ札幌 (撮影:2006/2/10)


 サイエンスカフェとは、約9年前にイギリスから生まれた飲み物を片手に気軽に科学の話を楽しむ参加型のイベントのことです。
 この書店のロビーで毎月開かれている「サイエンス・カフェ札幌」は、北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)が、研究者と市民の橋渡しをする人材を育てる養成プログラムの一環として行っているものです。

 このイベントは、CoSTEPの受講生や、教育スタッフ、ボランティアなど毎回20人近いスタッフによって、運営されています。2月10日と3月10日に開かれたサイエンス・カフェ札幌の様子を取材に行ってきました。

  • 第5回サイエンス・カフェ札幌 (撮影:2006/2/10)


 まず2月10日の回のテーマは、「雪の有効利用」。室蘭工業大学助教授で利雪工学が専門の媚山政良さんらが、雪を使った冷房や冷蔵の技術と実用例についてお話しました。


「北海道の豊富な雪を厄介者とは言わずに『エネルギー資源』として見直そう」との媚山さんのお話に、会場の人々は、熱心に聞き入っています。
質疑応答の後、今度は会場に集まった参加者が、「自分の考える新しい雪の利用法」を紙に書いて発表しました。参加者からは現実的、はたまた壮大なものまでアイデア続出。時間切れで、すべてを紹介しきれないほどたくさんのアイデアが出されました。日本中が、豪雪に見舞われたこの冬、『雪』は、まさに切実なテーマであり、参加者の関心も非常に、高かったようです。

  • 第5回サイエンス・カフェ札幌 (撮影:2006/2/10)


 次の3月10日は、「いまさら聞ける!?DNA」がテーマでした。ニュースなどで、日ごろから気になっている遺伝やDNAの話を、研究者に聞こうという企画でした。この回は、CoSTEP第1期生の修了制作でもあり、イベント企画・運営を受講生自らが担当しました。また話題を提供するゲスト役として、CoSTEPの受講生を含む北大の大学院生らが活躍していました。

  • 第6回サイエンス・カフェ札幌 (撮影:2006/3/10 提供:大津珠子さん)


 話題提供をした、大学院生の一人で、CoSTEP受講生でもある川本思心さんに聞きました。

 「私は『へんななまえのDNA』という題で、「ポケモン」「暴走族」などちょっとかわった名前の遺伝子について、研究者の顔などが少し見えてくる小話として紹介しました。にぎやかな会場で、会話をするようにお客さんと話すことが出来て楽しかったです。このようなカフェでは、自分の専門分野だけではなく、その周辺についてのしっかりとした知識や理解も求められると思います。ですから研究者としては、いつもの研究者としての視点からではなく、別の視点から、自分の研究を俯瞰しなおす良い機会になるのかもしれません。」

  • 第6回サイエンス・カフェ札幌(撮影:2006/3/10 提供:大津珠子さん)


 この回は、200部用意した資料が、開会直後になくなってしまう盛況ぶりで、イベント終了後も専用ブログ*1を使って当日の質問へのフォローなどが行われています。


 日本国内では現在、札幌のほか、仙台や東京、神戸、など各地で、大学や、NPO、などによってサイエンス・カフェが開催されるようになっています。来月(2006年4月)中旬〜下旬にかけては、全国の大学・NPO日本学術会議科学技術振興機構などが協力して、全国20箇所で同時にサイエンス・カフェを開催するというイベント*2も行われます。


 北大のサイエンス・カフェ札幌も、このサイエンス・カフェ全国同時開催イベントに参加します。4月22日(土)午後1時から、会場は、紀伊國屋書店札幌本店。
 テーマは、「少子化の行方〜『人口減少社会』を科学する〜*3です。


 国の将来を決定する問題を科学的視点でとらえ、その先に見える未来をどのような視点で市民と語りあっていくのか楽しみですね。


 その翌日の4月23日には、札幌市内の「SOSO CAFE」(中央区南1西13)で別の団体が主催するサイエンス・カフェがあります。函館でも同じ23日に、公立はこだて未来大学が、街中でサイエンス・カフェを行います。


 このようにサイエンス・カフェの文化は、北海道にも広がりつつあるようです。サイエンス・カフェ札幌のこれからについて、CoSTEPの教員でサイエンス・カフェを担当している三上直之さんに聞きました。

  「CoSTEPでは、今まで6回のサイエンス・カフェを行ってきました。当初は、サイエンスカフェという新たな試みが、札幌において初めてだったのだったのでどう根づくか不安な部分もありました。旬な話題と、街中という立地条件と書店に集まる若者を含めた市民の方々にCoSTEP皆のエネルギーでアピールすることができ、毎回、立ち見の方を含めて100〜200人方々に参加していただいています。こうした対話の場作りを経験したCOSTEPの修了生が札幌や北海道、さらには、道外の色々な場所で種をまき、サイエンス・カフェの花を咲かせてくれることを期待しています。」


 これからも、カフェ文化は、広まりますね。


(文・撮影:北守敦子)

【住所】
札幌市中央区北5条西5-7 紀伊國屋書店札幌本店

 
【アクセス】
JR札幌駅→徒歩(2分)


【「サイエンス・カフェ札幌」について】
北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット内
札幌市北区北10条西8
http://costep.hucc.hokudai.ac.jp/

*1:【「いまさら聞ける!?DNA」専用ブログ】Q&Aコミュ二テイ ブログ 2006年3月10日〜6月10日まで http://dna-cafe.cocolog-nifty.com/costep/

*2:サイエンスカフェの全国展開】日本学術会議 サイエンスカフェ http://www.scj.go.jp/cafe/web-content/index.html

*3:【第7回サイエンス・カフェ札幌「少子化の行方〜『人口減少社会』を科学する〜」】ゲストは、津谷典子さん 慶応義塾大学経済学部教授で人口統計学・家族社会学が専門です。