さよなら…豊羽鉱山
札幌に鉱山があることを知っていますか?
定山渓温泉から札幌国際スキー場、朝里峠へと続く道道1号。
そこから分岐した道道95号を西へ進みます。
すると山のあちこちから湯気が上がっているのが見えてきます。
山腹にはさまざまな建物がならんでいます。
ここが豊羽(とよは)鉱山です。
地下は最も深いところで600m下まで掘られています。
そこは海面より低い深さです。
実は、2005年2月現在、
日本で操業している主要金属鉱山*2は豊羽鉱山と、鹿児島県の菱刈鉱山だけです。
そしてここ豊羽鉱山では、
さまざまなものの原料となる金属が掘り出されて来ました。
豊羽鉱山では主に亜鉛(あえん)鉱石、鉛(なまり)鉱石が取れますが、
その中には銀、金、銅、硫化鉄(りゅうかてつ)、インジウムなどが含まれています。
このあたりの山は1914年に豊羽鉱山と名づけられました。
鉱山の発展とともに、定山渓の温泉街や定山渓鉄道(現在の定鉄バス)も発展し、
札幌の街づくりに大きな影響を与えました。
1921年からは第一次世界大戦後の不況で休山になりましたが、
1937年、再開に着手し、1939年に操業を再開しました。
武器等の生産にも非常に重要な、亜鉛と鉛がとれたからです。
- 亜鉛と鉛からは銃の弾丸も作られた。1930年代から日本は戦争の道を進んでいった
1944年に河川水が坑内に流れこむ大事故がおき、
これをきっかけとした政府の命令によって再び休山しましたが、
1950年、肥料のもとになる硫化鉄の需要が高まり、操業を再開。
山はにぎわいを取りもどしました。
- 硫化鉄は作物を育てるのに欠かせない窒素肥料(硫酸アンモニウム)の原料にもなった
近年では主産品の亜鉛のほか、銀、インジウムが豊羽鉱山の重要な生産物です。
このうち、インジウムはとてもめずらしい金属ですが、
豊羽鉱山では世界でも多くの量を産出しています。
インジウムはIT機器には欠かせない材料です。
電極の接着に使うはんだ、コンピュータの基本的な部品になる半導体、発光ダイオードなどなど・・・
そのなかでも、薄くて軽い液晶ディスプレイは
機械がどんどん小型化している現在、特に需要が高まっていますが、
液晶ディスプレイのなかの透明電極という部品にインジウムが使われています。
- インジウムが使われる液晶ディスプレイ。あなたの携帯電話にも豊羽の山の一部が入っているかも?
このように、豊羽鉱山は様々な品物の原料を提供してきました。
しかし残念なことに、豊羽鉱山は2006年3月で操業を休止します。
資源が少なくなったことが理由です。
では液晶ディスプレイはなくなってしまうのでしょうか。
現在、そうならないように、様々な新技術の開発がされています。
まず、無駄をなくして、少ない量でたくさんの製品をつくる技術や、
リサイクル技術が開発されています。
また、インジウムのかわりの物質を使うことや、
液晶そのものを使わないディスプレイの開発も試みられています。
人々の生活のかたちや技術はどんどん新しくなっていきます。
しかし、それを支えてきた豊羽鉱山を忘れてはいけないでしょう。
- 今でもたくさんの方が働いています。操業休止の日まで無事故でありますように (撮影:2005/12/04)
(文・写真・図:川本思心) 最終更新:2006/2/7 ver.1
【住所】
・南区定山渓849
・札幌市中心部から車で約60分。鉱山敷地内は立ち入り禁止。
※北大総合博物館の玄関左と3階エレベータ横では豊羽鉱山で採掘された鉛・亜鉛鉱石を見ることができます。
【参考資料】
- 『定山渓温泉 (さっぽろ文庫)』 さっぽろ文庫59 札幌市教育委員会編 1991
- 『地形と地質 (さっぽろ文庫)』 さっぽろ文庫77 札幌市教育委員会編 1996
- 『日本鉱業株式会社五十年史』 日本鉱業株式会社五十年史編集委員会編 1957
- 『図解雑学 液晶のしくみ (図解雑学シリーズ)』 水田進編著 ナツメ社 2002
- 日鉱金属株式会社 ニュースリリース (web)
【取材協力】
・豊羽鉱山株式会社