謎の崖を追え 〜豊平川右岸・河成段丘〜
南区真駒内泉町一丁目にあるエドウィン・ダン記念公園は、
1876年(明治9年)から開拓使として札幌で牧畜の指導を行った
エドウィン・ダンを記念した公園です。
園内には彼が作った真駒内用水があり、記念館も建っています。
この記念館のすぐ裏に、建物にして2階ほどの高さの段差があります。
- エドウィン・ダン記念館裏の小さな崖(撮影:2005/11/23)
このような崖はここだけにあるのではなく、北へ向かって続いているのです。
エドウィン・ダン公園をスタート地点に、どこまでこの段差があるのか、
北上してみましょう。
真駒内用水ぞいに北へ向かうと、目だった段差はなくなります。
約1kmで、五輪通りに面した真駒内曙公園に着きます。
整地されているため、自然の段差ではありませんが、
園内の東半分が西半分より階段10段分高くなっています。
- 真駒内曙公園の段差(撮影:2005/11/23)
ここから先、真駒内用水は北東へ向かいます。
一方、段差はさらに北へ向かい、真駒内曙団地、真駒内駐屯地の中を走り、
国道453号を横切って、道のすぐ西側に建物にして4階ほどの高さの急な崖になります。
崖とならんで北東へむかう国道453号を1.5kmほど進むと、
西側に小さな林があり、そこに東から来た精進川が流れこんでいます。
林の中の遊歩道の階段をおりていくと、小さな滝があります。
ここは精進河畔公園です。
精進川の東側に建物にして3−4階の高さの崖がならんでいて、
最もよい観察ポイントになっています。
南北に細長く800mほど続く精進河畔公園を抜けた後も、高い崖が続きます。
白石藻岩通りや環状通りは、かなり長い、ゆるやかな坂道にして、
大きな高低差を越えています。
環状通りをすぎると除々に高低差が低くなり、
崖と精進川は豊中公園に入ります。
ここで精進川は北西に曲がり、その後豊平川に合流します。
- 豊中公園の崖 (撮影:2005/12/1)
崖は整地されて、わずかな段差になりますが、
豊中公園北の団地内を北進した後に北西に曲がり、
400mほどで中の島通りにぶつかります。
この平岸一条二丁目と一丁目の境目の地点を越えると、
道は降り坂になっています。
このあたりがどうやら崖の終着点のようです。
豊平川まであと西へ約300mの地点です。
- 中の島通り 平岸一条付近 (撮影:2005/12/1)
この豊平川にそって存在している長い崖は一体何なのでしょうか。
この崖は、豊平川が何万年もかかって作った、
札幌の大地の歴史を教えてくれるものなのです。
今から約1万年前まで、氷河期という非常に寒い時代が続きました。
氷河期は寒いので、山に木が生えなくなって、土砂が流れ出す量が増えます。
また、雨ではなく、いつも雪がふるので、豊平川の水量が減ります。
このため、大量の土砂が海まで流されずに、
山地の出口のあたり(エドウィン・ダン公園がある真駒内周辺)から
北海道大学植物園のあたりにかけて土砂がつもりました。
このようにして、扇状地(せんじょうち)と呼ばれる地形ができました。
その後、暖かくなって氷河期が終わると、豊平川の水量が増えました。
すると水の流れが川底をけずる力が強くなります。
また、5000年前までは豊平川は桑園のあたりに向かって流れていましたが、
徐々に東へと移動していきました。
このようにして豊平川は現代までの間、
古い扇状地を東へ東へとけずっていき、そこには段差ができました。
川によってけずられてできた、このような段差を「河成段丘(かせいいだんきゅう)」
または「河岸段丘(かがんだんきゅう)」と呼びます。
札幌には「平岸面」と呼ばれる、一万年以上前に作られた古い扇状地と、
「札幌面」と呼ばれる、一万年以後に削られてできた新しい低い土地があったのです。
そして、この二つの大地の境目が、豊平川の東岸に続く崖だったのです。
- 扇状地と河成段丘の形成
(文・写真・図:川本思心) 最終更新:2006/1/10 ver.1
【ガイド】
紹介した段丘崖の全長は約6kmで、徒歩や自転車でも十分に見て回れる距離です。
また、スタート地点は地下鉄真駒内駅から徒歩10分、ゴール地点は地下鉄中の島駅から徒歩5分ほどですので、地下鉄を利用すると便利でしょう。
- 豊平川右岸に続く河成段丘(赤点線)(クリックで拡大)
【参考資料】
- 『地表環境の地学―地形と土壌 (新版地学教育講座)』 新版地学教育講座1 地学団体研究会編 東海大学出版 1994
- 『地学事典』 地学団体研究会編 平凡社 1996
- 『地形と地質 (さっぽろ文庫)』 さっぽろ文庫77 札幌市教育委員会編 北海道新聞社 1996
- 豊平川の河床勾配を調べる 札幌市立幌東中学校 高橋伸充教諭 (web)
- 札幌市公園検索システム (web)