色の見え方、色々 〜大通公園・ホワイトイルミネーション〜
毎年11月中ごろから1月はじめまで、
大通り公園では「ホワイトイルミネーション」が開かれ、様々な光で飾られます。
また、12月には「ミュンヘン・クリスマス市 in Sapporo」も開かれ、
クリスマスの時期、街には赤と緑の色彩があふれます。
- 大通公園のホワイトイルミネーション (撮影:2005/11/26 提供:角幸治)
上の3枚の写真を見て、何が違うと思いますか?
これらの写真は、時間によってイルミネーションの
色が変わる様子を撮影したものではありません。
同じ景色が、ある人はAのように見えますが、
別な人にはBのように、
また別な人にはCのように見える様子を再現したものなのです*1。
この世界は誰が見ても同じように見えると思いがちですが、
人によって色の見え方は違うのです。
「見る」ということは、目と脳で行っています。
目にある、色として脳が感じる光を受け取る細胞を
錐体(すいたい)細胞と呼びます。
錐体細胞には3種類あり、
それぞれ、赤・緑・青の色として脳が感じる光を受け取る役割を受け持っています。
これらの細胞のはたらきが脳に伝わって、脳で光が「色」として感じられます。
この感覚を「色覚」と呼びます。
- 色を感じるしくみ
ヒトの場合、さまざまな色は赤・緑・青の組み合わせによって生じます。
三つの色を担当する錐体細胞で色覚が生じるため、「3色型色覚」と呼ばれます。
しかし、3種類の錐体細胞のうち、一つが働かない人もいます。
その人の色覚を「2色型色覚」*2,*3と呼びます。
- 色覚の違い。赤と緑のクリスマスカラーはどう見えるか?(A, B, Cは1枚目の写真と対応) (撮影:2005/12/15 提供:宮本朋美)
写真Aは多くの人が見ている風景で、3色型色覚です。
写真Cは青の錐体細胞が働かない場合の2色型色覚です。
3色型色覚の人が、BやCの写真を見ると、
色が全く見分けられないのではないかと思うかもしれません。
しかしそうとも限りません。
2色型色覚の人達は脳の働きによって、
場合によっては3色型色覚の人が気付かないような
微妙な色の違いを見分けることもできると言われています。
また、場合によっては2色型色覚の方が、違いが見えやすい場合もあります。
- 2色型色覚(緑・青)の場合(右図)、背景が明るく見える
とは言え、3色型色覚の人が多い世の中では、3色型色覚の人向けの色使いが中心で、
2色型色覚の人にとっては見にくいものがたくさんあります。
緑色の黒板に、赤いチョークで書かれた字は、
2色型色覚(赤・緑)の人にはほとんど見えません。
誰でも見やすい朱色のチョークが発売されていますが、
やはり一番重要なのは、色を使う人の心づかいです。
- 2色型色覚(赤・青)の場合(右図)、黒板の赤字は見づらい
3色型色覚と2色型色覚のような違いを「多型」*5と呼びます。
多型の例としては、赤血球による血液型があげられます。
日本人で一番少ない血液型はAB型で、約10人に1人です。
赤、あるいは緑の錐体細胞を持たない2色型色覚の人は、
計算では日本人の男性の場合、約20人に1人、
女性の場合人に約500人に1人いると言われています*6。
血液型の例を見て分かるように、
多型を比べて、どちらが生き残る上で優れているということはありません。
冬のイルミネーションを見るとき、
人によって色の見え方がさまざまであること、
より多くの人が見やすい世界にするには自分は何ができるか、について
ちょっと考えてみるのもよいのではないでしょうか。
(文・図:川本思心) 最終更新:05/12/27 ver.1
【住所・イベント情報】
- 大通公園 地下鉄大通り駅から徒歩0分
- 札幌ホワイトイルミネーション 第25回 05.11.18−06.1.6
- ミュンヘン・クリスマス市 in Sapporo 第4回 05.11.19−12.11
【参考資料*7】
- 『どうしてものが見えるのか (岩波新書)』 村上元彦 岩波新書 1995
- 『細胞工学』 2002年7, 8, 9月号 色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション 岡部正隆,伊藤啓 秀潤社 (webでも読めます)
- 『岩波 生物学辞典 第4版』 第4版 岩波書店 1996
*1:【さまざまな色覚の再現写真】色覚シュミレーション用プラグインvischeck(フリーウェア)とPhotoshopを使って変換した(詳しくはこちらのサイトを参照)。この画像はあくまで視細胞レベルでの光受容を再現したもので、実際に見えている像と違う可能性もある。また、この画像は一例であって、全ての2色型色覚の人が同じように見えているわけではない。
*2:【2色型色覚】いわゆる「色盲」「色覚異常」のこと。写真Bの2色型色覚(赤・青)は「第2色盲」・「緑色盲」、写真Cの2色型色覚(赤・緑)は「第3色盲」・「黄青色盲」と一般に呼ばれる。3種類の錐体細胞自体は働いているが、その働きが変化している場合を、いわゆる「色弱」と呼ぶが、これも3色型色覚である。〔※ 「色盲」という言葉には差別的な意味が含まれているとされ、「色覚異常」「色覚障害」などの言葉に言い換えられている。しかし、この言葉も問題であるという考えもある。「色盲」という言葉のほうが、客観的な意味があるとして「色盲」を提唱する考えや、「色覚偏位」「ドルトニズム」という言葉も提唱されている(注7参照)。この記事では「2色型色覚」という言葉を使ったが、強度の変化を起こした3色型色覚(いわゆる「色弱」)と2色型色覚を区別するのはほぼ不可能であり、生物学的に厳密な言葉ではない。いずれにせよ、問題の本質は言葉ではなく、差別、強いられる不便さ、そして生物の多様性に対する無理解をどう解消するかにあるのではないだろうか。〕
*3:【単色型色覚】1種類の錐体細胞のみがはたらく場合、あるいは3種類全ての錐体細胞が働かない場合、単色型色覚、いわゆる「全色盲」になり、色を感じることはできない。
*4:【2種類ある2色型色覚】赤錐体が働かない緑・青による2色型色覚(「第1色盲」・「赤色盲」)の場合もある。この場合も緑錐体が働かない場合(写真B)と比較的似たように見える。
*5:【多型】遺伝子の個体差のことで、遺伝的多型とも呼ばれる。一般的に、集団中に1%以上の頻度で安定して存在する、不連続な形質をさす。3色型色覚の場合でも全ての人が同じ遺伝子を持っているわけではなく、多型になっている。
*6:【色覚の多様性の原因】色覚は遺伝するが、後天的な色覚の変化もある。青錐体がない2色型色覚は数万人に1人という割合で遺伝する稀な形質だが、精神的なショックなどでも同じ症状に一時的になる場合がある。また、角膜の着色によって色の見え方がかわる場合もある。
*7:【言葉について】著者の三氏は2色型色覚で、村上氏は視覚神経生物学の第一人者、 岡部氏は脊椎動物の器官形成、伊藤氏は昆虫の脳神経を研究する第一線の生物学者。著作のなかで村上氏は「色覚異常」という言葉を使っているが、「色覚偏位」、「ドルトニズム」を提案し、岡部・伊藤氏は「色盲」という言葉を使っている。