フライフィッシングで自然とコミュニケーション〜十五島公園〜


 国道230号線を札幌から定山渓方向へ走り、カーボーイ藤野店を通り過ぎ三つ目の信号を右折して住宅地を抜けると十五島公園に着きます。十五島公園は豊平川河畔にある清らかな渓流と渓谷美が見られる公園です。園内には炊事場があり、渓谷を眺めながら野外で食事ができるので、遠足で人気のスポットです。また、公園脇を流れる豊平川ではニジマスやヤマベといった渓流釣りで人気のあるマス科の川魚を釣ることができることから、魚釣でも人気スポットです。今回は、釣りの技法の一つ、フライフィッシングについて紹介をします。


フライフィッシングとは
 魚釣りの方法には、えさ釣り・ルアーや毛ばり釣りなど様々な方法があります。中でもフライフィッシングは十数年ほど前から楽しむ人達が増え、釣具屋さんにもフライフィッシングの道具が一般的に置かれるようになりました。
 フライフィッシングは、フライとよばれる毛ばりをフライラインという特殊な釣り糸につけます。そして、釣り糸を収納してあるリールを付けたフライロッドと呼ばれる専用の竿で、フライを魚のいそうなポイントまで投げ入れます。この動作をキャスティングといいます。キャスティングで自由自在にラインを操り、自分の思い通りの場所にフライを投げ入れるためには、少しの熟練を要します。

■フライの種類について
 フライはフライフィッシングで最も重要なアイテムです。釣具屋さんのフライフィッシングコーナーには、形・大きさ・色合など実に多種多様の美しいフライが置かれています。

 フライ(毛ばり)は疑似餌と呼ばれ、鳥の羽や動物の毛などを利用して、魚が補食している生き物に形や色を似せて作られています。現在では、魚・エビやカエルの形に作られたフライもありますが、古くからあるフライ(Fly)はその言葉が表すとおり昆虫の形を真似て作られたものです。


 これらのフライは、一体どんな昆虫をモデルとして作られたのでしょうか。北海道のフライフィッシングで最も人気がある対象魚のヤマベやニジマスなどのマス科の魚を釣るフライを例に見てみましょう。
 マス科の魚たちを釣るためのフライのモデルとなっている代表的なものは、カゲロウ目(メイフライ)・トビケラ目(カディス)・カワゲラ目(ストーンフライ)・ユスリカ目(ミッジ)の4グループの水生昆虫です。これらの水生昆虫は、季節によって幼虫・さなぎ・成虫といった成長段階は異なりますが、一年を通して存在しています。このことから、マス科の魚の主たる餌となっています。

さらに、これらの水生昆虫はそれぞれ多数の種から構成されています。地域によって生息している種類数は異なりますが、日本全体ではカゲロウ目が約140種、トビケラ目が約400種、カワゲラ目が約200種、ユスリカ目では約1000種もの種が知られています。同じグループの水生昆虫でも、種が異なると形・色・大きさが異なります。さらに、同種でも幼虫・さなぎ・成虫といった成長段階によって形・色・大きさが異なります。フライは種や成長段階での形・色・大きさの違いを表現して作られています。このことが、多種多様なフライが存在する理由の一つとなっており、一説ではフライの種類は数百万種もあるそうです。
 
■フライタイイングについて
 多種多様なフライが存在するもう一つの理由は、フライは簡単に手作りができるということです。フライを作ることをタイイング(tying)といいます。水生昆虫は同じ種類でも地域によって形・色・大きさが異なることがあります。そこで、釣り人達は自分が釣りに出かける地域や川に棲んでいる水生昆虫の種類や特徴をよく観察します。そして、その特徴から最もよく魚が釣れるフライの形・色・大きさを考え、フライを作ります。自分で作ったフライで魚が釣れたときは、格別の思いを味わうことができます。市販されているフライだけでなく、釣り人達がタイイングするオリジナルフライまで入れると、フライの種類は莫大な数となります。

■フライの選び方
 では、このような沢山の種類のフライから、釣り人達は使用するフライをどのように選ぶのでしょうか。まず、川に出かける前に季節や場所から、どのような水生昆虫がどのような成長段階で生息しているか予想して、数種類のフライを準備します。川についたら水生昆虫の観察です。水面に浮かんでいるもの、飛んでいるもの、草や木の枝にとまっているものを観察します。さらに、川の石を裏返し幼虫も確認します。最も多く確認できた水生昆虫は、魚に捕食されている可能性が高いと考えることができます。そこで、多く確認できた水生昆虫の形・色・大きさに最も近いタイプのフライを選択します。また、水温や川の水のにごり具合といった要素も重要です。例えば、水温が高く川の水が透明であれば、魚が活発に行動するので水面に浮くタイプの、反対に水温が低く、川の水がにごっている場合では沈むタイプのフライを選択します。フライの選択が不適切だと、ライズ(魚が水面近くで跳ねること)や魚が泳いでいるのが見えているのにボウズ(さっぱり釣れない状態)となります。

■フライの魅力
 フライフィッシングの根底にある哲学は、自然観察です。地域や川によって、魚や餌となる水生昆虫の生息する種類や生態が異なります。フライフィッシングでは大切なことは、注意深い観察によって得られた知識から川全体の環境や生物同士のつながりを理解することです。その理解を元にオリジナルのフライを作ることや、使用するフライを選択するといった行為を通して魚に問いかけます。自分の知識や理解の通りに魚が釣れたとき、自然とのコミュニケーションが成立したような気持ちになります。また、その川の自然全体に強い愛着を持つこともできます。と同時に自然は必ず人間の知識や理解を超えた結果をもたらすことがしばしばあります。そんな時には自然の不思議さや懐の深さを感じることができるのです。フライフィッシングの魅力は、魚を釣ることにより自然に対する愛着・不思議さ、自然の懐の深さをリアルに感じることができるところなのです。
(文:三浦久和)

【アクセス】

【住所】

  • 南区藤野108地

※北海道内水面漁業調整規則により4〜5月はヤマベは禁猟です。
※釣り針や釣り糸の放置は野生動物にとって大きな脅威です。いつまでも魚たちと遊んでもらえるように、後始末をしっかりしましょう。

【参考文献】

  1. フライフィッシング・ハンドブック」 デイヴ・フィットロック著 翔泳社
  2. 「英国のフライフィッシング史」 椎名重明 著 つり人社

【引用・参考リンク】

※記事の中の写真「代表的なフライのモデルとなっている生昆虫たちの」の水生昆虫の画像は、上記サイトから引用させていただきました。
【謝辞】
 写真の引用を承諾していただいた「フライフィッシングに使う水生昆虫」のHPを運営されている鈴木さんにお礼申し上げます。
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