緑の堤防〜ひのまる公園〜


 地下鉄東豊線栄町駅から西へ15分ほど歩くと、大きな樹木がたくさんはえている「ひのまる公園」が見えてきます。
(撮影:2006/7/8)


■ひのまる公園について
 この公園は、明治時代、札幌村三大農場のひとつに数えられた、日の丸商店の店主・松本菊次郎が営む日の丸農場の敷地内であったことから「ひのまる公園」と名づけられました。園内には、歴代の農場主が保存に勤めたヤチダモやハルニレ、ミズナラなどの大木が開拓以前をしのばせる貴重な樹林としてそのまま残されています。また、散策路、遊水路、休憩所などが整備され、野球広場やテニスコートといったスポーツ施設も備えている緑豊かな公園です。大きな樹木が残る自然林の園内では、全身が樹木に抱かれているような感じがして心地よく、筆者のお気に入りの公園です。


■ひのまる公園のなぞ
 そんな素晴らしい「ひのまる公園」には、なぞがあります。そのなぞとは、野球広場の水はけが非常に悪いことです。普通、グランドや野球場は周囲より水はけが良くなるように造ってあるはずです。しかし、「ひのまる公園」の野球広場は逆に周囲から雨水が流れ込むようになっていて、公園の中で真っ先に水浸しになってしまうのです。これはなぜでしょう。

 このなぞを解くヒントが、野球広場に設置されている一枚の看板にありました。看板には、そこが野球広場であると同時に、公園貯留施設であることが書かれていました。貯留施設とは、いったいどのような目的を果たす施設なのでしょうか。


■洪水の危険性
 札幌は豊平川が洪水のたびに流れを変え土砂が堆積することによりできた土地です。このような地形を扇状地といいます。札幌は地形の成り立ち上、大小いくつもの河川が存在し複雑に市内を流れており、大量の雨が降ると河川の氾濫が起こりやすく、過去に幾度も洪水被害を受けてきました。


■洪水を防ぐには
 そのため、札幌の街では、古くから治水工事が行なわれてきました。洪水を防ぐための治水工事には2つの方法があります。1つは河川改修という方法です。これは、障害物を取り除いたり分水路を作るなど河川の流れをスムーズにすることや、川幅を広げたり高い堤防を築くなど、河川の排水能力を高める方法で、札幌でも古くは明治初期から行なわれてきました。もう1つの方法は、河川の排水能力を超えるような大量の雨水が一度に流出しないようにすることです。一時的に水を貯える貯留地や調整池などの貯留施設によって洪水被害を防ぎます。


■都市化による水害
 札幌では昭和40年代頃から住宅地や道路の整備などの都市化が進み、建物や舗装部分の面積が増加して、雨水を地面に浸透させたり、一時的に貯えておく遊水地として機能していた空き地や田畑が減少しました。その結果、下水道を通って河川に放出される雨水の流出量が、都市化が進む以前より増加し河川が氾濫する危険性が高まってきました。
特に「ひのまる公園」がある東区を含む札幌北部の地形は、もともと標高が低く平坦な低地帯が多く、洪水により浸水などの水害を受けやすい土地が広がっています。その上、急速な都市化が進むことで河川が氾濫する危険性が高まり、早急に対応する必要が生じました。
しかし、河川改修による対応では、用地の買収や大掛かりな工事が必要なため、莫大な費用や長い年月が掛かってしまい早急に対応することが困難です。そこで、河川改修だけで洪水を防ぐのではなく、雨水を地面に浸透させたり一時的に貯え、大量の雨水を一度に河川に流出させないようにする貯留施設が造られるようになりました。


■洪水を防ぐ野球場
 洪水を防ぐ貯留施設の一つとして、平成7年に整備された貯留地が、「ひのまる公園」の野球広場だったのです。「ひのまる公園」の貯留地の構造は、子供が安全に遊べる基準である30cm程度を周囲より掘り下げてあり、貯留地周辺に降った雨水が集まりやすい構造になっています。また、止水弁がついている排水口を備えており、止水弁を閉じることにより、下水への流出を一時的に止めることができるようになっています。満水時には水深20cm程になり約700tの水を貯留することができます。
http://comm.sci.hokudai.ac.jp/~ishimura/webteam/movie_hinomaru2.flv

<貯留施設のイメージ動画> [札幌市建設局下水道河川部河川計画課ホームページより引用]

 「ひのまる公園」の貯留施設は、東区中央部の伏古地区から北区篠路地区をとおり札幌北部へ流れる伏籠川に流出する雨水の流出量を調節する施設です。同様の働きをもつ貯留施設が伏籠川流域の東区・北区の公園や学校のグランドを利用して、平成5年度から平成16年度までの間に61箇所が貯留地として整備されました。最終的には平成26年までに117箇所の貯留地を整備する計画となっています。この計画は、伏籠川流域貯留浸透事業と名づけられ札幌北部の洪水に対する安全を確保しています。

伏籠川流域貯留施設一覧> [札幌市建設局下水道河川部河川計画課ホームページより引用]

「ひのまる公園」は、都市化で失われた貴重な緑を残しているだけでなく、都市化による河川の氾濫を防いでくれる堤防としての機能を持った公園だったのです。
 (文 三浦久和)



【アクセス】

【住所】

  • 東区北41条東10丁目

【参考文献】

  1. 「さっぽろ文庫77 地形と地質」札幌市教育委員会

【参考リンク】

【謝辞】
 取材のご協力いただいた2名の方々にお礼申し上げます。
 札幌市建設局 下水道河川部河川計画課 後藤さん・長平さん
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