音の響き 〜札幌コンサートホール「Kitara」〜


札響*1PMF*2の、大きな二つの音楽文化を育む拠点であるキタラは、雰囲気(ふんいき)や音響*3(おんきょう)の良い音楽専用ホールとして、来日する演奏家たちのクチコミで、むしろ欧米で評価が高まった経緯(いきさつ)があります。

  • 札幌コンサートホール「キタラ」外観 (撮影:2006/01/19)


西欧ではパイプオルガンは教会で演奏されることが多いのですが、日本ではバブル期よりコンサートホールのシンボルとしてのオルガンが増え、演奏されるようになりました。キタラも正面に、パイプオルガンが設置されています。

  • 大ホール正面 (掲載許諾済:2006/01/19 提供:キタラ)


音の響きをパイプオルガンを例に、味わってみましょう。
パイプオルガンは、パイプ(笛)に風を送って音を出す楽器です。ホールの空間を十分に満たす圧倒的な存在感と音色・響きは、オルガンの何処から生まれているのでしょうか?

  • フランスのアルフレッド・ケルン社製のオルガン(掲載許諾済:2006/01/19 提供:キタラ)


正面に見えているパイプは美しく壮観ですが、見えない所にも大小さまざまな沢山のパイプが隠れています。 一番短いパイプは約1cm、一番長いパイプは約7mだそうです。

  • オルガン内部のパイプの調律中 (掲載許諾済:2006/01/19 提供:キタラ)


パイプ(笛)にはフルー管(リコーダーと同様のメカニズムで発音)とリード管(クラリネット同様のメカニズムで発音)があり、一つの笛は、一つの高さの音しか出すことができません。鍵盤(けんばん)を押すと、裏側にある風箱(かざばこ)から、鳴らしたい笛に空気が送り込まれます。
笛の中を流れる空気は規則的な渦(うず)を作り出し、2列の渦*4になるとは限らないのですが、空気の渦を利用して笛を鳴らし、管の固有の振動(固有振動)とが共鳴して大きな音が出るのです。

  • パイプの中を流れる空気が作る渦のイメージ


また、複数ある鍵盤(キタラは4段)は、それぞれの鍵盤が独立した一つのオルガンです。複数のオルガンが一つの大きなオルガンとなります。
荘厳(そうごん)で美しい音色・響きは、沢山のパイプと複数のオルガンのハーモニー(調和)から生まれるのです。
人間の耳で音が聞き取れる範囲、可聴域は約20Hz〜20kHz位ですが、音程として捉えられる音域は、ピアノの最低音A0(約27.5Hz)〜最高音C8(約4186Hz)位です。*5パイプオルガンの音域は、C0(約16Hz 低周波域)〜G9(約12kHzで音波域)です。そして、音の響き(倍音*6)は、超音波域です。

  • 音域(可聴周波を超えると超音波。約30Hz以下を特に低周波と言う。)


ピアノを、はるかに超える音域を持つパイプオルガンの音の波による触覚は、ホールで体験しないと味わえない迫力です。
キタラのオルガンのパイプの合計4976本、「良く鳴る」という語呂合せがあるそうです。
J・S・バッハなどのオルガン曲も大変すばらしいですし、R.シュトラウス交響詩ツァラトゥストラはかく語りき」、サン・サーンスの交響曲第3番、ホルストの「惑星」、エルガーの「威風堂々」などは、オーケストラと共にオルガンも楽しめます。
音の響きを、生で味わいに足を運んでみませんか?

【住所】
札幌コンサートホール「Kitara」 札幌市中央区中島公園1番15号

【公式サイト】
http://www.kitara-sapporo.or.jp/


さて、ここまでは「ハード」のお話。ここからは「ソフト」のお話をしましょう。

札響の音楽監督尾高忠明」氏に、直接逢って、お話を伺いました。

インタビュー

エストロ「尾高忠明」を「コミュニケート」すると?

  1. 指揮者の演奏中の想いは?「指揮者は列車が走るとすると、運転手さんでも有るし車掌さんでも有る。その作曲家その曲を想い、その日のその時間により空気の中に現れては消えてゆく、時間芸術ですから、同じ曲でも毎回違います。オーケストラにも、お客様にも気を配りつつ、その作曲家その曲を想い、そのパートで一番がんばってもらいたい演奏家にアイコンタクトを送るのです。カラヤンと言う銘指揮者は、自分が信頼しているオーケストラの指揮をしている時は目をつぶっていまして、危なくなるとパッと演奏家の目を見る。線路から外れそうな演奏家にアイコンタクトを送ることで、想いが通じるのです。お客様に曲に没頭してもらうために、指揮者は結構忙しいのです。」
  2. かの有名な実業家 渋沢栄一 翁から脈々と受け継がれた人を育てると言うお血筋の他に、指揮者にしておくのは勿体無い位?理工系にもお強い。 「好きですね。(笑)MS−DOSの頃から二十年位、(PCを)組み立てていました。音の静かな水冷式のが出てからは、流石に作らなくなりました。(笑)外国のホテルで、コンシェルジェに(使い方を)教えた事があります。(逆に)チップを頂こうかと。(笑) でも、便利な一方怖いですね、自分の未来のスケジュールまで全て解ってしまう。(笑)」
  3. 指揮者は、まさにコミュニケーター。 「日本では、クラッシック音楽は古いと言うイメージですが、西欧では、お祖父ちゃん・曾お祖父ちゃんの時代に作曲家が、ご近所に住んでいた、まだ生きていた時の曲なのです。まずは、日本の若い人たちに、オーケストラをこんなに面白いんだよと言う事を知ってもらう取り組み*7をしています。  それから、例えば、外国でチャイコフスキーの最晩年の曲「悲愴」等を演奏したりしますと、聴衆と演奏家が、指揮者により一体となった瞬間、その場に作曲家が現れた様な感覚になることがあります。(土地柄もあるでしょうが)作曲家の想いを、聴衆に演奏家を通してコミュニケートしたことになるのでしょうね。」

お逢いしての印象は、大変気さくで優しいお人柄でした。その眼差しは、真摯で熱いものを感じました。大変興味深いお話がまだあるのですが、またの機会に。

【公式サイト】
札幌交響楽団
http://www.sso.or.jp/

PMF
http://www.pmf.or.jp/

札幌芸術の森
http://www.artpark.or.jp/

2006年は、モーツァルトが250年前の1月27日に生まれたトシでもあり、武満徹没後10年のトシでもあります。 メモリアル・イヤーとしてファン垂涎の曲が目白押しですよ。
(撮影・文・図:荒瀬 美由紀) 最終更新:2006/03/02 Ver 1.0

*1:【札幌交響楽団】1961年発足の国内はもとより、海外でも活躍中の北海道唯一のプロ・オーケストラ。作曲家の 武満 徹(たけみつ とおる)氏は、生前、札響をこよなく愛した。

*2:PMF】Pacific Music Festival 指揮者であり作曲家であった故レナード・バーンスタイン氏が若き音楽家を育てるために提唱。毎年夏、札幌市郊外の「芸術の森」を中心にプログラムを開催。

*3:【音響】楽器から出る直接の音「直接音」・壁や人からの反射の音「反射音」・音が響きとなって残る音「残響音」が音の三要素。直接音の0.1秒後に生じる初期反射音が重なる時、すばらしい音の響きとして聞こえる。この初期反射音が、バランスよく全体に満遍(まんべん)なく広がり、さまざまな方向から聞こえるホールは評価が高い。キタラは、演奏家自身の楽器の音も仲間の音も、たいへん良く聞こえるそうです。

*4:【カルマン渦列】孤立した山などの風下に現れる特別な並び方をした2本の渦の列。毎年のように、冬の寒気の吹き出しがある頃、済州島(チェジュ島)の風下にできるカルマン渦列は気象の世界でも有名。自然界で、カルマン渦列が作り出す周期的な空気の流れ(風)が作る音には、木枯らしによる電線のうなりなどがある。気象庁 衛星画像事例集 済州島風下で発生したカルマン渦(2005/11/18)(約600Kb) http://www.data.kishou.go.jp/satellite/jirei/sat200511.pdf

*5:【音の基準】1秒間に 440回(Hz)空気が振動する時の音が、日本では「ラ」の音、欧米では「A4」の音で、「A0」は、ピアノの最低音の「ラ」。ピアノの鍵盤は、本体にある弦を押さえている状態なので、倍音は通常の状態では発生しない。

*6:倍音】基本となる音の周波数の他に、その2倍・3倍・・・と整数倍の周波数の振動がいくつも生じる。それぞれの振動による周波数の音のことを「倍音」と言う。例えば「ド」の音を出すと、「ド」の音と同時に「1オクターブ上のド」「2オクターブ上のド」…と、色々な音が一緒に鳴っている。オーケストラの演奏では、様々な楽器から出る倍音が重なり、倍音の含まれ方により、聞き心地の良し悪しに影響が有る。

*7:Kitaraファーストコンサート】は、財団法人札幌市芸術文化財団の主催で「子どもたちに、よい環境でよい音楽を」という趣旨で、2004年から始められている。2005年は札幌市内の小学校6年生、約16,000人を対象にコンサートを行った。