スパイシーな開拓史 〜スープカレー〜


■札幌とカレー


北海道大学の前身、札幌農学校の初代教頭はかの有名なクラーク博士でした。

  • 北大キャンパス内のクラーク像 (撮影:2006/1/19)


彼の名言は「青年よ大志を抱け」だけではありません。
札幌農学校の学生の、貧弱な身体を見た博士はこうのたまいました。


「生徒ハ米飯ヲ食スべカラズ。但シライスカレーハ是二非ズ」


この話が本当かどうかは、記録が残っていないので定かではありません。
しかし、寮食が日替わりでパンと肉、ライスカレーだったことは確かです。


そんなカレーとともに育ってきた札幌の地で、今人気なのがスープカレーです。
スープカレーとは、小麦粉を用いない、さらさらしたカレーのことで、
1970年に札幌のアジャンタ薬膳カリー店が開発したのが発祥と言われています。


筆者がよく訪れるPicante(ピカンティ)もそのスープカレー店の一軒です。

  • Picante入り口 (撮影:2006/1/17)


「スパイス自体をはっきりと効かせたカレーを作ろう」と考えた店長は、
8ヶ月間インドに滞在し、現地人からカレーの作り方を学びました。
その際学んだレシピで30種類以上のスパイスを調合し、
豚骨と鶏ガラを長時間煮込んだスープをベースに作っているのだそうです。
味の決め手となっているのは、やはりこのスパイスだと言います。

  • Picanteのカレー、開闢チキンレッグ③番納豆トッピング (撮影:2006/1/17)


■スパイス(香辛料)とは…?

スパイスとは、植物の様々な部位から得られるもののうち、
刺激性の香味を持ち、飲食物を風味づけたり、着色したり、
食欲を増進させたり、消化吸収を助けたりする働きのあるものの総称です。


スパイスのほとんどは、植物の「二次代謝産物」です。
植物は、生きるために、体内で様々な物質を作ります。
アミノ酸、糖、脂質、タンパク質など、他の生物の体にもあって
基本的な生命の維持に必要な物質を「一次代謝産物」と言います。
厳しい環境に住む植物や、特定の動物に食べられやすい植物は、
自分の身を守るため、さらにその植物特有の「二次代謝産物」を作ります。
二次代謝産物のうち、食べ物の風味づけに使えるものがスパイスなのです。


二次代謝産物は、他の生物に、強い影響を与えることが多くあります。
スパイスにも、様々な効果が見られます。
たとえばナツメグオールスパイスなどには、
ヒトに寄生する回虫などを殺す、強い殺虫物質が含まれています。
寄生虫の多い、暑い地方でこれらをよく食べるのにも納得がいきます。
(薬の生薬成分も、経験的に使うようになった有効な二次代謝産物です。)
抗菌作用や、体内の有害な酸素を取り除く、抗酸化作用を持つものもあります。


■トウガラシは元気のもとになるスパイス


カレーに辛味を与えるスパイスのひとつが、トウガラシです。
ピカンティのスープカレーにも、辛さ3番以上を頼むと
青唐辛子と赤唐辛子(ピッキーヌ)が入ってきます。


さらに、世界一辛いと言われる、ハバネロを入れることもできます。
店員さんによると、ハバネロの辛さは
唐辛子より酸味のある、さっぱりした辛さなのだそうです。


さて、このトウガラシはメキシコが原産の、ナス科の植物です。
トウガラシの辛味成分は「カプサイシン」という物質です。
味つけの他に、殺菌、防腐の作用もあり、
食品の保存料としても昔から重宝されてきました。

カプサイシンの構造)


カプサイシンは、体のエネルギー生産を高め、食欲を増やしてくれます。
胃や腸で吸収されたカプサイシンは、交感神経を刺激し、
副腎(ふくじん)からアドレナリンというホルモンがたくさん分泌されます。
その結果、エネルギーの生成が促進されます。


クラーク博士がこのことを知っていたかはわかりませんが、
カレーの中のカプサイシンで、学生たちも元気もりもりだったことでしょう。

(文章・写真・イラスト タナカマイ)最終更新:2006/2/27 ver1.0

【公式サイト】


【住所】

  • 北区北13条西3丁目 アクロビュー北大前1F

(詳細は公式サイトをご覧ください)


【参考文献】

  1. 『スパイスのサイエンス』武政三男 文園社
  2. 『食品栄養学』木村修一、吉田昭 文永堂出版
  3. 『天然医療資源学』竹田忠紘、吉川孝文、高橋邦夫、斉藤和季廣川書店
  4. 『本格カレー入門』エクスナレッジムック
  5. wikipedia (web)